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ID番号 : 08752
事件名 : 職員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : 市清掃工場の元技術員が、地位確認と酒気帯び運転による懲戒処分の取消し等を求めた事案(元職員敗訴)
事案概要 : 市環境森林部清掃工場の元技術員が、酒気帯び運転を理由とした懲戒処分が法令に基づかずまた裁量を逸脱して違法であるなどとして、労働契約上の地位確認、処分取消し、損害賠償の支払等を求めた事案である。 宮崎地裁は、まず地公法の懲戒処分の違法、無効による救済を図るには抗告訴訟によるべきであって、地位確認の訴えは訴えの利益を欠き違法であるとしてその部分の請求を却下した。その上で、〔1〕労基法によって地公法29条が排除されることはなく、懲戒処分規定は違法ではないとし、〔2〕酒気帯び運転は、社会通念上地方公務員の職全体の不名誉となる行為(地公法33条)であり、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行(地公法29条1項3号)に該当するとして、それが私生活上の行為であるからといって公務員に対する信用と無関係ではなく、公務員の信用を失墜させる行為に該当すると認定した。〔3〕さらに、指針を基準にして行った処分に裁量権の逸脱もないとして、処分の取消し及び損害賠償請求を棄却した。
参照法条 : 地方公務員法29条
地方公務員法33条
地方公営企業法39条
地方公営企業等の労働関係に関する法律附則5項
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 : 2009年2月16日
裁判所名 : 宮崎地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20行(ウ)4
裁判結果 : 一部訴え却下、一部請求棄却
出典 : 判例タイムズ1309号130頁
審級関係 :
評釈論文 : 塩崎勤・登記インターネット123号172~188頁2010年3月
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 1 本案前の判断
 現業職員とその使用者である地方公共団体との関係のうち、職員の意に反すると認められる不利益処分に関しては、地公法は、人事委員会又は公平委員会に対してのみ行政不服審査法による不服申立てをすることができ(地公法49条の2)、当該不服申立てを経た後でなければ、当該不利益処分の取消しの訴えを提起することができない(同法51条の2)と定め、現業職員に対し、その適用を除外していない(地方公営企業法(以下「地公業法」という。)39条1項参照)。
 そうすると、現業職員に対する懲戒処分は、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行訴法3条2項)に当たり、本件処分が違法、無効であることを前提に救済を図るに当たっては、行訴法所定の抗告訴訟によりその処分の取消しを求めるべきであって、これとは別に、原告が被告の職員(技術員)の地位を有することの確認を求める部分は、訴えの利益を欠き違法であるといわざるを得ない。
 なお、現業職員の不利益処分に関し、行政不服審査法による不服申立てをすることはできないとされているが(地公業法39条1項)、上記懲戒処分の性質を否定していると解すべきものとはいえない。
 よって、原告の訴えのうち上記部分(前記第1の1(1))は、却下を免れない。
 2 争点(1)ア(本件処分の根拠)について
 (1) 地方公務員においては、地公法29条1項が懲戒処分について定めており、現業職員である原告においても、同条項が適用除外とされていないのであるから、懲戒処分にあたっては、これに基づいて処分がされる必要があり、かつそれで足りるというべきである。
 被告は、地公法29条1項1号及び3号により、本件処分を行っているのであり、本件処分が根拠を欠く違法なものとはいえない。〔中略〕
 3 争点(1)イ(懲戒事由の該当性)
 (1) 本件処分は、本件説明書のとおり、地公法29条1項1号及び3号の規定に基づき行われたものであるところ、本件酒気帯び運転が、地公法29条1項1号及び3号に該当するかをみると、一般に、公務員は法令を遵守すべきであってその違反行為により公務員の職全体の名誉が害され得るが、証拠によれば、被告の職員が平成18年11月1日に飲酒運転撲滅宣言を行い、本件酒気帯び運転の5日前である平成19年9月1日には同月19日から飲酒運転に関連する罰則が強化されることが新聞で報道され、原告が本件酒気帯び運転に及んだ前後において地方公務員による酒気帯び運転が新聞報道されるなどの社会情勢の下、本件酒気帯び運転も新聞報道されたことが認められ、酒気帯び運転の危険性、すなわち重大かつ悲惨な人身事故を引き起こす危険性があることに照らすと、酒気帯び運転は、社会通念上、地方公務員の職全体の不名誉となる行為(地公法33条)であり、また、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行(地公法29条1項3号)に該当するということができる。〔中略〕
 4 争点(1)ウ(裁量逸脱の有無)について
 (1) 地方公務員に地公法所定の懲戒事由がある場合において、懲戒処分を行うか否か、懲戒処分を行う場合にいかなる懲戒処分を選択するかは、懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者が裁量権の行使として行った懲戒処分は、それが社会観念上著しく相当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである(最高裁平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁、最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。
 原告は、本件において上記解釈は妥当しない旨主張するが、独自の見解であり、採用できない。
 (2) そこで、上記基準によって本件処分が違法であるかをみるに、本件処分は本件指針を基準として行ったというのであるから、まず、本件指針が基準となりうるかを検討することとする。〔中略〕
 (イ) 次に、本件指針の内容をみると、悪質な飲酒運転が社会問題化し、飲酒運転に関する刑罰が強化され、その後も公務員による飲酒運転が相次いだことから、被告において、本件懲戒指針を改正し、飲酒運転の撲滅に向けた種々の取組みを行ってきたことを勘案すると、被告において、綱紀粛正を更に徹底する見地から、被告の職員の酒気帯び運転に対し厳正な処分をもって臨むことは不合理とはいえない。そして、飲酒運転に対して原則的に免職とし、情状酌量のある場合に停職処分とするとの運用方針についても、不当であるとはいえない。
 このことは、刑事罰と比較して、重い酒酔い運転と処分を同じくし、あるいは措置義務違反に対して軽い処分を設けていることによって、左右されるものではない。
 以上のとおり、本件指針は懲戒基準として不相当であるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 (3) 次に、本件指針に基づいて本件処分を行ったことについて裁量権の逸脱があるかをみると、本件酒気帯び運転について本件指針における情状酌量の余地がある場合に当たるものということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
 したがって、本件処分が、社会観念上著しく相当性を欠くとか、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものと認めることはできない。
 (4) 上記のとおり、本件指針が無効であるなどとはいえず、本件指針を適用して本件処分を行ったことについても、裁量権の逸脱があるとはいえない。
 5 争点(1)エ(手続上の瑕疵)について〔中略〕
 (2) 理由不備について
 本件処分において、違反行為を具体的に明示していないといえるかをみると、本件説明書には、本件処分が地公法29条1項1号及び3号に基づくものであることに加え、本件酒気帯び運転が「都城市の名誉をはなはだしく毀損させ」るものであること、及び本件酒気帯び運転が全体の奉仕者である公務員としての信用を著しく失墜させる行為であることが明示されている。
 これによれば、被告が、地公法33条、29条1項1号及び3号に基づき本件処分をしたものと合理的に解することができ、本件説明書においてその特定、明示に欠けるところはない。
 よって、本件処分に関し、理由不備の違法は認められない。〔中略〕
 6 小括
 本件処分及びその根拠となった本件指針の策定過程に違法な点はないから、その違法性を前提とするその余の争点について検討するまでもなく、原告の請求のうち、前記1のとおり却下すべき部分を除く請求、すなわち、本件処分の取消しを求める部分及び被告市長の違法行為を前提として国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等の支払を求める部分は、いずれも理由がない。