全 情 報

ID番号 : 08755
事件名 : 各雇用関係存在確認等請求控訴事件(5014号)、民事訴訟法260条2項に基づく申立て事件(5426号)
いわゆる事件名 : 国労採用差別・鉄建公団訴訟控訴審判決
争点 : JR不採用の元国鉄職員らが不当労働行為を理由に地位確認、損害賠償を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : いわゆる「国鉄分割民営化」の過程において、国労に所属する一審組合員らが、国鉄による不当労働行為があったために分割民営化後に設立された新会社(JR)に採用されなかったなどとして、清算事業団を承継した独立行政法人を相手に地位確認や損害賠償等を請求した事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、解雇は有効であるが不当労働行為があったとして慰謝料を認めた。これに対し双方が控訴。 第二審東京高裁は、まず解雇の効力について原審の判断を維持し、解雇の無効に係る主張は前提を欠くとした。そのうえで、新会社(JR)への採用について、組合毎の採用比率に顕著な格差があり、そのような差は個々の職員の成績だけでは説明できず、また国鉄においては不当労働行為の意思を有していたと推認されることからすれば、組合毎の採用比率の違いには、国労所属それ自体が不利益に取り扱われていたことが背景にあるとして、不当労働行為を認定した(独立行政法人の時効消滅の主張は斥けた)。損害額については、不当労働行為とJR不採用との間に相当因果関係があるとはいえず賃金相当額までは認められないが、慰謝料相当部分については、不公正な選考に基づく名簿不記載によって採用の可能性が侵害されたことから精神的損害の賠償を求めることができるとして、組合員らを損害の程度に応じて2つに分け、慰謝料を命じた。
参照法条 : 労働基準法2章
労働組合法7条
民法724条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
解雇(民事)/解雇事由/企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
裁判年月日 : 2009年3月25日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)5014、平成18(ネ)5426
裁判結果 : 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却(5014号)、一部認容、一部棄却(5426号)
出典 : 判例時報2053号127頁
労働判例984号48頁
審級関係 :
評釈論文 : 林誠司・法律時報82巻7号108~111頁2010年6月
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔解雇(民事)-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
 第4 争点に対する判断
1 争点1(本件解雇の効力)、争点2(本件不法行為〈4〉、〈5〉の成否)について
 上記争点に関する一審原告らの当審における主張は、実質的に原審における主張を繰り返すものであり、これに対する当裁判所の判断は引用した原判決説示のとおりである。付言すると、一審原告らは、種々の事情を挙げて、国鉄改革関連法は憲法28条等に違反するなどと主張するが、最高裁判所による累次の裁判の結果等に照らし、採用できない。また、一審原告らは不当労働行為によって採用侯補者名簿に記載されなかったのであるから、このような立場の一審原告らが、再就職促進法にいう再就職必要職員に指定されたことは無効であり、同職員にあたるとはいえないとか、本件解雇は国鉄ないし事業団が行った一連の不当労働行為の完成行為であるなどとして、解雇の無効を主張する。しかしながら、JRに応募しても同社に採用されなかった職員については、国鉄が事業団に移行した後は、再就職必要職員に指定されるものとされており、そのこと自体は憲法違反でも無効でもないところ、後記説示のとおり、国鉄による不当労働行為がなかったと仮定しても、一審原告らが希望する地元JRに採用されたはずであるとの証明がされていないのであり、国鉄による不当労働行為があったため、地元JRに採用されるべきところを再就職必要職員に指定されたということもできないから、国鉄の不当労働行為の故に同指定が無効となるものではない。そして、一審原告らは、再就職必要職員に指定され、当該職員として3年間事業団に勤務した後、事業団就業規則22条4号に基づき解雇されたのであり、不当労働行為がなければ本件解雇もなかったということはできないから、不当労働行為それ自体についての損害賠償請求はともかく、解雇の無効に係る主張は前提を欠くというべきである。一審原告らが自らの主張を根拠づけるものとして挙げる裁判例は本件と事案を異にしており、以上の判断を左右しない。
2 争点2及び4(本件不法行為〈1〉及びこれに基づく損害賠償請求権等の時効消滅の成否)について〔中略〕
d 小括
 以上検討してきたところによれば、名簿記載を判断するにあたり、個々の職員の勤務状況だけでなく、その所属する組合の如何が考慮されたことを推認させ得る事情があるというべきであり、採用率についてこれだけ顕著な差がついた理由の一端は、個々の職員の成績だけでなく所属組合による不利益扱いがあったことにあるのではないかと推認し得るところである。〔中略〕
