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ID番号 : 8781
事件名 : 損害賠償請求控訴事件(2705号)、同附帯控訴事件(34号)
いわゆる事件名 : 日本通運事件
争点 : 系列運輸会社間で移籍した従業員らが移籍前に給与の最低保障があったと差額等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 運輸会社が、従業員4名の系列会社への移籍に際して、移籍前会社の賃金(月例賃金及び一時金)と同額を保障する旨の約束があったとして未払賃金等を請求し、予備的に、移籍先会社の、月例給与額及び一時金の額の支払を最低限保障するつもりもないのにこれがあると言った欺罔行為は信義則違反であるとして、損害賠償等を求めた事案の控訴審である。 第一審大阪地裁は、移籍先会社が積極的に好条件を提示した可能性を示唆したうえで、別途移籍前の会社と同額の賃金を保障する口頭の約束があったとして、未払賃金の支払を認めたため双方控訴。 第二審大阪高裁は、適正に手続がとられた雇用契約以外に口頭による保障約束をして二重の労働条件を設定したことは認められないとして、従業員らの主位的請求を斥け、その後の賃金改訂の効力についても、手続として適正になされており、また、一部労組上部団体の決定を経ていなくとも労働協約締結権は中央執行委員会に付与されていること、改訂内容は必ずしも不利益なものではないことなどからすると無効ということはできず、欺罔行為についてもその事実を認めることができないとして、原審判断を一部覆し、従業員らの請求を全て棄却した。
参照法条 : 労働基準法89条
労働基準法90条
労働基準法115条
労働組合法16条
民法623条
体系項目 : 配転・出向・転籍・派遣/転籍/転籍
賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労働契約(民事)/労働条件明示/労働条件明示
裁判年月日 : 2009年12月16日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(ネ)2705、平成21(ネ)34
裁判結果 : 認容(原判決取消し)
出典 : 労働判例997号14頁
労働経済判例速報2060号28頁
審級関係 : 一審/08737/大阪地平成20. 9.26/平成18年(ワ)第1359号
評釈論文 :
判決理由 : 〔配転・出向・転籍・派遣-転籍-転籍〕
〔賃金(民事)-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔労働契約(民事)-労働条件明示-労働条件明示〕
 第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、被控訴人らの請求(当審において拡張された請求を含む。)はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。〔中略〕
 以上の諸事情を前提に考えると、H課長を含む控訴人側担当者らが、被控訴人らに対し、従前の賃金を保証する旨説明したり、控訴人が本件保障約束をしたことは認めることはできず、かえって、被控訴人らは書面の内容の説明を受け「SD支店社員雇用契約書」のとおりの労働条件で本件各雇用契約を締結したものと認めるのが相当である。〔中略〕
(4) したがって、本件保障約束が成立したものと認めることはできず、反対に、控訴人の主張のとおり、被控訴人らは控訴人との間で、平成12年4月1日付けで、賃金について、原則として歩合給及び超過勤務手当を支給し、量低保障給(日額)として、平成12年4月分から6月分は、被控訴人Aが1万4287円、被控訴人Bが1万1047円、被控訴人Cが9984円、被控訴人Dが1万0565円、同年7月分以降は被控訴人らいずれも6000円という約定の本件各雇用契約を締結したものと認めるのが相当である。
(5) 以上によれば、従来の月例給与額及び一時金額を保障するとの本件保障約束が成立したことを前提とする被控訴人らの主位的請求アは理由がないことになる。〔中略〕
3 平成12年賃金規程改正の効力について〔中略〕
 しかし、本件各雇用契約に従えば、被控訴人Aの最低保障額は平成12年7月分以降は日額1万4287円から6000円へと減額されることになっていたところ、平成12年賃金規程改正では、まず、被控訴人らのように系列作業会社から移行してきた者への特例措置を同年9月分までに延長した上で、最低保障額の上限を1万2000円に引き下げ、下限を7200円に引き上げるというものであったから、被控訴人Aについても不利益に変更されたとはいえない。その他の被控訴人らについては、特例措置が延長されたのみで最低保障額の日額も減額されておらず、不利益変更には当たらない。したがって、平成12年賃金規程改正に合理性がないとはいえない。
 なお、被控訴人らは、平成12年賃金規程改正を労働基準監督署へ届け出たとは認められず、労働組合の意見聴取もしていないし、周知もされていないと主張しており、控訴人も労働基準監督署への届出に関する資料はなく、労働組合の意見聴取はしていないと主張している。これらの点からすると、平成12年賃金規程改正の効力には疑問がないとはいえないが、従業員らに対しては周知していたものと推認できること、平成12年賃金規程改正がなければ、前記のとおり、被控訴人らの最低保障額は、本件各雇用契約に基づいて日額6000円に減額されることになるところ、これを上回る条件を定める平成12年賃金規程改正の効力を控訴人自らが認めることからすれば、あえてその効力を否定すべき理由はないというべきである。
4 平成13年賃金規程改正の効力について〔中略〕
 しかし、平成13年賃金規程改正は、被控訴人らのように系列作業会社から移行してきた者への特例措置を同年1月分まで延長した上で、それまで均一7200円であった最低保障額を、扶養家族の人数に応じて上限1万円から下限7200円までと幅を持たせたものであった。被控訴人らの本件各雇用契約及び平成12年賃金規程改正に従えば、平成12年10月分以降最低保障額は日額7200円になるはずであったことからすれば、この改正は不利益変更に当たらないというべきである。また、平成13年賃金規程改正については、全日通労働組合への意見聴取及び労働基準監督署への届出がされ、従業員において周知されていたものと推認することができる。
 したがって、平成13年賃金規程改正はその条項どおりの効力を有するものと認めることができる。
5 平成14年労働協約の効力について〔中略〕
 以上によれば、平成14年労働協約は、全国大会を経ずに締結されたものであることが認められる。しかし、〈1〉労働協約締結権については、全国大会において中央執行委員会に付与されていること、〈2〉その内容について、最低保障額は労働協約締結以前の状況を確認するものであり、被控訴人らに新たに不利益を課すものではないこと、〈3〉一時金についても、会社の業績に左右されるもので、本件各雇用契約においては祝儀程度とされていたものが、インセンティブ制度として新たに支給されることとなり算定式も明確にされるなどしたもので、必ずしも不利益なものではないことからすると、全日通労働組合の全国大会を経ていない(被控訴人ら個別の意見聴取が行われていないことも含む。)からといって、これが無効ということはできない。
 また、被控訴人らは、平成13年9月1日に全日通労働組合に加入しているところ、平成14年労働協約には被控訴人らにこれを適用しない旨の記載もないことから、被控訴人らにも適用されるというべきである。
6 信義則違反を理由とする債務不履行又は不法行為の成否(被控訴人らの予備的請求)について〔中略〕
 しかし、控訴人が被控訴人らに対して、虚偽の事実を述べるなど欺罔行為をした事実を認めることはできないから、被控訴人らの主張は理由がない。〔中略〕
 第4 結論
 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人らの請求は当審において拡張された請求も含めて理由がなく、いずれも棄却を免れない。よって、原判決中被控訴人らの請求を一部認容した部分は不当であるから、控訴人の本件控訴に基づきこの部分を取り消した上当該部分の請求をいずれも棄却し、他方、被控訴人らの本件附帯控訴(当審における請求の拡張部分を含む。)は棄却することとして、主文のとおり判決する。