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ID番号 : 08768
事件名 : 損害賠償請求控訴事件(2933号)、同附帯控訴事件(135号)
いわゆる事件名 : JR西日本(森ノ宮電車区・日勤教育等)事件
争点 : 鉄道会社労組員らが日勤教育で過酷で屈辱的な扱いを受けたとして損害賠償等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 鉄道会社の組合と組合員X1ら3名が、必要性のない日勤教育やいじめ、嫌がらせの業務指示により過酷で屈辱的な扱いを受けたが、これらは不法行為であり不当労働行為に当たるとして慰謝料等を求め、また組合掲示板の移設とそれに伴う掲示物の強制撤去も不当労働行為に当たるとして損害賠償等を求めた事案の控訴審である。 第一審大阪地裁は、X2の日勤教育についてのみ違法であるとして慰謝料他の支払を命じ、掲示物の撤去は一部不当労働行為であるとして無形損害2万円他を命じ、その余の請求を棄却したため双方控訴。 第二審大阪高裁は、日勤教育について、X1には、いたずらに長期間賃金上不利益かつ不安定な地位においたものであり、使用者の裁量を逸脱して違法であるとし、X2については、そもそも教育の必要性が認められないものであり、違法なものとして損害賠償義務を負うとした(X3の請求については第一審同様否定)。また、掲示板移設については組合活動への妨害などの意図があったとは認められず、他労組の掲示板については移設の必要性が認められない以上不当な差別ではないとした。しかし、掲示物の撤去は支配介入であるとして、不当労働行為を認めた。
参照法条 : 民法709条
労働組合法7条1号
労働基準法2章
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
労基法の基本原則(民事)/均等待遇/組合間差別
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/従業員教育の権利
配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用/配転命令権の濫用
裁判年月日 : 2009年5月28日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ネ)2933、平成20(ネ)135
裁判結果 : 原判決一部変更、一部棄却(2933号)、棄却(135号)
出典 : 労働判例987号5頁
審級関係 :
評釈論文 : 藤内和公・民商法雑誌142巻1号115~130頁2010年4月
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔労基法の基本原則(民事)-均等待遇-組合間差別〕
〔労働契約(民事)                      -労働契約上の権利義務-従業員教育の権利〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕
 第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、原審とは異なり、骨子次のとおり判断する。その理由は、次項以下のとおりである。
(1) 控訴人Aに対する平成15年6月23日からの日勤教育は違法であり、被控訴人らは、慰謝料及び弁護士費用合計40万円の損害賠償義務を負う。
(2) 控訴人Bに対する平成16年4月30日からの日勤教育は違法であり、被控訴人らは、慰謝料及び弁護士費用合計50万円の損害賠償義務を負う。
(3) 控訴人Cに対する措置について不法行為又は債務不履行に該当するとは認められない。
(4) 本件掲示板に関する措置は不当労働行為には該当しない。
(5) 掲示物〈1〉-1、〈1〉-2、〈2〉、〈3〉-2、〈5〉及び〈6〉の撤去は不当労働行為に該当する。上記掲示物の撤去により、控訴人関西地本は、掲示物1枚につき無形損害及び弁護士費用合計5万円(ただし、掲示物〈2〉については2万5000円)の損害を受けた。また、掲示物〈2〉の撤去により、控訴人組合は、無形損害及び弁護士費用合計2万5000円の損害を受けた。
 被控訴人会社及び同Eは、掲示物〈1〉-1及び〈1〉-2の撤去についての損害賠償義務を負い、被控訴人らは、掲示物〈2〉、〈3〉-2、〈5〉及び〈6〉の撤去についての損害賠償義務を負う。
(6) 控訴人D独自の損害は観念し難い。
2 争点1(控訴人Aに対する措置等の違法性)についての判断〔中略〕
労働者の教育をいかに行うかは、基本的に使用者の裁量に委ねられており、使用者が労働者に対し具体的にいかなる教育を実施するかについては、当該企業の経営方針や業務内容、経営環境、受け手となる労働者の能力、教育の原因となった事象の内容等、諸般の事情に照らして決することになるところ、旅客鉄道輸送を業とする被控訴人会社において、安全安定輸送の実現のため、社員一人一人の安全意識の向上、決められた手順等を確実に実行するという意味での基本の徹底、知識・技能の向上を理念として掲げ、その理念の徹底を図る方策として、社員に対する個別の教育という方策を用いることは、必要かつ有効な一つの方法であると認められ、事故等が発生した場合や服務規律違反等があった場合に、その再発防止の観点から、事故等の原因に応じて、更なる知識・技能の習得、事故防止に対する意識・意欲の向上等を目的として教育を実施することは、その必要性を肯定することができる。そして、その実施方法は、基本的に被控訴人会社の裁量的判断に委ねられているといえるから、その方策として日勤教育を行うこと自体は何ら違法なものではなく、許されるというべきである。また、日勤教育に際し、事実関係を正しく把握するために、顛末書を作成させたり事情聴取を行い、客観的な事実との食い違い等があれば問い質すことも、必要なものと認められる。
