ID番号 | : | 08778 |
事件名 | : | 不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | INAXメンテナンス事件 |
争点 | : | 住宅設備機器修理会社が、団交への対応が不当労働行為に当たるとした命令の取消しを求めた事案(会社勝訴) |
事案概要 | : | 住宅設備機器修理会社のカスタマーエンジニア(CE)らが所属する組合からの団交申入れの対応が、不当労働行為に当たるとした中労委命令の取消しを求めた事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、CEが労組法上の労働者に当たるか否かについて、契約上「業務委託」ではあっても原則的な受諾義務を定めていること、時間的・場所的拘束を受けていること、会社の具体的指揮監督を受けていること、報酬の業務対価性が認められること等から、労組法上の労働者に当たるとした。 第二審東京高裁は、業務実態としては、CEは仕事の依頼に対して諾否の自由を有し、また時間的・場所的拘束を受けず、業務遂行について具体的な指揮監督を受けることもなく、報酬は行った業務の内容に応じた出来高として支払われているから、その基本的性格は業務受託者、いわゆる外注先とみるのが実体に合致しており、法的に使用従属関係にあると評価することは困難であるとした。その上で、CEは労組法上の労働者に当たるということはできず、したがって団体交渉に応じなかったとしても、これをもって不当労働行為に当たるということはできないとして中労委命令を取消し、原判決を取消した。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 労働組合法3条 労働組合法6条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約 |
裁判年月日 | : | 2009年9月16日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21行(コ)192 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例989号12頁 労働経済判例速報2055号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 渡辺章・専修ロージャーナル5号1~26頁2010年1月 根本到・法学セミナー55巻4号137頁2010年4月 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-委任・請負と労働契約〕 2 以上の事実に基づき検討する。 (1) 労働組合法は、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する労働者(同法3条)が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進し労働者の地位を向上させること、その交渉のために労働者が労働組合を組織して団結することを擁護すること、使用者と労働者との関係を規律する労働協約締結のための団体交渉をすることなどを目的とする(同法1条)。したがって同法上の労働者は、使用者との賃金等を含む労働条件等の交渉を団体行動によって対等に行わせるのが適切な者、すなわち、他人(使用者)との間において、法的な使用従属の関係に立って、その指揮監督の下に労務に服し、その提供する労働の対価としての報酬を受ける者をいうと解するのを相当ということができる。そして、同法における労働者に該当するか否かは、法的な使用従属関係を基礎付ける諸要素、すなわち労務提供者に業務の依頼に対する諾否の自由があるか、労務提供者が時間的・場所的拘束を受けているか、労務提供者が業務遂行について具体的指揮監督を受けているか、報酬が業務の対価として支払われているかなどの有無・程度を総合考慮して判断するのが相当というべきである。 なお、業務委託契約が締結された場合、契約関係の成立により契約当事者は互いに契約目的の実現に向ってそれぞれの負担義務を遂行すべき制約ないし拘束を受けることになるところ、委託者と受託者の間には法的な使用従属関係はないが、何らかの業務を受託する以上委託内容によって拘束あるいは指揮監督関係と評価できる面が認められることがあるのが通常である。したがって、上記の法的な使用従属関係を基礎付ける諸要素の存否の評価に当たっては、契約関係の一部にでもそのように評価できる面があるかどうかなどの局部的視点で判断するのは事柄の性質上適当ではなく、両者の関係を全体的に俯瞰して労働組合法が予定する使用従属関係が認められるかの観点に立って判断すべきである。 (2) CEは控訴人との間で基本的業務委託契約を締結しているものであるが、個別の業務は控訴人からの発注を承諾するという個別的業務委託契約の締結によって行っていること、CEはサービスセンターから電話で連絡を受けたり、修理依頼データを送信されたりする方法で個別的業務委託契約の申込みを受けた際、これを控訴人との基本的業務委託契約とは無関係の理由、取り分け自らが事業者として行う修理補修等の業務を行うとの事情の存在を理由に拒絶することが認められていること、CEが上記申込みを拒絶した場合、それがいかなる理由による拒絶であっても控訴人は基本的業務委託契約の債務不履行に該当するとは解しておらず、CEをその拒絶によって不利益に扱うことはないこと、CEは休日以外の日の午前8時半から午後7時までサービスセンターから発注連絡を受けることとなっているが、この連絡が取れなかったとしても控訴人は基本的業務委託契約の債務不履行に該当するものとはしていないこと、CEは決められた時間帯に発注連絡を受け、当該業務遂行中は、INAXの子会社である控訴人による委託業務であることの性質上、制服の着用や名刺の携行、各種マニュアルに基づく業務の遂行が求められてはいるものの、発注連絡を受けて