ID番号 | : | 08750 |
事件名 | : | 不当労働行為救済命令取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | |
争点 | : | 学校法人が、教職組の申立てを認め給与額の是正等を命じた中労委命令の取消しを求めた事案(法人敗訴) |
事案概要 | : | 学校法人が、教職員組合の申立てを認めて組合員2名の一時金及び給与の額の是正、未払分の支払、文書交付を命じた中労委命令を不服としてその取消しを求めた事案である。 東京地裁は、和解における賃金額は、平均的な非組合員の賃金額に比して大幅に低いものであり、また、各和解では、定められた賃金がその後の賃金決定の基礎となるとの合意はなかったのであるから、同賃金を前提として提示して賃金を引き上げないことは、組合員であることの故をもって不利益に取り扱うものであり、かつ経済的打撃を与えることにより組合の弱体化を企図してその運営に支配介入したもので、不当労働行為であるとした(一時金についても同様)。その上で、平均的な非組合員と同様の賃金となるよう是正を命じた中労委命令に裁量の逸脱はなく、正当であるとして訴えを斥けた。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働組合法7条 労働組合法27条2項 民法695条 民法696条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/組合間差別 賃金(民事)/賃金請求権の発生/協約の成立と賃金請求権 |
裁判年月日 | : | 2009年2月12日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成19行(ウ)582 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 判例時報2037号150頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 古川陽二・判例評論613(判例時報2063)190~194頁2010年3月1日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)-均等待遇-組合間差別〕 〔賃金(民事)-賃金請求権の発生-協約の成立と賃金請求権〕 (2) 本件各和解においては、参加人乙山及び同丙川について、職場復帰する際の賃金が定められているものの、その後の賃金決定において、本件各和解における賃金を基準とするかどうかについては、何ら明文の定めがされていない。 本件各和解が、参加人組合、同乙山及び同丙川が、原告に対して賃金差別の是正を求めた救済申立事件の再審査申立事件においてされていること、本件各和解においては、参加人乙山及び同丙川は、原告に対して賃金差別の是正を命じた東京都労働委員会の初審命令の履行を求めないとされており、他にも係属していた賃金差別の是正を求める救済申立事件を取り下げるとされていること、参加人組合と原告との間の職場復帰交渉において、職場復帰の際の賃金が重大な問題となり、長期間の交渉が重ねられたことが認められるところ、これら事実は、本件各和解において定められた職場復帰の際の賃金により、賃金差別問題はすべて解決したものとして、同賃金をもってその後の賃金決定の基礎とする趣旨であったと解釈すべき方向に働く事実である。 しかし、本件各和解の文言上、同和解で定めた賃金が、その後の賃金決定の基礎となるとはされていないこと、本件各和解において、参加人乙山及び同丙川が履行を求めないとした初審命令は、それぞれ原職復帰までの賃金差額であり、取り下げをした東京都労働委員会に係属中の不当労働行為救済申立事件も、過去分の賃金差別の是正を求めるものと考えられることからすると、本件各和解においては、和解以前の賃金差別については、同和解をもって解決したものとして、蒸し返さないという限度の合意しかされていないとの解釈も可能である。 そして、本件各和解は、参加人乙山に対する隔離や自宅研修が不法行為であるとの判決や、参加人丙川に対する解雇が無効であるとの判決を受けて、参加人組合において、職場復帰を目指して交渉を始めた結果としてされたのであり、とくに参加人乙山及び同丙川は、異常に長期間にわたって教室や学校から遠ざけられている状態(参加人乙山については約一四年間、同丙川については約一五年間)を少しでも早く解消するため、復帰時の給与額について、原告の提示額をそのまま受け入れざるを得なかったことが明白に窺える。