 しかしながら、例えば運転士が日勤勤務に指定されると、その期間は、月額約10万円の乗務員手当が支払われず、これが賃金に占める割合も小さいとはいえず、実質的な減給になることからすると、いかに必要な教育のためとはいえ、その教育期間は合理的な範囲のものでなければならないというべきである。加えて、日勤教育は、少なくとも一部の者にとってはペナルティであるとして恐怖心をもって受けとめられていたことに照らせば、被控訴人会社の経営方針や業務内容、経営環境、受け手となる労働者の能力等のほか、特に教育の原因となった事象の内容との均衡を勘案した上でも、いたずらに長期間労働者を賃金上不利益でかつ不安定な地位におくこととなる教育は、必要かつ相当なものとはいえず、使用者の裁量を逸脱して違法であるというべきである。〔中略〕
被控訴人らにおいてあえて日勤教育を長引かせたとはいえないが、予め達成目標が本人に明示されずに、結果として73日間にも及んだ日勤教育は、いたずらに労働者を不安定な地位に置くものであり、また、賃金の面でも過分な不利益を与えるものであるといえる。したがって、控訴人Aに対する当該日勤教育は、全体として教育として必要かつ相当なものとはいえず、使用者の教育に関する裁量を逸脱したものとして、結果として違法であるというべきである。〔中略〕
(4) 以上のとおり、当該日勤教育の態様に違法な点があるとの控訴人Aの主張は、上記の限度で理由がある。
3 争点2(控訴人Bに対する措置等の違法性)についての判断〔中略〕
確かに、外注業者等による定期的な清掃とは別に、車両管理係において、適宜天井や扇風機等の清掃、除草を行う必要があり、現に車両管理係のZ4社員や、その他教育を受けている者以外にも、天井等の清掃や除草作業を行っている者がいることは認められる。しかし、控訴人Bは、教育のためとして天井清掃や除草業務を命じられたものであり、同控訴人についてはそもそも教育の必要性が認められないのであるから、天井清掃や除草作業が車両管理係の業務であることを前提としても、控訴人Bに対し日勤教育としてこれらの業務を命ずることは、やはり必要性のないものであって、違法なものというべきである。」〔中略〕
平成16年4月30日からの日勤教育についての控訴人Bの主張は、必要性がないのに日勤教育としての業務(レポート等の作成、規程類の書き写し、清掃及び除草作業)に従事させられた違法をいう限度で理由があると認められる。〔中略〕
4 争点3(控訴人Cに対する措置等の違法性)についての判断〔中略〕
以上のとおり、前任作業員と控訴人Cを含む後任作業員の作業は、作業自体は独立したものであるとはいえるが、そうであるからといって、引き継ぎの関係にはないとする控訴人Cの主張は採用できない。したがって、後任作業員が前任作業員の作業の結果を点検したり、工具類が残されているかどうかを見返す義務まではなかったとする同控訴人の主張は採用できないし、同控訴人に何ら責任を負うべき事実がないことを前提に、日勤教育や訓告処分がなされたこと、夏季手当を5万円カットされたことが労働契約上許されない違法な処遇であるとする主張も、採用できない。〔中略〕
 決定通知書読み上げの件に関する控訴人Cの主張は採用することができない。〔中略〕
5 争点4(本件掲示板に関する措置等の違法性)についての判断〔中略〕
しかし、そもそも組合掲示板の設置及び利用許諾は被控訴人会社の便宜供与によるものであり、本来組合との協議は必要ではないこと、設置許可に当たっても業務上の必要があるときは移転することが条件とされているところ、掲示板の地下に配管工事を行うことから移設の必要があったこと、移設に当たっても、被控訴人会社は、控訴人組合に対し、工事終了後も元の場所に戻さない旨を伝え、控訴人組合は、このことを前提に組合掲示板設置許可願を提出しており、移設先は、掲示板設置場所としては従前の場所よりかえってメリットが大きいことなどからして、上記の控訴人組合の主張に理由がないことは明らかである。〔中略〕
6 争点5(本件掲示物に関する措置等の違法性)についての判断〔中略〕
 ところで、撤去要件に該当する掲示物を撤去することは不当労働行為には当たらないというべきであるが、撤去要件に該当するか否かを検討するに当たっては、当該掲示物が全体として何を伝えようとし、訴えようとしているかを中心として、実質的に撤去要件を充足するか否かを考慮すべきであり、細部の記述や表現のみを取り上げて判断すべきではないし、撤去要件に形式的には該当しても、当該掲示物の掲示が会社の信用を傷つけ、個人を誹謗し、あるいは職場規律を乱したか否か等々について、その内容、程度、記載内容の真実性等の事情を実質的かつ総合的に検討し、当該掲示物の掲示が正当な組合活動として許容される範囲を逸脱していないと認められる場合には、当該掲示物を撤去する行為は、組合に対する支配介入として、不当労働行為に当たるというべきである。〔中略〕