ID番号 | : | 08746 |
事件名 | : | 配転無効確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件 |
争点 | : | 電信電話会社の従業員と元従業員らが、配転命令を違法として慰謝料を請求した事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | 電信電話会社の従業員と元従業員23名(控訴審では21名)が、会社が行った雇用形態の変更に関する計画に基づく配転命令を違法として慰謝料を請求した事案の控訴審である。 第一審の大阪地裁は、〔1〕本件雇用契約には勤務地又は職種を限定する旨の約定はなく、雇用形態変更の元となる経営合理化計画実施の必要性を認め、〔2〕また、計画が脱法的なものでもなく、年齢による差別にも当たらないとして配転命令の必要性を肯定し、〔3〕本件配転命令が不当な動機・目的に基づくものでもないことから不当労働行為にも該当せず、手続に瑕疵もないとした上で、原告のうち3名についてのみ権利濫用を認め、損害賠償を命じた。 第二審大阪高裁は、概ね原審判断を肯定したが、配転命令のうち名古屋への配転を命じた「配転命令3」については業務上の必要性を認めることはできないとして否認した。その上で、「配転命令3」を受けた元従業員について、各人共通に考慮すべき事情、個別に考慮すべき事情の有無について検討し、慰謝料を命じた。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法709条 民法710条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用/配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 2009年1月15日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成19(ネ)1401 |
裁判結果 | : | 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例977号5頁 |
審級関係 | : | 一審/08662/大阪地/平19. 3.28/平成14年(ワ)第11728号 |
評釈論文 | : | 出田健一・季刊労働者の権利279号79~85頁2009年4月 |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕 第3 当裁判所の判断 1 争点1(一審原告らの労働契約における勤務地又は職種の限定の有無)について 当裁判所も、一審原告らの労働契約において、勤務地又は職種を限定する旨の約定はなかったと判断する〔中略〕 2 争点2(本件計画の必要性の有無)について 当裁判所も、本件計画については、平成14年5月の段階でこれを実施する必要性を認めることができると判断する〔中略〕 3 争点3(本件計画が脱法的なものであったか否か)について 上記争点に対する当裁判所の判断は、原判決がその103頁末行から同104頁13行目までに説示するのと同一であるから、これを引用する。 4 争点4(本件計画が年齢による差別に当たるか否か)について 上記争点に対する当裁判所の判断は、原判決がその104頁15行目から同107頁8行目までに説示するのと同一であるから、これを引用する。〔中略〕 5 争点5(本件配転命令における業務上の必要性の有無)について〔中略〕 (2) 業務上の必要性についての判断 上記認定事実に、前記2(争点2:本件計画の必要性)において認定判断したところや、配転に伴って生じる一般的な不利益を併せ考えると、本件配転命令1及び本件配転命令2については、その業務上の必要性を肯定することができるが、本件配転命令3については、既に一定の業務に就いている60歳満了型の従業員に新幹線通勤または単身赴任の負担を負わせる配転を実施してまでする業務上の必要性を認めることはできない。 ア 本件配転命令1について〔中略〕 しかし、そのような点を考慮してもなお、配転元で担当していた業務のなくなった従業員に対する新たな業務を創出する必要性や、一定の従業員を集結させて処遇する企業組織上の必要性は否定することができず、また、これにより上記一審原告らが担当した業務が、成果を上げにくい性質の業務であったにせよ、京阪神地区のブロードバンド市場における競争の状況に照らして、無意味なあるいは必要性のない業務ともいうことができないのであるから、そのような意味において、京阪神及び名古屋地区以外の支店に勤務していた一審原告A他3名を阪神地区に異動させて、新たな業務に就けたことには、高度のものではないにしても、業務上の必要性があったというべきである。 よって、本件配転命令1には、業務上の必要性が認められる。 イ 本件配転命令2について 本件配転命令2を受けた一審原告らについて、従前担当していた業務以外の新たな業務を担当させる必要があったことは、前記アにおいて説示したと同様であり、これらの業務は、大阪北・中央・南の各ソリューション営業部の特定の営業担当において担当することとされていたのであるから、当該営業部への配転(勤務場所の変更)を命じることにも、業務上の必要性があることは明らかである。 ウ 本件配転命令3について〔中略〕 本件配転命令3は、これを受けた一審原告らに対して、長時間の新幹線通勤又は単身赴任を余儀なくさせるものであったことを併せ考えると、本件配転命令3については、そのような負担を負わせてまで従業員を配転しなければならない程の業務上の必要性を認めることはできない。〔中略〕 6 争点6(本件配転命令が不当な動機・目的に基づくものであるか否か)について〔中略〕 本件配転命令1及び2の趣旨に照らすと、そのような業務が創出されたこともやむを得ないところがあるというべきであり、上記業務の態様から、一審被告に不当な動機・目的があるとまで推認することはできない。」 