全 情 報

ID番号 : 08771
事件名 : 不当労働行為救済命令一部取消請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : 会社が、団交不対応、移動時間の賃金控除を不当労働行為とした中労委命令の取消しを求めた事案(会社敗訴)
事案概要 : 飲食料品の製造・販売等を行う株式会社が、組合(支部)との団交に実質的に応じなかったこと、及び組合交渉員の団交開催場所への移動時間について賃金控除をしない旨述べていたのに控除したことは、不当労働行為に当たるとした中労委命令の取消しを求めた事案である。 東京地裁は、まず会社の団交対応について、組合側(支部)が個別の団交を一貫して求めていたのに対して、会社が組合本部との連名方式による団交に固執したために行われなかったものであり、実質的に団交を拒否したものと評価できると認定した。また、交渉員の団交開催場所への移動時間の賃金控除についても、会社は団交及び移動時間は賃金控除をしないことについて合意が成立していたものと認めるのが相当であるとして、当該賃金控除は、会社が一方的に上記合意を破って交渉員に経済的打撃を与える行為であり、交渉員を委縮させるものであったと認定して、中労委の命令を支持し会社の請求を棄却した。
参照法条 : 労働組合法7条2号
労働基準法2章
体系項目 : 賃金(民事)/賃金の支払い原則/チェックオフ
賃金(民事)/賃金の支払い原則/全額払・相殺
賃金(民事)/賃金請求権の発生/争議行為・組合活動と賃金請求権
裁判年月日 : 2009年6月25日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20行(ウ)514
裁判結果 : 棄却
出典 : 判例時報2055号151頁
判例タイムズ1311号161頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-賃金の支払い原則-チェックオフ〕
〔賃金(民事)-賃金の支払い原則-全額払・相殺〕
〔賃金(民事)-賃金請求権の発生-争議行為・組合活動と賃金請求権〕
第三 争点に対する判断〔中略〕 以上によれば、本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢは、本件組織再編後の東京支店の従業員に関する労働条件その他の待遇や人事に関する事項として、被告補助参加人との関係における義務的団体交渉事項であるというべきである。そうすると、原告は、同議題について、被告補助参加人との間で個別に団体交渉に応じる義務がある。
 イ 原告の主張の検討
  (ア) 原告は、被告補助参加人は、組合本部の下部組織であるから、組合全体の中での団体交渉権限の配分に従わなければならず、組合本部が行う団体交渉と抵触する団体交渉を行ってはならないなど、無限定な団体交渉権限が認められるものではなく、本件組織再編に関する事項については、原告と組合本部との団体交渉において交渉議題とされており、被告補助参加人独自の交渉議題であるとはいえないから、組合の側で本件組織再編に関する事項についての団体交渉権限が組合本部又は組合五支部のいずれに帰属するのかを明らかにしない以上、同事項に関する団体交渉権限は組合本部にあり、支部である被告補助参加人はこれを有していない旨主張する。
 しかし、支部のような単位労働組合の下部組織についても、当該支部限りの交渉事項に当たるものについては、組合本部の統制に服するものの、独自に団体交渉を行う権限があると解される。そして、本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢの内容は、上記アで説示したとおり、被告補助参加人の組合員の身分や組合員が従事する東京支店に関する法的関係を内容とする交渉議題である。そうすると、本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢは、東京支店に係る事項に限定した議題であり、被告補助参加人限りの交渉事項であるということができる。他方、本件全証拠によっても、本件団体交渉申入れがされた平成一五年当時、組合本部が原告に対し、本件組織再編に関する事項について団体交渉を申し入れていたことをうかがわせる事情は認められず、その当時、原告が、組合本部及び被告補助参加人との関係において、当該事項について重複して団体交渉を求められる可能性が具体的に存在していたとはいえない。また、組合の各支部からの団体交渉の申入れに関して、組合本部が原告に対し、平成九年三月二一日、それぞれの支部団交で誠意を持って回答するよう要求していたことに照らして、組合本部が被告補助参加人の団体交渉権限に制約を加えていたとは考え難く、本件全証拠によっても、そのような事実をうかがわせる事情は認められない。〔中略〕
平成一五年七月四日及び同年一二月一〇日に開催された団体交渉については、被告補助参加人が、同年一月一五日に予定された団体交渉について連名方式による団体交渉を拒否することを明らかにしていた上、上記各団体交渉の場でも同様の態度を示していたにもかかわらず、原告が連名方式による団体交渉を行うことに固執したため、実質的な交渉に入ることができなかったものであることが認められる。この事実関係に、前記(1)アで説示したとおり、本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢは、被告補助参加人との関係において義務的団体交渉事項であり、原告は同議題について被告補助参加人との間で個別に団体交渉に応じる義務を負うことを併せ考えると、同年七月四日及び同年一二月一〇日に開催された団体交渉については、原告が被告補助参加人との間の個別の団体交渉を実質的に拒否したものと評価することができる。〔中略〕
 (3) 以上によれば、本件団体交渉申入れ後最初の団体交渉開催予定日に団体交渉が開催されなかったのは、直ちに原告がこれを拒否したことによるものとはいえないものの、その後二回開催された団体交渉については、被告補助参加人が個別の団体交渉を一貫して求めていたのに対して、原告が連名方式による団体交渉に固執したため、その間で東京支店に係る組織再編に関する事項(本件団体交渉申入議題ⅠないしⅢ)について団体交渉が行われなかったものであり、その状態は平成一六年一月二六日に被告補助参加人が同事項を交渉議題から外すまで継続していたことが認められる。この間の原告の上記対応は、連名方式による団体交渉でなければ被告補助参加人との個別の団体交渉をしないというものであって、実質的に団体交渉を拒否したものと評価できるものであるから、労働組合法七条二号の不当労働行為に該当するというべきである。〔中略〕
 (3) 以上によれば、原告は、前事件の第五回調査期日において、被告補助参加人に対し、被告補助参加人側交渉員の団体交渉及び移動時間について賃金控除をしないことを確認したものであり、遅くともその時点では、原告と被告補助参加人との間に上記移動時間について賃金控除をしないことについて合意が成立していたものと認めるのが相当である。そうすると、原告が同調査期日後の平成一四年七月二六日に開催された団体交渉における被告補助参加人側交渉員の団体交渉開催場所への移動時間について賃金控除をしたのは、上記合意に違反する行為である。そして、原告が、当該賃金控除を行うについて、被告補助参加人に対し、事前に説明したり、協議を持ち掛けたりしたなどの事情がうかがえないことからすると、当該賃金控除は、原告が一方的に上記合意を破って被告補助参加人側交渉員に経済的打撃を与える行為であり、被告補助参加人の団体交渉行為を萎縮させるものであるといえるから、原告がした当該賃金控除は、労働組合法七条三号の不当労働行為に該当するというべきである。
 三 中労委が本件命令においてした、〈1〉本件団体交渉申入議題のうち東京支店に係る会社組織再編に関する事項について、同申入れから平成一六年一月二六日までの間、原告の提案する団体交渉の方式に固執して被告補助参加人との単独の団体交渉に実質的に応じなかったことが労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であるとした判断、〈2〉前事件において、団体交渉開催場所への移動時間について控除しない旨述べたにもかかわらず、平成一四年七月二六日に実施された原告と被告補助参加人との間の団体交渉が行われた際に団体交渉開催場所への移動時間について被告補助参加人側交渉員の賃金を控除したことが同条三号に該当する不当労働行為であるとした判断は、いずれも相当であり、原告が主張するような違法はない。そして、これに対する救済方法として、本件命令の主文Ⅰ項1の内容の文書掲示を命じたことも相当である。