全 情 報

ID番号 : 08736
事件名 : 障害補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 : 栃木労働基準監督署長事件
争点 : 建設機械メーカー従業員が上司のパワハラ等による精神障害について障害補償給付不支給処分の取消しを請求した事案(従業員敗訴)
事案概要 : 建設機械メーカーA工場油機製造部油機工作課に勤務していた社員Xが、A工場での業務の遂行等に際して上司から精神的・肉体的な暴力を多数回にわたって受けたこと等により、外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして障害補償給付を申請したところ、労働基準監督署長Yのなした不支給処分の取消しを求めた事案である。 東京地裁は、Xの業務にはXが主張するような精神的・肉体的な暴力や長時間労働などの過重な心理的負荷は認められず、また心理的負荷による精神障害の業務上・外の判断において業務による心理的負荷の強度の評価をする際には、本人がその心理的負荷の原因となった出来事をどのように受け止めたかという主観的なものではなく、平均的労働者が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価することが相当であるとした。その上で、上司からの厳しい指導等による心理的負荷が、平均的労働者を基準として精神的破綻を生じさせる程度のものとは認められない以上、業務起因性を認めることはできず、したがって、Xに発症した精神障害が業務上の事由による疾病とは認められないとの本件処分に違法はないとして、Xの請求を棄却した。
参照法条 : 労働者災害補償保険法15条
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性
労災補償・労災保険/業務上・外認定/脳・心疾患等
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/障害補償(給付)
裁判年月日 : 2008年10月16日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19行(ウ)210
裁判結果 : 棄却
出典 : 労経速報2029号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
平成5年9月1日から平成6年1月ころまでの間、原告は、L主任から、厳しい指導を受けることがあり、しかられることも度々あったという事実を推認することができ、それによる心理的負荷が原告に発症した精神障害のきっかけのひとつとなったという余地はあるが、原告の主張するようなL主任の精神的・肉体的な暴力の事実は認められないから、その心理的負荷が、平均的労働者を基準として、精神的破綻を生じさせる程度のものであったとまでいうことはできない。〔中略〕
原告が時間外残業を余議なくされることがあったとしても、それが原告が主張するような恒常的で過酷なものであったとは認められず、時間外残業による心理的負荷がそれ自体過重なものであったということはできない。原告の精神的破綻を助長するような程度に至っていたと認めることもできない。
 前記2(1)の原告が従事した業務をみても、過度に緊張を強いられるようなものとはいえないし、他に原告の業務において過重な心理的負荷があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、L主任による前記の叱責と残業及び原告の従事した業務内容を併せて考慮しても、心理的負荷が過重であったとは認められない。〔中略〕
原告の業務には精神的・肉体的な暴力や長時間労働などの過重な心理的負荷は認められず、原告が精神障害を発症したことについて業務起因性を認めることはできないから、原告に発症した精神障害が業務上の事由による疾病とは認められないとした本件処分に違法はない。〔中略〕
原告は、精神的・肉体的な暴力を受けて原告が死ぬような恐怖感を感じたと主張しているが、前述のとおり、原告がL主任から肉体的な暴力を受けた事実は認められず、厳しい指導や叱責についても、極度のいじめや虐待という態様のものと認めることはできないから、PTSDであるとするための要件を満たすものでないことは明らかである。
 これに対し、原告は、PTSDの診断に当たっては、主観的な恐怖等が強度であれば、客観的な出来事の程度が強度でなくても診断基準に該当するとするのが最近の知見・傾向であると主張する。
 しかし、仮に、主観的な恐怖等が強度であればPTSDであると診断されるとしても、前述のとおり、心理的負荷による精神障害の業務上外の判断において、当該精神障害の発症に関与したと認められる業務による心理的負荷の強度の評価をする際には、本人がその心理的負荷の原因となった出来事をどのように受け止めたかという主観的なものではなく、平均的労働者が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価することが相当であるから、前記2及び3において判示したとおり、L主任からの厳しい指導等による心理的負荷が平均的労働者を基準として、精神的破綻を生じさせる程度のものとは認められない以上、業務起因性を認めることはできない。