ID番号 | : | 08777 |
事件名 | : | 賃金等請求控訴、同附帯控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | ニュース証券事件 |
争点 | : | 証券会社で6か月間の試用期間後解雇された者が地位確認、未払給与等の支払を求めた事案(労働者勝訴) |
事案概要 | : | 証券会社に、期間の定めのない雇用契約により6か月間を試用期間として営業職の正社員に雇用された「ウエルスマネージメント本部」の課長が、試用期間満了前に営業担当の資質に欠けるとして解雇されたため、解雇が無効であるとして、地位確認、未払給与、賞与、未払の時間外・深夜・休日勤務手当、予備的に損害賠償等を求めた事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、解雇は客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当として是認することができず無効であるが、課長は解雇後に他の証券会社に入社し、復職の意思を放棄して本件解雇を承認したものと認定し、その限度で支払請求を認容した(地位確認請求は棄却)ため双方控訴。 第二審東京高裁は、試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、客観的・合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6か月の試用期間の経過を待たずして会社が行った解雇にはより一層高度の合理性と相当性が求められるとした。その上で、課長が訴訟を提起することや、会社の違法行為を内部告発することを理由に課長を不利に扱うことが許容されると解することはできないとして、原審を維持し、本件控訴及び附帯控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法709条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/試用期間/本採用拒否・解雇 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求 解雇(民事)/解雇事由/職務能力・技量 |
裁判年月日 | : | 2009年9月15日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21(ネ)1055、平成21(ネ)2647 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例991号153頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)-試用期間-本採用拒否・解雇〕 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 〔解雇(民事)-解雇事由-職務能力・技量〕 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被控訴人の本件請求は原審が認容した限度で理由があると判断する。〔中略〕 「本件雇用契約書(〈証拠略〉)には、本件雇用契約における被控訴人の試用期間を6か月とする規定(1条1項)が置かれているところ、試用期間満了前に、控訴人はいつでも留保解約権を行使できる旨の規定はないから(同条2項は、試用期間終了時までの間に不適と認められた者につき、同期間終了時において解雇することができるという、試用期間の制度を設けたことに伴う当然の効果を明確にした規定にとどまるものと解すべきである。)、被控訴人と控訴人との間で、被控訴人の資質、性格、能力等を把握し、控訴人の従業員としての適性を判断するために6か月間の試用期間を定める合意が成立したものと認めるべきである。 そして、試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、上記のとおり、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6か月の試用期間の経過を待たずして控訴人が行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである。」〔中略〕 「(9) 被控訴人は、平成19年8月30日夜、B役員に対し前記のとおり従前どおりの待遇を求めた際に、被控訴人の要望が拒否された場合には、訴訟を提起すると述べ、また、証券会社においては禁止されているいわゆる地場出しという他の証券会社への発注行為を控訴人が行っていることを知っていると述べた。B役員は、これを聞いて、被控訴人の雇用を継続することは困難であると判断した。〔中略〕 キ 〔中略〕「証人Bの証言中には、被控訴人が会社にとって非常に不利な情報を幾つか持っており、特に地場出しについて会社は隠ぺい工作をしており、罪が非常に重いので適宜告発する用意があると発言した旨の供述部分がある。しかし、控訴人による地場出しの事実があるとすれば、証券会社の役職員が地場出しをすることは証券業協会の規則等によって禁止されている(公知の事実)以上、控訴人の従業員である被控訴人が控訴人の地場出しの事実を内部告発することが懲戒解雇事由に該当するとは到底解することができない。また、被控訴人が控訴人を脅迫したという事実を認めるに足りる証拠はない。〔中略〕 ク 「してみると、被控訴人の同月1日以降の給与の請求及び平成20年6月以降の賞与の請求は、その前提を欠くものと認められる。また、平成19年12月に支給される賞与の算定期間は同年4月1日より同年9月30日までであり、この期間中における被控訴人の勤務は存在するが、上記賞与については、支給時において被控訴人が控訴人に在籍していないため、控訴人の給与規定28条1項により、これも被控訴人に支給されるべき要件を欠くものと認められる。」〔中略〕 (2) 当審における控訴人の補充主張について 控訴人は、本件解雇は留保解約権の行使として客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当であるとし、その理由として、控訴人が被控訴人に対して、忠告を行い、成績を改善する機会を与えていたこと、被控訴人が、控訴人に対する訴訟の提起や控訴人の違法行為の公表をほのめかしたことが信頼関係を破壊するものであることを主張する。 しかし、前者については、既に説示したとおり、被控訴人と控訴人との間で試用期間を6か月間と合意したのであるから、試用期間の経過を待たずして、留保解約権を行使する理由には該当しないというべきであり、後者については、被控訴人が訴訟を提起することや控訴人の違法行為を内部告発することを理由に、控訴人が被控訴人を不利に扱うことが許容されると解することができないことも、既に説示したとおりである。よって、控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。 2 以上によれば、被控訴人の本件請求は、原審が認容した限度で理由があり、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないから、いずれも棄却することとする。 |