7 争点7(本件配転命令が不当労働行為に該当するか否か)について〔中略〕 (2) 不当労働行為性に対する判断 本件配転命令が不当労働行為に当たるかについては、本件配転命令についての業務上の必要性の有無及びその程度を考慮して、一審被告の反組合的意思(不当労働行為意思ないし支配介入意思)の有無等について総合的に判断すべきであると考えられる。 この観点から本件配転命令についてみるに、前記2で認定説示したとおり、一審被告における構造改革による組織の改編とそれに伴う業務の見直し及び人員の再配置(OS会社への移行)については、他の手段によっては代え難いものであり、その業務上の必要性は高度なものであったというべきであるところ、前記5で認定説示したとおり、本件配転命令1及び2に関する限りでは、本件計画が実施されたことにより、アウトソーシング対象業務に従事していた60歳満了型の従業員について、担当すべき業務がなくなったため、競争が激化していた地域において同従業員が担当すべき新たな業務を創出して、これを担当させるとともに、同従業員を一審被告の組織上効率的に処遇する目的でなされたものと認められるから、本件配転命令1及び2を発することは、業務上やむを得なかったものといえ、そのこと自体から、一審被告に不当労働行為意思があったと推認することはできないし、他に、これがあると認めるに足る証拠もない。〔中略〕 8 争点8(本件配転命令において適正な手続が執られていたか否か)について〔中略〕 この観点からすると、一審被告は、上記のとおり、構造改革の趣旨を明らかにした上、60歳満了型の従業員の性質を述べ、勤務地を問わない配転があり得ることを告知しているのであるから、本件配転命令1についても、その理由及び必要性を説明したというべきである。〔中略〕 しかしながら、後記9において、個別に検討するとおり、本件配転命令1を受けた一審原告A他3名については、結局のところ、本件配転命令1の発令を差し控えるべき事情があったとは認められないのであるから、本件配転命令1の発令にあたって、一審被告において、労働者個人からの事情聴取が十分でなかったとしても、そのことによって本件配転命令1が直ちに違法となるものではないというべきである。また、そのことは、遠隔地配転を含まない本件配転命令2においても同様であって、本件配転命令2の発令にあたって、一審被告において、労働者個人からの事情聴取が十分でなかったとしても、そのことによって本件配転命令2が直ちに違法となるものではないというべきである。 9 争点9(各一審原告らが本件配転命令により受けた不利益の程度等)及び争点10(各一審原告らの損害額)について (1) 本件配転命令1について〔中略〕 そこで、以下においては、上記各一審原告につき、本件配転命令1が権利の濫用と認められるべき特段の事情の有無について検討する。 なお、上記の検討にあたっては、使用者としては、配転命令の時点において認識していた事情を考慮の上で、当該従業員の生活関係にどの程度の影響が生じるかを検討し、配転命令に及ぶか否かを判断することになるのであるから、原則として、その時点において使用者が認識し、あるいは通常の業務の過程で容易に認識することのできた事情を基礎として判断することとする。 また、育児介護休業法26条は、事業主に対して、労働者の就業場所の変更に当たって、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない旨を定めているところ、本件配転命令が行われた平成14年5月以降当時には、同条が既に施行されていたのであるから、本件配転命令が権利濫用に当たるかを判断するに当たっては、同条の趣旨を踏まえて検討することが必要である〔中略〕 (2) 本件配転命令2及び同3について〔中略〕 したがって、一審原告Eほか16名の一審原告ら(一審原告番号5~16、18~20、22、23)に対し、現に営業職になかった者については営業職への転換を命じた上、大阪支店又は兵庫支店の営業担当部署への配転を命じる本件配転命令2を発したことは、業務上の必要があってなされたものと認められる。〔中略〕 したがって、上記一審原告らについて、上記各業務のため名古屋支店への配転を命じた本件配転命令3は、業務上の必要なくなされたものといわなければならない。 そこで、以下においては、上記一審原告らにつき、本件配転命令2が権利の濫用と認められるべき特段の事情の有無、並びに、本件配転命令3によって生じた損害に関し、各人に共通と考えられるもの、及び個別に考慮すべき事情の有無について検討する。〔中略〕 (ウ) これらの事実からすると、本件配転命令3によって、上記各一審原告らが受けた不利益のうち、特に長距離通勤や単身赴任によって同一審原告らが肉体的・精神的なストレスを受けたことは、その年齢とも相まって、軽視できないものがあるといわなければならない。 イ 一審原告E(一審原告番号5)について〔中略〕 一審原告Eに対する本件配転命令3は、一般に長距離・遠距離通勤を余儀なくされる労働者が受ける負担に加えて、上記の介護ができなくなったことによる負担を負わせるものであったというべきである。〔中略〕 ウ 一審原告F(一審原告番号6)について〔中略〕 本件配転命令3により、長時間の通勤によるストレスを受けるとともに、自宅で生活することのできる時間が短縮され、食事を規則正しく間隔を空けて摂ることや、運動療法に充てる時間等に、相当程度の制約を受け、また、医療機関を受診するのにも不便な状態となったものと認められる。〔中略〕 セ 一審原告R(一審原告番号18)について〔中略〕 本件配転命令3により、同一審原告が単身赴任を強いられたため、少なくとも週日にはこれができなくなったことに加えて、妻の肺ガンが再発した後には、家族としての十分な対応をとることができず、新幹線通勤や勤務時間の短縮が認められた後にも、妻の見舞等に大きな制約があったと認められるものである。〔中略〕 チ 一審原告V(一審原告番号22)について〔中略〕 本件配転命令3により、従前どおりにそのような介護をすることに差支えが生じたほか、配転後に発症した難聴については、夜遅い時間を割いたり、時間休を取得して、受診せざるを得ない状態に置かれたものである。 |