全 情 報

ID番号 : 08775
事件名 : 賃金支払請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : 受験予備校の校長と校長代理が時間外手当等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 受験予備校の校長と校長代理の2名が、時間外手当、深夜時間外手当及び休日手当等の支払を求めたのに対し、予備校が、校長らは労基法41条2号の管理監督者に該当するなどと主張したことから、その支払義務を争った事案である。 横浜地裁は、まず、本件予備校の給与規程に定める住宅手当は、扶養家族の有無で一律定額支給されていることから割増賃金算定の基礎となる賃金から除外される住宅手当に当たらず、割増賃金の算定の基礎に含まれると判断した。また、管理監督者についての予備校の抗弁について、労基法41条2号の管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき雇用主と一体的な立場にあるものをいい、校長らはいずれも権限が限定的で、経営に関する決定に参画したり労務管理に関する指揮監督権限もなく、給与等の待遇においても時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているとまでいえないことから、管理監督者であるとする予備校の主張は到底採用できないとして、校長らの訴えを認容した。
参照法条 : 労働基準法41条2号
労働基準法37条4項
労働基準法施行規則21条3号
体系項目 : 労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 : 2009年7月23日
裁判所名 : 横浜地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)2691
裁判結果 : 認容
出典 : 判例時報2056号156頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
〔賃金(民事)-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
第三 当裁判所の判断
 一 争点(1)(割増賃金の算定基礎賃金)について
 労働基準法三七条一項は、割増賃金の算定の基礎となる賃金を、「通常の労働時間又は労働日の賃金」と規定し、同条四項及び労働基準法施行規則二一条で割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される手当を規定しているところ、これらの手当は制限的に列挙されているものであるから、これらの手当に該当しない「通常の労働時間又は労働日の賃金」はすべて算入しなければならず、これらの除外される手当は名称にかかわらず、その実質によって判断すべきであると解される。
 そして、労働基準法三七条四項及び労働基準法施行規則二一条三号により割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいい、住宅の賃料額やローン月額の一定割合を支給するもの、賃料額やローン月額が段階的に増えるにしたがって増加する額を支給するものなどがこれに当たり、住宅に要する費用にかかわらず一定額を支給するものは、除外される住宅手当に当たらないと解するのが相当である。
 被告の給与規程三七条では、「住宅手当は本人(職員当人)の名義でアパート等の賃貸契約を結んでいる者及び家(マンション)を購入し、現在支払い継続中の者を対象とする。扶養家族がある者 月額一二、〇〇〇円、扶養家族がない者 月額一六、〇〇〇円」と規定され、住宅に要する費用にかかわらず、扶養家族の有無で一律定額で支給されていることからすれば、被告における住宅手当が、労働基準法三七条四項、労働基準法施行規則二一条三号により割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外される住宅手当に当たらないと解するのが相当である。
 よって、原告甲野について、住宅手当は割増賃金の算定の基礎となる賃金に含まれるというべきであり、この点についての被告の主張は理由がない。
 二 争点(2)(管理監督者の抗弁)について
 (1) 労働基準法四一条二号が管理監督者に対して労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないと定めているのは、管理監督者がその職務の性質上、雇用主と一体となり、あるいはその意を体して、その権限の一部を行使するため、自らの労働時間を含めた労働条件の決定等について相当程度の裁量権を与えられ、報酬等その地位に見合った相当の待遇を受けている者であるからであると解される。したがって、同号にいう管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、雇用主と一体的な立場にあるものをいい、同号にいう管理監督者に該当するか否かは、〈1〉雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を有するか、〈2〉自己の出退勤について、自ら決定し得る権限を有するか、〈3〉管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているかなどを、実態に即して判断すべきである。そこで、以下検討する。〔中略〕
 (3) 原告甲野は、校長として校長会議及び責任職会議への出席、時間割作成、配属された職員に対する第一次的査定等を行っていたものの、被告における決定事項は、すべて被告代表者が決裁して決定し、校長会議及び責任職会議では、役員会議、経営会議等で決定された経営方針、活動計画を伝達されるだけであり、校長が被告代表者の決裁なしに当該予備校としての方針を決めたり、費用を出捐したり、職員の採用、昇格、昇給、異動を決定することはなく、その職務、権限、責任の内容等からして、被告の経営に関する決定に参画したり、労務管理に関する指揮監督権限を有していたとは認められず、また、他の職員と同様、出退勤時間が定められ、勤務記録表により出退勤時間を被告に管理されていたのであって、出退勤について自ら自由に決定し得る権限があったとはいえず、さらに、年収がいずれも四〇〇万円台前半から半ばまでにとどまっており、サブマネージャーに昇格後も従前より年収が下がっている年度もあって、中川校の準専任講師の中には校長であった原告甲野に匹敵する年収を得ている者がいた事実を併せ考慮すると、給与等の待遇において、時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているとまではいえない。
 次に、原告乙山は、校長代理として責任職会議に出席していたものの、責任職会議では、役員会議、経営会議等で決定された経営方針、活動計画を伝達されるだけであり、特別な事情がない限り校長業務を代理することはなく、直接他の職員に指示することもないから、その職務、権限、責任の内容等からして、被告の経営に関する決定に参画したり、労務管理に関する指揮監督権限を有していたとは認められず、また、他の職員と同様、出退勤時間が定められ、勤務記録表により出退勤時間を被告に管理されていたのであって、出退勤について自ら自由に決定し得る権限があったとはいえず、給与についても、年収がマネージャーへ昇格後も約四〇〇万円にとどまっており、給与等の待遇において、時間外手当及び休日手当が支給されないことを十分に補っているとまではいえない。
 被告は、原告乙山が、個別指導部門の責任者として、他の講師職員に対する管理監督者の地位にあったと主張するが、原告乙山は、個別指導プロジェクトのメンバーとして会議で積極的に発言・提案を行い、また、担当校の講師の割振りと調整、指導内容の決定を行っていたほか、個別指導の講師の採用手続、研修指導の一部に立ち会ったことがあるにすぎず、最終的なプロジェクトの内容の決定は、同プロジェクトの責任者である役員が役員会議に諮った上で被告代表者が行っており、講師の採用も本部が決定していることからすれば、同プロジェクトの運営に原告乙山が携わっていたことをもって、雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を有すると評価することはできない。
 そもそも、被告における雇用期間の定めのない正社員四八名のうちサブマネージャー以上の地位にある社員は三八名(平成一八年二月当時)であり、サブマネージャー以上の地位にある社員がいずれも管理監督者であるとする被告の主張は到底採用できない。
 よって、原告らは、労働条件の決定その他労務管理につき、雇用主と一体的な立場にあるものとはいえず、労働基準法四一条二号にいう管理監督者に該当するとは認められない。