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ID番号 : 08738
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 報徳学園(雇止め)事件
争点 : 学校法人美術科常勤講師が、更新拒絶を無効として地位確認及び雇止め後の賃金の支払を請求した事案(講師勝訴)
事案概要 : 中学・高校を設置している学校法人Yに採用され1年間勤務し、1年おいて再び採用され常勤講師となりさらに3度更新した後に雇止め(更新拒絶)された美術科常勤講師Xが、更新拒絶には合理的理由がなく、解雇権濫用法理の適用又は準用により無効であると主張して、地位の確認及び賃金の支払を求めた事案である。 神戸地裁尼崎支部は、法人の言動には解雇予告としての明確性や確定性に欠け、また雇用回数制限について言及があったとの事実も認定できないし、講師もそのように了解していたとも評価できないことから、解雇予告はなされておらず、本件雇止めを解雇予告の効果としての雇用契約の終了であるとすることはできないとした。次に、解雇権濫用法理類推適用について、本件契約が期間の定めのないものと実質的に同視できるものとは認め難いが、常勤講師として採用された者の多くがその後専任教諭として採用されており、評価次第では専任教諭として採用されることを期待するのは合理的なものということができるから、本件雇止めには解雇権濫用法理が類推適用され、3年限度の内規について十分に説明がなされ、被用者の納得を得ていたとの事情のない本件においては、雇止めに合理的理由は見当たらず、雇止めが解雇であれば権利濫用又は信義則違反により無効にとされるような事実関係の下でなされたものであるとして、請求を認容した。
参照法条 : 労働基準法20条
労働基準法2章
労働基準法9章
体系項目 : 解雇(民事)/解雇予告/期間満了と解雇予告
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用
裁判年月日 : 2008年10月14日
裁判所名 : 神戸地尼崎支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)551
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例974号25頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-解雇予告-期間満了と解雇予告〕
〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔解雇(民事)-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕
解雇予告は明確かつ確定的な意思表示であることを要するところ、〔中略〕原告は、C校長らに上記のとおり尋ねられ、そのような制限については知らない旨応答し、平成19年度の雇用について尋ね、G中学校長から平成19年度については白紙であると告げられて、報徳でずっと美術を教えていきたいと考えている、次年度はよろしく頼む旨告げているのであって、このような原告の対応及びC校長らの上記言動内容にかんがみ、被告側の上記言動は、解雇予告としての明確性や確定性に欠けるものであったと評価すべきであるから、被告側の上記言動をもって、被告が原告に対し平成18年度雇用契約に解雇予告を付す旨の意思表示をしたものと認めることはできない。〔中略〕
平成18年度雇用契約に解雇予告が付された事実を認めることはできず、本件雇止めを、解雇予告の効果としての雇用契約の当然終了であると評価することはできない。これに反する被告の主張は採用できない。〔中略〕
本件において、原告及び被告との間に、期間の定めを形式的なものとする旨の意思又は期待等があるとは認められず、本件契約が期間の定めのないものと実質的に同視できるものとは認められない。〔中略〕
本件各雇用契約において雇用継続に関する原告の期待利益に合理性があるかについてみると、原告は、平成16年度に常勤講師として採用された際、常勤講師としての勤務に対する評価次第では専任教諭として採用されることを期待していた旨供述しているところ、そもそも、常勤講師制度の導入趣旨は、〔中略〕専任教諭採用のための実質的試用期間を設けることにあり、実際に、被告においては、〔中略〕常勤講師制度が採用された平成14年度以降、常勤講師として採用された者の多くがその後専任教諭として採用されている状況にあり、常勤講師の職務内容や勤務状況等をみても、〔中略〕専任教諭の勤務とほぼ変わるところのないものであったことが認められるのであるから、被告における常勤講師制度の上記導入趣旨及び運用状況について、被告の非常勤講師としての勤務などを通じて認識していた原告が、常勤講師としての職務が臨時的・補充的なものであると認識する余地はなく、平成16年度に常勤講師として採用されるに当たり、常勤講師としての勤務に対する評価次第では専任教諭として採用されることを期待することは合理的なものということができる。加えて、原告は、平成16年度に常勤講師として採用されるに先立ち、〔中略〕B校長から、1年間頑張れば専任教諭になれる旨の激励を受けていたものであるから、原告の上記期待の合理性の程度は一層高いものというべきである。〔中略〕