  (オ) まとめ
 以上のとおり、本件の各組合毎の採用比率に顕著な格差があり、そのような差がついた事情について、単に個々の職員の成績だけでは説明できず、むしろ職員の所属する組合が考慮されたことを推認させる事情があることに加えて、国鉄においては不当労働行為の意思を有していたと推認されることからすれば、各組合毎の採用比率の違いには、職員の成績だけではなく、国労所属それ自体が不利益に取り扱われていたことが背景にあり、これもまた名簿記載者の選考に影響していたものと推認することができるというべきである。〔中略〕
 オ 以上検討したところによれば、一審被告の消滅時効の主張は理由がない。したがって、消滅時効主張が権利濫用に該当するか否かについては判断しない。〔中略〕
4 争点3(本件不法行為〈1〉と相当因果関係のある損害賠償の範囲、損害回復方法)について〔中略〕
(2) 慰謝料請求について
 ア 以上のとおり、国鉄の不当労働行為とJR不採用との間に相当因果関係があるとして賃金相当額等の損害賠償を認めることはできない。しかし、本件の事実関係の下では、相当因果関係を認めるに足りるほど高いレベルのものではなかったにせよ、公正な選考がされれば一審原告らが採用侯補者名簿に記載される可能性があったこともまた否定できない。このことは、上記2(2)エで検討したとおり、様々な観点から見て、組合所属の如何が名簿登載の結果に影響を与えていたと認められること、ことに採用侯補者名簿作成の直前になって国労を脱退し、JRに採用された者が相当程度いたと認められることなどからも推認されるところである。したがって、一審原告らには希望するJRに採用される相当程度の可能性はなおあったというべきところ、本件では、不公正な選考に基づく採用侯補者名簿不記載により、そのような可能性が断たれたことになる。このような場合、不公正な選考に基づく名簿不記載によって採用の可能性が侵害されたことについて、一審原告らはその精神的損害の賠償を求めることができるというべきである(最高裁判所第二小法廷平成12年9月22日判決・民集54巻7号2574頁参照)。〔中略〕
 ウ 以上、一審原告らについて述べてきたところは、不当労働行為による不法行為の成立及び消滅時効の未完成の点も含め、被控訴人Mについても同様に妥当するものであり、同人も不当労働行為に対する慰謝料として500万円の支払いを求め得る立場にあるというべきである。
(3) 第一希望でないJR会社に採用されていた一審原告ら及び追加的広域採用に応募していた一審原告らの各損害について〔中略〕
 イ そこでまず、意思確認書においてJR北海道以外のJR会社でもよいとの意思を示し、その結果当該JR会社に採用されながら、その採用を辞退した一審原告について検討すると、これらの一審原告は、第一希望以外でも応じる姿勢を示しながら(これが詐欺強迫等に基づくと認めるだけの事情はない。)、採用の段になって結局自らの意思で採用を断ったのであるから、JRに採用されなかったことによる不利益は自ら引き受けるのもやむを得ないというべきである。これについて、一審原告らは、第一希望であったJR北海道に採用されなかったこと自体が所属組合に着目した不利益取扱いであるから賠償を求め得る旨主張するのであるが、確かにJR北海道に採用された人員の組合別状況によれば国労所属職員の同社採用率は鉄労や動労所属職員よりも顕著に低いから、そのような主張にも根拠がないわけではないものの、他方で、JR北海道とそれ以外のJRへの振分けがどのような事情を考慮して行われたのか、これについて国鉄がどのように関与したのか、上記組合別状況以外に不利益取扱いを窺わせる事情としていかなるものがあるのか等については、本件証拠上必ずしも明らかではない。そうすると、一審原告らのうちの一部の者が第一希望であるJR北海道に採用されず、第二希望以下のJRに採用となったことが所属組合に着目した不利益取扱いであるとまで認定するのは困難である。したがって、採用を辞退した者も損害賠償を求め得るという一審原告らの主張は前提を欠き、採用し難いというほかない。
 そして、一審原告Aら4名はこれらに該当するものと認められるから、これらの一審原告については、損害賠償に値するほどの損害はないものというべきである。
 ウ 次に、追加的広域採用に応募しながら、結局これを辞退した一審原告らについて検討する。追加的広域採用に応募して採用されれば、地元JRでないとはいえ、出向期間を経るなどしながらもJR会社で執務できることになるのであるから、その意味では、第二希望を出してそのJR会社に採用されたのと結果的には同様の地位を確保できるものといえる。そして、追加的広域採用に応募して採用されつつ、これを辞退した一審原告らは、このような地位を自ら一旦は確保しながら、結局は自らの意思でこれを放棄したのであるから、このことによる不利益は自ら引き受けるべき側面があるのは否定できない。もっとも、これらの一審原告らは、上記イの一審原告らとは異なり、4月採用において名簿に記載されなかったがゆえに、それによる損害を回避するために追加的広域採用に応じたものの、家庭の事情等から結局はこれを辞退することになったものと認められる。このように、追加的広域採用に応募したこと自体、不公正な選考に基づく採用候補者名簿不記載が背景にあることを考慮すると、自らの意思で辞退したことを強調するあまり法的保護に値する精神的損害が全くないとするのも相当ではない。そして、以上の事情を総合すると、これらの一審原告については、それぞれ250万円の慰謝料額とするのが相当である。