ID番号 | : | 08779 |
事件名 | : | 不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 国・中央労働委員会(JR北海道・転勤)事件 |
争点 | : | 鉄道会社が、車掌職らへの転勤命令が不当労働行為に当たるとされた命令の取消しを求めた事案(会社敗訴) |
事案概要 | : | 鉄道会社が、車掌職組合員に対する転勤命令は、不当労働行為であると認定した中労委命令の取消しを求めた事案の控訴審である。 第一審札幌地裁は、本件転勤命令には、不利益性が十分認められるとして会社の請求を棄却したため会社が控訴。 第二審東京高裁は、不利益取扱いについて原審の判断を引用しつつ、本件車掌職は多数組合員を占める職場から、自らを敵視する者のみの職場に突如として転勤させられたのであり、新たな同僚とは交際することも期待できないばかりか、詰問を受けるおそれもあったと認められることなどを考慮すると、少なからざる精神的負担が生じたものと認められるとして不利益な取扱いであると認定した。また、不当労働行為意思の存否についても、所期の目的を達することが困難なことを予測しながら、本件車掌職の理解を得ることなく不意打ちともいい得る状況で転勤命令を発したこととなり、その行動は不自然といわざるを得ず、同命令が業務上の必要性に基づくものか否かについても疑問が生ずるとし、転勤後の勤務についても、正常な引継ぎを期待できないことを予測しながら行った異動命令であったとして、多数組合員であることの故をもって不利益に取り扱うものであるとともに、多数組合の組合活動を抑制するものと推認することができるとして、原審判断を維持した。 |
参照法条 | : | 労働組合法7条1号 労働組合法7条3号 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の限界/配転命令権の限界 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用/配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 2009年9月24日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21行(コ)24 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例989号94頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界-配転命令権の限界〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕 1 「不利益な取扱い」該当性について 当裁判所も、本件転勤命令は労働組合法7条1号本文にいう「不利益な取扱い」に該当すると判断する。〔中略〕 「 第5に、前記前提事実によると、釧路運輸車両所には、参加人組合に所属する車掌はおらず、労働組合に所属する車掌はすべて北鉄労の組合員であり、北鉄労は、参加人組合の前身である鉄産労及び国労の組合員とは一切交際しないよう組合員に指導するなど参加人組合とは対立関係にあり、特に参加人組合所属の車掌が釧路運輸車両所において執務することには強く反発し詰問行動等を行っていたことが認められる。これらによると、本件転勤命令によって、参加人Hらは、参加人組合が多数を占める職場から自らを敵視する者のみの職場に突如として転勤させられたのであり、新たな同僚とは交際することも期待できないばかりか詰問などを受けるおそれもあったと認められることなどを考慮すると、少なからざる精神的負担が生じたものと認めることができる。」 2 不当労働行為意思の存否について (1) 不当労働行為意思を推認させる間接事実の存在 当裁判所も、本件転勤命令について不当労働行為意思を推認させる間接事実として、控訴人の参加人組合に対する日常の言動や態度、本件転勤命令に関する北鉄労と参加人組合との情報量の差、本件転勤命令前後の控訴人の参加人組合への対応、本件転勤命令後の状況、及び年齢構成の是正に対する控訴人の取組につき、原判決が認定する事実を認めることができると判断する。〔中略〕 「 また、控訴人は本件転勤命令は業務上の必要性に基づくものと主張する。