全 情 報

ID番号 : 08744
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 大阪大学事件
争点 : 大学に任用され60歳に達して雇止めされた非常勤職員が地位確認と賃金支払を請求した事案(職員敗訴)
事案概要 : 国立大学Yに期限付任用され、任期満了ごとに退職と任用を繰り返し、Yの国立大学法人化後も期間有限の短時間勤務の非常勤職員として雇用されていた附属図書館事務補佐員Xが、60歳に達した時点で雇止めされたのに対し、地位の確認と賃金の支払を求めた事案の控訴審判決である。 第一審の大阪地裁は、就業規則には期間が明確に規定されており雇用契約は期間の定めがある契約であって、期間満了により終了したとして、原告の請求を棄却した。これに対し原告が控訴。 第二審の大阪高裁は、まず法人化前のXの地位について、任期満了ごとに退職と任用を繰り返してきたものであるところ、国家公務員法上、任用行為もないのに、期限付任用の非常勤国家公務員が期間の定めのない任用関係に転化するとの規定はないから主張は失当であり、法人化後のXとの雇用契約についても、法人化前と同様に期限付任用の取扱いになるとしても期待が侵害される余地はなく、そもそも任用予定期間の満了後に再び任用されることを期待する法的利益を有するものではないとした。その上で、常勤職員と非常勤職員とは雇用形態・職務内容が異なり、その差異は代替職員の確保にも影響を及ぼすからその区別は合理的区別といえ、退職年齢に差異があっても平等原則に違反し無効とはいえないとして、控訴を棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
労働基準法9章
体系項目 : 解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2008年11月27日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(ネ)2121
裁判結果 : 棄却
出典 : 労経速報2028号3頁
審級関係 : 第一審/大阪地/平20. 7.11/平成19年(ワ)3059号
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 1 当裁判所も、控訴人の請求は全部理由がないと判断するものであり、その理由は、原判決「事実及び理由」欄第4「当裁判所の判断」の1ないし6(原判決13頁3行目から16頁25行目まで)に認定・説示するとおりであるから、これを引用する。
 2 当審における控訴人の主張に対する判断
 (1) 被控訴人法人化前の控訴人の地位について
 控訴人は、昭和54年の任用以来平成15年4月の任用まで23回更新を繰り返してきたこと等を考慮すると、遅くとも平成15年4月1日時点では期間の定めのない任用関係に転化した旨主張するが、前記前提となる事実のとおり、控訴人は昭和54年11月19日以来平成16年3月30日まで期限付任用に係る非常勤の国家公務員として、毎年4月1日に翌年の3月30日までを任期として、任期満了ごとに退職と任用を繰り返してきたものであるところ、国家公務員法上、任用行為もないのに、上記のような期限付任用の非常勤国家公務員が期間の定めのない任用関係に転化するとの規定はないから、控訴人の上記主張は失当である。
 (2) 被控訴人法人化に伴う控訴人との雇用契約について
 ア 控訴人は、仮に、法人化前の控訴人の法的地位が期間の定めのない任用関係と評価できないとしても、法人化前23回もの多数回にわたって任用更新を繰り返してきた就労実績に照らせば、控訴人の任用が更新されるとの期待は法的に保護されるべきであり、法人化に当たって雇用契約が締結される際には、かかる期待が十分に保護されなければならない旨主張するが、上記のとおり、法人化前の期限付任用の非常勤国家公務員は、国家公務員法上、期間の定めのない任用関係に転化することはなく、任用予定期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできないから(最高裁判所平成6年7月14日第一小法廷判決・集民172号819頁参照)、法人化に当たって雇用契約が締結される際に、上記法人化前の期限付任用の非常勤国家公務員時代と同様に期限付任用の取扱いになるとしても、控訴人主張の期待が侵害される余地はなく、したがって、上記期待権の存在を前提とする控訴人の主張は採用できない。
