ID番号 | : | 08719 |
事件名 | : | 賃金請求控訴事件(3号)、損害賠償請求附帯控訴事件(65号) |
いわゆる事件名 | : | コンドル馬込交通事件 |
争点 | : | タクシー会社が元従業員に事前交付金と研修費用の返還を請求した事案(会社一部敗訴) |
事案概要 | : | タクシー会社Xが、元従業員Yに対し、不当利得に基づいて事前交付金の返還を、研修費用返還合意に基づいて費用返還を、それぞれ求めた事案の控訴審判決である。Yは、請求原因事実を否認するとともに、Xに対し慰謝料請求権と未払賃金請求権があり、これとの相殺を主張した。 第一審の東京簡裁は、おおよそXの主張を容れ、一部Yの未払賃金請求権の存在も認めた上で相殺を認める判決を言い渡した。これに対しYが控訴。 第二審の東京地裁は、まず事前交付金については給与前渡金(給与の弁済期の繰上げ)とみるのが相当であり、不当利得返還請求には理由がないとし、また、研修費用返還請求権については、費用支払を免責されるため就労期間が2年であったことは、タクシー乗務員Yらの自由意思を不当に拘束し労働関係の継続を強要するものではなく、したがって、返還条項は雇用契約の継続を強要するための違約金を定めたものとはいえず、労働基準法16条に反しないとして、Xの請求権を認めた。さらに、Yの慰謝料請求権による相殺の主張については、慰謝料請求権自体は否認したが、未払賃金請求権に基づく相殺についてはYの主張を認め、結果として第一審を支持し控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法16条 労働基準法17条 労働基準法24条 民法703条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働者の損害賠償義務 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求 退職/金品の返還/金品の返還 |
裁判年月日 | : | 2008年6月4日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成20(レ)3、平成20(レ)65 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例973号67頁 労経速報2018号16頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 〔退職-金品の返還-金品の返還〕 事前交付金の性質については、これを給与前渡金(給与の弁済期の繰上げ)とみるのが相当である。 (2) 事前交付金が給与前渡金であることから、被控訴人は控訴人に弁済期前に給与そのものを支払ったということになる。そして、被控訴人は控訴人の平成17年6月分の給与として5万9248円を保管しているのであるから、少なくとも、控訴人は被控訴人に対し本件雇用契約に基づく5万9248円の支払を受ける権原を有しているものと認められる。 したがって、控訴人は被控訴人から支払を受けることができる額の賃金を受け取ったにすぎず、事前交付金を法律上の原因なくして利得したものとはいえない。 (3) してみると、控訴人に対する不当利得返還請求としての5万5000円の支払請求には理由がない〔中略〕 控訴人は、本件雇用契約の締結に際し、本件誓約書及び養成乗務員取扱規則に署名押印して、被控訴人との間で、研修費用返還条項を前提として、本来控訴人が負担すべき費用を被控訴人が立替払することで、交通センターでの研修を受けることを合意したものと認めるのが相当である。〔中略〕 第2種免許の取得は被控訴人の業務に従事する上で不可欠な資格であり、その取得のための研修は被控訴人の業務と具体的関連性を有するものではある。 しかしながら、第2種免許は控訴人個人に付与されるものであって、被控訴人のようなタクシー業者に在籍していなければ取得できないものではないし、取得後は被控訴人を退職しても利用できるという個人的利益がある(現に控訴人はこの資格を利用して転職している。)ことからすると、免許の取得費用は、本来的には免許取得希望者個人が負担すべきものである。 そして、研修費用返還条項によって返還すべき費用も20万円に満たない金額であったことからすると、費用支払を免責されるための就労期間が2年であったことが、労働者であるタクシー乗務員の自由意思を不当に拘束し労働関係の継続を強要するものであるとはいい難い。 したがって、研修費用返還条項は、本件雇用契約の継続を強要するための違約金を定めたものとはいえず、労働基準法16条に反しないと解するのが相当である。 (3) したがって、被控訴人は、控訴人に対し、研修費用返還条項に基づき、研修費用19万9500円の返還を請求できるというべきである。〔中略〕 事前交付金額を本来の給与の支払期日において本来の給与額から控除したことは、労働基準法17条に反しないから、これを前提とする控訴人の被控訴人に対する慰謝料請求権は成立しない。 したがって、前記慰謝料請求権を自働債権とし、被控訴人の控訴人に対する(不当利得返還請求権及び)研修費用返還請求権を受働債権とする相殺の抗弁については理由がない。〔中略〕 控訴人は、募集広告に日額2万円と記載されていたので、その金額を給与として当然もらえるものと思っており、契約時には被控訴人に確認する必要もないと思ったので確認しなかった、内勤は日額6000円であると同僚から聞いたなどと供述するところ、このような経緯では、被控訴人と控訴人の間に控訴人主張の給与額の合意があったとは認めるに足りない。 むしろ、証拠(〈証拠略〉)によれば、控訴人が署名押印した養成乗務員取扱規則には、研修期間中の給与額等が明確に記載されており、被控訴人においては、これを担当者が説明することになっていたことが認められ、控訴人も、その内容を了知した上で署名押印したことが推認されるのであって、本件雇用契約において、給与額は、養成乗務員取扱規則のとおり合意されたと認めるのが相当である。〔中略〕 労働基準法24条は、法令の定めや労使協定により認められている場合を除き、使用者が一方的に給与を控除することを禁止するものであり、ただ、合意による控除の場合、その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り、控除が許される場合があるというべきである。〔中略〕 結局、控訴人が寮費の給与からの控除に合意したこと自体、これを認めるに足りる証拠がないというべきである。〔中略〕 控訴人は本件雇用契約に基づき平成17年5月16日から同年6月6日まで別紙2のとおり稼働し、これに対する同月分の賃金として12万4800円の支払を請求できるところ、すでに給与の前払金として5万5000円の支払を受けているほか、社会保険料等2万5552円が控除されるから、具体的には、4万4248円の支払を請求できるとするのが相当である。 したがって、控訴人が被控訴人に対する前記未払賃金請求権を自働債権とし、被控訴人の控訴人に対する研修費用返還請求権を受働債権とする相殺の抗弁は理由がある(この結果、被控訴人が控訴人に請求できる研修費用額は15万5252円となる。)。 |