しかし、前記前提事実によると、札幌車掌所の車掌が他の車掌基地に転勤することが異例なものであることが認められるから、一方的に転勤を命ずることはその対象者やその者の所属労働組合の反発を招き、転勤後の業務の円滑な実施ができず、上記業務上の必要性を満たすことが困難になることが予想され、現に控訴人の従業員の多数を占める北鉄労は事前に反対の意思を表明していたのであるから、控訴人もこのことを十分に予測できたと認めることができる。そうすると、控訴人は、その所期の目的を達することが困難なことを予測しながら、参加人らの理解を得ることなく不意打ちともいい得る状況で本件転勤命令を発したこととなり、その行動は不自然といわざるを得ず、本件転勤命令が業務上の必要性に基づくものか否かについても疑問が生ずるところである。」〔中略〕 「 第3に、控訴人は、本件転勤命令後に参加人Hら及びKに指導的な業務を担当させていない。他方、車掌の業務に関するノウハウを継承する方法としては、業務上の指導によらず、待機時間における会話や従業員の自主管理活動である小集団活動その他の職場活性化活動等において経験豊かな者が後輩に自己の有するノウハウを伝えることも期待されていることが認められる。しかし、釧路運輸車両所には、参加人組合に所属する車掌はおらず、労働組合に所属する車掌はすべて北鉄労の組合員であり、北鉄労は、参加人組合の前身である鉄産労及び国労の組合員とは一切交際しないよう組合員に指導するなど参加人組合とは対立関係にあり、特に参加人組合所属の車掌が釧路運輸車両所において執務することには強く反発し詰問行動等を行っていたことが認められるから、参加人組合に所属する参加人Hら及びKが上記のような自主的な活動を通じて北鉄労に所属する後輩らに自己のノウハウを伝えることは、およそ期待できない状況にあったといわざるを得ず、控訴人もこれを認識していたと認めることができる」 (2) 不当労働行為意思の推認 前記(1)の間接事実を総合すると、本件転勤命令は、不当労働行為意思に基づくもの、すなわち、参加人Hら及びKを参加人組合の組合員であることの故をもって不利益に取り扱うものであるとともに、参加人組合の組合活動を抑制するものと推認することができる。 (3) 控訴人の主張について 控訴人は、本件転勤命令は、釧路運輸車両所の欠員補充と年齢構成の偏りの解消という業務上の必要性に基づき発令したものであり、その人選は、年齢構成の偏りを解消し、若手の指導的職員を補充する見地から、〈1〉30歳代又は40歳代で、5年後に50歳未満であること、〈2〉6等級及び5等級(同月1日付けの昇格予定者を含む。)であること、〈3〉就学中の子がおらず、かつ自宅を保有しない独身者であることという基準(「本件基準」)によったものであり、本件基準を全て満たす者は参加人Hら及びKとZのみであったから、控訴人の恣意が介在する余地はなく、不当労働行為意思に基づくものではないと主張する。 確かに、控訴人の主張する業務上の必要性は、経営者の判断として首肯し得ないでもなく、本件基準もそれ自体としては不当なものとは認め難い。 しかし、本件転勤命令前後の控訴人の参加人組合への対応は、前記認定説示のとおり、不自然といわざるを得ず、本件転勤命令が業務上の必要性に基づくものか否かについても疑問が生ずるところである。また、本件基準は、本件転勤命令が発出された時点ではこれを記載した書面はなく、本件転勤命令の撤回を求める団体交渉が行われ、参加人組合が人選の基準を明らかにするよう求めていたにもかかわらず、控訴人はこれに応じず、参加人Hらが本件転勤命令の無効を主張して提起した別件訴訟において初めて明らかにされたものであることからすると、本件転勤命令発出以前に策定されていたものか否か、またこれに基づいて人選が行われたか否かも疑わしいといわざるを得ない。更に、参加人Hら及びKが、転勤後に指導的な業務を担当していないばかりか、業務外の自主的な活動を通じて北鉄労に所属する後輩らに自己のノウハウを伝えることは、当初からおよそ期待できない状況にあったと認められ、それが釧路運輸車両所所属の車掌の所属労働組合に起因することからすると、所属労働組合を考慮しない本件基準は、控訴人の主張する業務上の必要性を満たすのに適切なものか否かにも疑問が生ずる。 これらによると、控訴人の上記主張は、本件転勤命令が不当労働行為意思に基づくものであるとの上記推認を覆すものではなく、他にこれを左右するに足りる事情も見当たらない。 3 よって、原判決は相当であり本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 |