ID番号 | : | 08722 |
事件名 | : | 遺族補償給付不支給処分取消等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東急リゾート・中央労働基準監督署長事件 |
争点 | : | リゾートマンション等の販売関連会社従業員の急性心筋梗塞死につき、妻が遺族補償給付等不支給処分の取消しを求めた事案(妻勝訴) |
事案概要 | : | リゾートマンション、ゴルフ会員権等の販売代理、売買の仲介等を事業とする会社Aで、別荘地、リゾートマンション等の販売関連業務に従事していた従業員Bが急性心筋梗塞の発症により死亡したことにつき、妻Xが遺族補償給付及び葬祭料を申請したところ、労働基準監督署長Yのなした不支給処分の取消しを求めた事案である。 東京地裁は、Bが6か月間にわたり継続して従事した業務は、〔1〕労働時間の量からみても、時間外労働時間が、年末年始の長期休暇を含む発症前6か月目を除いた5か月の平均が78時間19分であり、特に発症前4か月目、5か月目は80時間を超えていることからして、新認定基準のいう「発症前2ないし6か月間」において「おおむね80時間を超える時間外労働」がある場合にほぼ相当すること、〔2〕業務内容からみても、相当の身体的・肉体的負荷を与える過重なものであったとした。他方、〔3〕高血圧症が重症化して血管病変が進行し、虚血性心疾患が発症する可能性も一定程度認められるとしても、その血管病変が確たる発症の危険因子もなく、その自然経過により本件疾病を発症させる寸前まで増悪していたとまではいえず、したがって、心臓疾患は6か月にわたる上記過重業務がBの有する素因等を自然経過を超えて増悪させた結果生じたものと評価せざるを得ないとして、業務との相当因果関係(業務起因性)を認めXの請求を認容した。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法5条1項1号 労働者災害補償保険法16条 労働者災害補償保険法17条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性 労災補償・労災保険/業務上・外認定/脳・心疾患等 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/遺族補償(給付) 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/葬祭料 |
裁判年月日 | : | 2008年6月25日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成18行(ウ)187 |
裁判結果 | : | 認容(確定) |
出典 | : | 労働判例968号143頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-葬祭料〕 これらの事実及び医学的知見等を総合考慮すると、亡太郎の死亡原因である本件疾病(心臓疾患)は急性心筋梗塞による心停止であったと推認するのが相当である。〔中略〕 亡太郎の従事した業務及びこれによるストレス等と本件疾病(心臓疾患である急性心筋梗塞による心停止)の発症との間には、前記医学的知見等を踏まえた社会通念に照らし、業務がなければ本件疾病は発症しなかったという関係を是認し得る程度の高度の蓋然性があるものと認めるのが相当である。〔中略〕 亡太郎の死亡前6か月間の就労状況は、別紙「労働時間集計表」13ないし18のとおりであると認められる〔中略〕ところ、時間外労働時間(1日8時間を超える時間)は、発症前1か月目で57時間15分、2か月目で76時間45分、3か月目で58時間15分、4か月目で97時間00分、5か月目で102時間20分、6か月目で23時間30分であり、年末年始の長期休暇を含む発症前6か月目以外では1か月当たり45時間を超えており、この6か月の平均は69時間10分、特に年末年始の長期休暇を含む発症前6か月目を除いた5か月の平均は78時間19分であり、特に発症前4か月目、5か月目は80時間を超えている。 一方、別紙「労働時間集計表」13ないし18の「勤務地・休日」欄記載のとおり、亡太郎は、年末年始の長期休暇を除けば、各週1日ないし2日、発症前1か月目で5.5日、2か月目で5日、3か月目で8日(代休2日を含む。)、4か月目で6日(代休2日を含む。)、5か月目で4日(代休2日を含む。)、6か月目で13日(年末年始等の所定休日7日を含む。)、それぞれ休暇・休日を取得しており、一部代休を取得できていないところがあるが、休日・休暇の取得ができていないとまではいえない。〔中略〕 亡太郎の発症前6か月間従事した業務は、多数回の出張業務を含むものであり、回数も多く、特に、草津販売事務所や軽井沢の顧客、前橋地方法務局中之条支局への出張は長時間の自家用車の運転を伴うものであって、相当の身体的負荷を与える性質を有しており、また、時間外労働が恒常化し、平成14年2月及び同年3月の販売強化期間、同年4月中旬から同年6月までの宣伝集中期間が重なり、リーダー・営業主任として、営業成績を上げることを求められていたことから、業務による身体的・精神的負担は相当程度重かったということができる。〔中略〕 亡太郎は、高血圧症が重症化して血管病変(冠動脈硬化)が進行し、本件疾病発症の前においては、虚血性心疾患が発症する可能性も一定程度認められる状態にあったとはいい得るけれども、その血管病変が、確たる発症の危険因子がなくても、その自然経過により脳・心臓疾患を発症させる寸前まで増悪していたとまで認めることは困難である。〔中略〕 平成13年12月から平成14年6月までの6か月間にわたり継続して亡太郎が従事した業務は、労働時間の量からみても、その時間外労働時間が、年末年始の長期休暇を含む発症前6か月目を除いた5か月の平均が78時間19分であり、特に発症前4か月目、5か月目は80時間を超えていることからして、新認定基準のいう「発症前2ないし6か月間」において「おおむね80時間を超える時間外労働」がある場合(第2の1(4)イ(ア)c、(イ)c、(b)〈2〉)にほぼ相当するものであり、また、業務内容からみても、相当の身体的・肉体的負荷を与える過重なものであったといえる(第3の2(3)ア、イ)。 他方、亡太郎は、高血圧症が重症化して血管病変(冠動脈硬化)が進行し、虚血性心疾患が発症する可能性も一定程度認められる状態にあったとはいい得るけれども、その血管病変が、確たる発症の危険因子がなくても、その自然経過により本件疾病を発症させる寸前まで増悪していたということは困難である(第3の2(3)ウ)。 したがって、本件疾病たる心臓疾患(急性心筋梗塞による心停止)は、6か月間にわたる上記過重業務が亡太郎の有する素因等を自然の経過を超えて増悪させた結果生じたものと評価せざるを得ず、業務との相当因果関係(業務起因性)を肯定するほかない。 3 以上の次第であり、亡太郎の死亡原因である本件疾病は、その従事した業務に起因するものあるといえるから、これを業務上の死亡ではないとする本件処分は違法であって、原告の本訴請求は、理由があるから認容することとする。 |