原告は、上記期待のもと、平成16年度において常勤講師として勤務したものと認められるところ、〔中略〕平成16年度において、原告は、公開授業で高評価を受け、かつ、平成17年度雇用契約に当たり、B校長から、本来なら専任教諭に採用するところである旨告げられ、さらに、平成17年度は中学校のクラス担任を任されることとなったことが認められる。被告学園において、クラス担任は通常は専任教諭が担当するものとされていることに加えて、クラス担任を任せるには、その能力や資質等に対するある程度の評価・信頼を要するものと考えられることにもかんがみ、これらの事情は、いずれも、被告が原告の勤務について何ら問題がない旨評価していたことを示すものということができるから、このような評価を受けた原告が、平成17年度雇用を通じて、継続雇用の期待を更に強めたことには十分な合理性があるものと認めることができる。〔中略〕
C校長らが原告に対し告げたとする上記雇用回数制限については、原告を含む常勤講師らに対し、制度導入当時から周知されていたものではなく、平成18年度雇用契約に当たり、C校長らから初めて常勤講師らに告げられるに至ったものであることが認められる。この点につき、C校長は、上記雇用回数制限は常勤講師採用時にE校長が既に提唱していたものであり、常勤講師らは上記雇用回数制限を当然に認識していたはずである旨証言するが、B校長は、上記雇用回数制限について常勤講師らに話したことがない旨証言しており、かつ、原告も、上記雇用回数制限についてC校長から聞かされるまでは知らなかった旨供述していることにかんがみ、少なくとも原告については、上記機会以前には上記雇用回数制限について認識する機会がなかったものと認められ、制度導入時からこの点の周知がされていた事実は認めることができない。
 そうすると、C校長らは、原告に対し、常勤講師の雇用回数制限について、平成18年度雇用契約に当たり、初めて告げたものとみることとなるところ、原告は、C校長らから上記雇用回数制限について告げられる前の時点において、〔中略〕既に雇用継続に関し強い期待を有していたことが認められ、かつ、上記期待を有するにつき高い合理性があると認められるのであるから、このような原告の期待利益が遮断され又は消滅したというためには、雇用の継続を期待しないことがむしろ合理的とみられるような事情の変更があり、または、雇用の継続がないことが当事者間で新たに合意されたなどの事情を要するものというべきである。〔中略〕
C校長らから前記言動があった事実をもって、原告の雇用継続に対する期待利益が消滅したものとは認められず、このほかに、原告が雇用の継続を期待することを合理的とみることのできない事情も見受けられないから、原告は、本件雇止めの時点において、継続雇用を期待していたものと認められ、かつ、雇用継続に関する原告の上記期待利益には合理性があるものと認めることができる。〔中略〕
本件各雇用契約は、雇用期間を定めて契約が締結されたものである上、常勤講師制度の導入趣旨が〔中略〕試用期間としての趣旨を含むものであって、次年度の雇用に関し、使用者である被告の評価・判断が入ることが当然に予定されているものと認められるから、本件各雇用契約につき、期間の定めのない雇用契約と比較して、次年度の雇用に関する被告の裁量の範囲は広いものというべきである。
  (イ) しかし、〔中略〕原告の勤務に対する被告の評価は良好であったものと認められ、〔中略〕原告の常勤講師としての適性や資質等に問題があることをうかがわせるような事情は見当たらない。〔中略〕
被告学園では、原告の雇止め後である平成19年度において、美術科の授業時間数が週14時間となり、美術科の上記授業を担当させるため、新たに非常勤講師1名を採用していることが認められ、専任教諭が通常担当する授業時間数が週15時間程度(うち、クラス担任を担当する専任教諭については、報徳講話と呼ばれるホームルームに充てられる時間が週1時間存在する。)とされていることにもかんがみ、被告において、原告を常勤講師として継続雇用することができない経営上又は授業運営上の必要性があったものとは認められない。〔中略〕
本件雇止めの実質的理由は、常勤講師の雇用を3回を限度とする旨の内規によるところが大きいことがうかがわれるが、そもそも、上記内規自体、有期雇用契約が更新を繰り返すことで実質的に期間の定めのない雇用契約と同視される状態となることを避けるために設けられたものであることがうかがわれ、〔中略〕雇用継続に関する期待が生じるに先立って、上記内規について十分に説明がされ、被用者の納得を得ていたような事情のない本件において、上記のような内規に基づいてされた雇止めを合理的なものということができないことは明らかである。
  (オ) よって、本件各雇用契約において、雇用継続の有無に関する被告の裁量の範囲が広いことを考慮しても、なお、本件雇止めに合理的理由は見当たらず、本件雇止めが解雇であれば権利濫用又は信義則違反により無効にとされるような事実関係の下でされたものとして、本件雇止めは無効であると認められる。
4 したがって、本件雇止めは無効であるから、平成18年度雇用契約の期間満了後における原告と被告の法律関係は従前の雇用契約が更新されたのと同一のものとなり、原告は、平成19年3月26日以降も、被告の常勤講師としての地位を有することとなる。
 なお、上記常勤講師の雇用契約は、従前の雇用契約と同様に期間の定めのあるものとなるが、本件において、上記契約更新後に、原告を雇い止めすることが合理的とみられるような事情が新たに生じた事実は認められないから、上記更新後の雇用契約は、その雇用期間の満了時において、従前の雇用契約が更新されたのと同一のものとなり、現在まで継続しているものと認めることができ、原告は、被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあるとともに、これに基づき、被告に対し、各給与支払日における給与の支払及びこれに対する各遅延損害金の支払を請求することができることとなる。