受注することになった修理補修等の業務を実際にいついかなる方法で行うかについては全面的にCEの裁量にゆだねられていること、控訴人は終了後の報告や業務内容報告等により、顧客からの修理依頼等が確実に履行されたか否かを確認する以外に、CEの業務内容や業務遂行時間以外の行動等について関知せず、CEが独自に営業活動を行い、それにより収益を上げることを認めていること、控訴人は、CEが行った修理等の内容について、全国一律の標準額を基本としているものの、CEの裁量による増額を認めた上で、出来高制で報酬を支払っていること、したがってCEは自らが事業者となって業務を遂行する方がCEとして活動するよりも収益率が高いと判断した場合には自らが事業者となる業務の営業活動を重視し、CEとして活動する方が収益率が高いと判断した場合には控訴人からの発注を積極的に受注するという選択が可能であること、以上の事実を指摘することができる。 そうすると、CEは、業務の依頼に対して諾否の自由を有しており、業務の遂行に当たり時間的場所的拘束を受けず、業務遂行について控訴人から具体的な指揮監督を受けることはなく、報酬は行った業務の内容に応じた出来高として支払われているというべきであり、その基本的性格は控訴人の業務受託者でありいわゆる外注先とみるのが実体に合致して相当というべきである。 なお、修理依頼データを受信後直ちに承諾拒否を連絡しなければ受諾したものとみなされる、休日を予め届け出ておかなければならず、発注連絡時間が定められている、制服の着用や名刺の携行、各種マニュアルに基づく業務遂行が求められ、業務終了後は各種の報告をしなければならず、その他研修やエリア会議の出席が求められる、控訴人の定める認定制度やランキング制度によって報酬額が左右される、規定に反した場合には厳重注意や契約解除などがされることがあるなどの点については、これだけを取り上げれば拘束性があるとか指揮監督関係にあると評価することはできなくはない。しかし、これらはいずれも、控訴人の委託する修理補修業務が、水回りに関するINAXの住宅設備機器の修理補修等という連絡効率性、迅速性、確実性が求められかつ全国一律一定以上の技術水準を求められるという本件における基本的業務委託契約の委託内容による制約にすぎないというべきであり、これらの事情をもってCEがその業務を受諾しなければならない義務が発生しているとか、受諾後の業務遂行においてCEの裁量が否定され控訴人が指揮監督を行っているとかいうことはできない。そうすると、上記の事情の存在をもって、控訴人とCEとの関係がその基本的部分において法的に使用従属関係にあると評価することは困難であり、相当ではないというべきである。 3 被控訴人及び補助参加人らは、〈1〉 その者が当該企業の事業遂行に不可欠な労働力として企業組織に組み込まれていること、〈2〉 契約内容が一方的に決定されていること、〈3〉 業務の遂行の日時・場所・方法などにつき指揮命令を受けていること、〈4〉 業務の発注に対し、諾否の自由がないことなどの事情が認められる場合には、労働組合法上の労働者性が認められるのであり、CEはこれらの要件を充たすから労働組合法上の労働者ということができると主張する。 しかしながら、〈1〉については、控訴人の正社員が200名であり、CEが590名であることや、控訴人の主力業務である修理補修等の業務はCEが遂行していることなど被控訴人及び補助参加人らが指摘する事情が認められる一方で、CEが控訴人の発注に対し理由なく拒絶しても基本的業務委託契約上の債務不履行とならない、CEは控訴人から受注するほか、自ら営業主体となって修理補修等の業務を行うことができるなどの事情も認められる本件においては、CEが控訴人の労働力として企業組織に組み込まれていると評価することは困難である。〈2〉や〈3〉については、前記認定によれば、顧客と調整をした結果CEの行う業務の日時・場所が定まること、INAX製品の修理等であることからその修理等の方法を控訴人がCEに指定していることなどの事実が認められ、これを控訴人がCEに一方的に指揮命令していると評価することは可能であるが、いずれの事実も控訴人とCEとの業務委託の性質上そのように定めざるを得ないものにすぎず、法的関係において使用従属関係の存在を是認させるものではないから、やはりCEが控訴人の労働者であるとの結論を導くことは困難である。〈4〉については前記のとおりであって、CEには諾否の自由が認められるというべきである。 CEは労働組合法における労働者に該当するとの被控訴人らの主張は、控訴人との間に締結された業務委託契約に基づく法律関係の実体に対する全体的あるいは合理的考察を欠き、部分的あるいは表面的であっても指揮監督関係や拘束性について肯定的に評価できるものがあれば、契約内容のその余について考察を遮断し、これをもって控訴人とCEとの間に使用従属関係を基礎付ける指揮監督関係や拘束性の存在を認め、労働者性を肯定しようというものであって、社会の実情ないし経験則に照らしても合理的とは言い難い見解というほかなく、採用の限りではない。 4 以上の次第であるから、CEは控訴人との関係において労働組合法上の労働者に当たるということができず、したがってCEが労働者であることを前提とする団体交渉に控訴人が応じなかったとしても、これをもって労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するということはできない。 そうすると、控訴人の団体交渉拒絶行為を不当労働行為に該当するとして、控訴人に対し、補助参加人らが申し入れた団体交渉に応じること、補助参加人らに対して、団体交渉を拒否したことが大阪府労委から労働組合法7条2号に該当する不当労働行為であると認められたため今後このような行為を繰り返さないようにすることを記載した文書を手交することを命じた本件救済命令は、不当であって取り消されるべきである。 5 よって、以上と異なる原判決は相当ではないからこれを取り消すこととし、主文のとおり判決する。 |