しかも、職場復帰と給与額に関する交渉の過程において、原告は、非組合員の賃金実態は個別にも総体的にも明らかにしないだけでなく、原告における賃金体系(経歴や年齢と給与額の関係を明らかにする表や、昇給の基準等)も一切明らかにせず、本件各和解以後に、一定限度で明らかにしたにすぎないのであって、参加人らは、本件各和解をする際に、原告の提示額について、平均的な非組合員の給与額との比較など的確な検討をすることが可能な状況では全くなかったことが認められる。参加人らは、職場復帰時の給与額として、原告の提示額を受け入れることとしたけれども、その金額が参加人乙山及び同丙川の給与額として、非組合員との比較等において適正な金額であるとして合意したものではないことは明らかである。このように、本件各和解に至るまでの交渉が始められた経緯や、原告において、交渉過程において、賃金決定の参考となるべき情報を全く開示しないまま本件各和解に至ったという事実経過に照らすと、本件各和解において明文の合意がない以上、本件各和解における賃金が、その後の賃金決定の基礎となるとの合意はなかったと認めるのが相当である。〔中略〕 イ 原告は、参加人組合の組合員の給与及び賞与については、参加人組合に対し、毎年七月の団体交渉において、当該年度の給与額及び夏期賞与の割合を提示し、毎年一二月の団体交渉において、当該年度の冬期賞与の割合を提示していたが、参加人組合との間で妥結に至らない場合は、給与については、最後に妥結した年度の給与額のみを支払い、賞与については支払っておらず、仮処分命令申立事件の和解において、原告提示額と支給額の差額の約七割を仮払金として支払っていた。 このように、原告において、参加人組合に対し、毎年同じ時期に、組合員の給与及び賞与について、具体的な金額や割合を提示していた事実はある。 しかしながら、原告は、参加人組合との間で、妥結していないことを理由として、原告が提示した額すら支払わず、任意の支払としては、最後に妥結した年度の給与額(本件各和解の給与額)を支払い続けているだけであるから、原告が毎年何らかの形で賃金決定をしたとは評価できないし、当該決定に基づく毎月の賃金支払をしたともいえない。さらに、原告は、参加人乙山や同丙川からの仮処分命令の申立てを受けて、和解により、原告提示額と支給額の差額の約七割を仮払金として支払っていたが、仮処分申立事件における裁判上の和解に基づく支払であって、原告の自主的な支払とは性格が違うし、その金額は、原告提示額にも届かず、かつ、和解において、賃金額及び賞与額の合意がされていないこと、すなわち、賃金額及び賞与額が決定されていないことを確認した上での支払にすぎないのであるから、このような支払をもって、原告における賃金決定に基づく支払をしたとの評価もできない。 原告においては、原則的に毎年昇給する賃金体系となっており、かつ、参加人組合に対し、前年度を上回る賃金額を提示していたから、昇給させないのであれば、昇給させないとの決定をすべきところ、原告は、参加人組合と妥結できなかった後に、昇給させないとの決定をしていない。原告は、本件命令の初審である東京都労働委員会における救済申立事件において、賃金に不当な格差があるというためには、これが決定、支給されて、初めてその当否が問議されるべきであるのに、本件においては、給与及び賞与は未だ決定されず、賞与を支給できず、格差さえ存在しないのであるから、参加人らの主張は前提を欠く理由のないもので、主張自体失当で却下されるべきであると主張していることが認められることからも裏付けられる。このように、原告は、参加人組合、同乙山及び同丙川に対して、昇給の決定(又は昇給をしない旨の決定)や一時金支給の決定(又は支給をしない旨の決定)をせずに、昇給も一時金支給も分からない状態のまま放置していたとみざるを得ない。 以上のとおり、本件において、原告は参加人組合に対する給与及び賞与提示の前提となる何らかの決定をしたとは認められず、賃金決定に基づく支払をしたともいえず、原告は、賃金決定をしないという不作為を継続しているといわざるを得ない。そうすると、本件救済命令申立てが、行為の日から一年を経過してされたとはいえず、労働組合法二七条二項により却下すべきとはいえない。このように、本件において申立期間経過の問題は生じないとの解釈は、参加人らにおいて、原告による賃金決定とそれに基づく支払がない以上、賃金差別があるかどうか判断し難い状態にあったと評価できることからしても正当である。 |