 イ 控訴人は、法人化に伴い締結された平成16年4月1日付け雇用契約の雇用期間の定めは、継続的な勤務関係における労働条件の不利益変更と同視でき、控訴人がこれに同意していない以上無効である旨主張するが、上記のとおり、控訴人は期間の定めのない任用関係にあったものではなく、上記雇用契約における雇用期間の定めは、そもそも継続的な勤務関係における労働条件の不利益変更に該当しないから、控訴人の上記主張は、その前提を欠き失当である。
 ウ 控訴人は、仮に、継続的な勤務関係の労働条件の変更と評価できない場合であっても、法人化を契機に雇用期間を1年と区切ることは公序良俗に反し無効というべきである旨主張するが、上記のとおり、非常勤職員は、法人化前においても雇用期間を定められた雇用関係にあり、法人化を契機に雇用期間を1年と区切ったものではなく、また、法人化によって国家公務員法の適用を受けなくなったとしても、そのことから直ちに期間の定めのない雇用契約に転化するものではないから、控訴人の同主張も採用できない。
 エ 控訴人は、被控訴人の行為は、法人化に伴い新規に契約を締結することを奇貨として、あえて有期の雇用契約締結を求めるものであり、労働者に比して圧倒的優位にある地位を濫用するものとして公序良俗に反する旨主張するが、上記のとおり、法人化の前後において期限付任用の地位に変更はないから、控訴人の同主張も理由がない。
 (3) 被控訴人法人化により制定された就業規則の効力について
 ア 控訴人は、被控訴人が法人化した平成16年4月1日時点において、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正が議論され、60歳を超えて雇用継続されることが当然に期待されるというのが社会通念であったことからすれば、非常勤職員就業規則2条が雇用期限を満60歳に設定することに合理性はなく、また、法人化前は、控訴人は60歳を超えても働き続けるとの期待を有していたから、控訴人に対し、同条を適用して雇い止めすることは公序良俗に反し無効である旨主張するが、法改正の議論があるだけで、同条が公序良俗に反するということはできないし、そもそも控訴人において、任用予定期間の満了後に再び任用されることを期待する法的利益を有するものでないことは前記のとおりであるから、上記主張は理由がない。
 イ 次に、控訴人は、常勤職員は65歳までの再雇用が可能であり、大学が特に認めたときは65歳を超えて勤務することも可能であるのに、非常勤職員就業規則2条によれば、非常勤職員は原則として60歳を超えて労働契約が更新されることがないから、同条は平等原則に違反し無効である旨主張するが、書証(略)によれば、常勤職員は常時勤務する教職員であり、非常勤職員は主として教育・研究の業務又は診療の業務(医師及び歯科医師の業務に限る)以外の業務に従事するため期間を定めて雇用される非常勤職員のうち、その所定労働時間が当該業務に従事するため被控訴人に常時勤務する職員より短い短時間勤務の職員であることが認められ、常勤職員と非常勤職員とは、雇用形態・職務内容が異なり、雇用形態・職務内容の差異は代替職員の確保にも影響を及ぼすから、上記の区別は合理的区別ということができ、したがって控訴人主張のような退職年齢に差異があっても平等原則に違反し無効であるということはできないから、控訴人の上記主張も採用できない。
 なお、控訴人は、非常勤職員は常勤職員と違い退職金もなく賃金も低いから、非常勤職員の方が満65歳まで勤務できる制度をより必要としている旨主張するが、控訴人の指摘する点は社会政策・立法の問題であって、就業規則の合理性とは別問題であるから、同主張も失当である。
 ウ 最後に、控訴人は、控訴人が60歳に達した後もなお雇用が継続されると期待したことは十分合理的であり、被控訴人が非常勤職員就業規則2条4項を控訴人に適用すれば、控訴人のかかる合理的な期待権を侵害することになり違法であるから、同条項は控訴人には適用されない旨主張するが、控訴人主張の期待が法的利益を有するものでないことは前記のとおりであるから、控訴人の上記主張も、その前提を欠き理由がない。