ID番号 | : | 08782 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | パナソニックプラズマディスプレイ事件 |
争点 | : | 偽装請負の工場に勤務していた者が労働局に偽装を申告した上で発注者に直接雇用を求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | プラズマディスプレイパネル製造会社Xの工場で、業務請負会社AとXとの業務委託契約に基づいて封着作業に従事していたYが、Xによる直接雇用を希望したがこれが受け入れられず、このため、偽装請負であることを労働局に申告し、その是正指導により期限付きでXに直接雇用されたものの、別作業に異動され、その後雇止めを通告されたため、地位確認、賃金支払、損害賠償等を求めた事案の上告審である。 第一審大阪地裁は、XY間には元々黙示の雇用契約は成立しておらず、また直接雇用に至った際にも期限のない雇用は成立していないとしたが、配転に伴う苦痛に慰謝料支払を一部認めた。 第二審大阪高裁は、元々XY間には黙示の雇用契約が成立していたと認定し、地位確認、賃金支払請求及びリペア作業に就労する義務のないことを認め、一部損害賠償も認めたためXが上告。 最高裁第二小法廷は、XY間には黙示的にも雇用契約関係が成立していたと評価することはできないとし、その後のXY間の有期雇用契約、更新拒絶の意思表示及び雇止めについても、Yが期間満了後も継続して雇用されるものと期待することの合理性も認められないことから、雇用契約は期間満了をもって終了したとして、原判決中の当該部分を破棄し、同部分のXの上告を棄却した(配転は報復的なものであるとして不法行為を認めた)。 |
参照法条 | : | 労働契約法6条 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律2条 職業安定法4条 民法623条 民法632条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約 労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求 解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め) 労働契約(民事)/労働契約の期間/労働契約の期間 労働契約(民事)/成立/成立 |
裁判年月日 | : | 2009年12月18日 |
裁判所名 | : | 最二 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成20受1240 |
裁判結果 | : | 一部棄却、一部破棄自判 |
出典 | : | 労働判例993号5頁 労働経済判例速報2060号3頁 裁判所時報1498号12頁 判例時報2067号152頁 判例タイムズ1316号121頁 |
審級関係 | : | 一審/08569/大阪地平成19. 4.26/平成17年(ワ)第11134号
控訴審/0895大阪高20. 4.25/平成19年(ネ)第1661号 |
評釈論文 | : | 勝亦啓文・労働判例997号5~13頁2010年4月15日 豊川義明・甲南法学50巻4号225~260頁2010年3月 大内伸哉・ジュリスト1402号150~153頁2010年6月15日 中山慈夫・ビジネス法務10巻6号82~87頁2010年6月 原昌登・労働法学研究会報61巻11号4~25頁2010年6月1日 高橋正俊・経営法曹164号19~26頁2010年6月 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-委任・請負と労働契約〕 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-派遣労働者・社外工〕 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 〔労働契約(民事)-労働契約の期間-労働契約の期間〕 〔労働契約(民事)-成立-成立〕 (2) 次に、上告人と被上告人との法律関係についてみると、上告人はCによる被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり、被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず、かえって、Cは、被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど、配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって、前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても、平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない。 したがって、上告人と被上告人との間の雇用契約は、本件契約書が取り交わされた同年8月19日以降に成立したものと認めるほかはない。 (3) 上記雇用契約の契約期間は原則として平成18年1月31日をもって満了するとの合意が成立していたものと認められる。 しかるところ、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は、労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、当該雇用契約の雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されない(最高裁昭和45年(オ)第1175号同49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁、最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁参照)。 しかしながら、上告人と被上告人との間の雇用契約は一度も更新されていない上、上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人及び本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。そうすると、上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより、被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にも当たらないものというべきである。 したがって、上告人による雇止めが許されないと解することはできず、上告人と被上告人との間の雇用契約は、平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない。 (4) もっとも、上告人は平成14年3月以降は行っていなかったリペア作業をあえて被上告人のみに行わせたものであり、このことからすれば、労働局への申告に対する報復等の動機によって被上告人にこれを命じたものと推認するのが相当であるとした原審の判断は正当として是認することができる。これに加えて、被上告人の雇止めに至る上告人の行為も、上記申告以降の事態の推移を全体としてみれば上記申告に起因する不利益な取扱いと評価せざるを得ないから、上記行為が被上告人に対する不法行為に当たるとした原審の判断も、結論において是認することができる。 5 以上によれば、上告人と被上告人との間に平成17年8月22日以前からPDP製造の封着工程への従事を内容とする黙示の雇用契約が成立していたものとし、上告人による被上告人に対するリペア作業への従事を命ずる業務命令及び解雇又は雇止めをいずれも無効であるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決のうち損害賠償請求を除く被上告人の各請求を認容すべきものとした部分は破棄を免れない。この点をいう論旨は理由がある。そして、第1審判決のうち雇用契約上の権利を有することの確認請求及び賃金支払請求を棄却し、リペア作業に就業する義務のないことの確認を求める訴えを却下した部分は正当であるから、同部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。 これに対し、上告人に対する損害賠償請求を一部認容すべきものとした原審の判断は是認することができ、この点に関する論旨は理由がないから、原判決のうち損害賠償請求を一部認容すべきものとした部分に関する上告人の上告は棄却すべきである。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官今井功の補足意見がある。 裁判官今井功の補足意見は、次のとおりである。 私は、法廷意見に賛同するものであるが、被上告人をリペア作業に従事させたこと及び平成18年1月31日限りで雇止めしたことについて不法行為が成立する理由について補足して意見を述べておきたい。 被上告人は、Cと雇用契約を結び、Cと上告人との業務委託契約に基づき、Cから上告人に派遣されていたところ、被上告人及び本件組合が、被上告人の直接雇用を上告人に求めるとともに、労働局へ労働者派遣法違反の事実があると申告したことから本件紛争が始まった。労働局は、上告人に対し、Cとの業務委託契約は、労働者派遣に該当し、労働者派遣法に違反するから、業務委託契約を解消し、適法な労働者派遣契約に切り替えるよう是正指導した。これを受けて、上告人は、被上告人の従事していたデバイス部門の契約を他社との間の労働者派遣契約に改めることとしたが、被上告人は他社や他部門への移籍を拒否し、直接雇用を求めた。そこで、上告人は、被上告人と本件契約書記載の内容の雇用契約を締結した。被上告人と上告人との間の直接の雇用契約が締結されるに至った経過の概要について、原審の認定するところは以上のとおりである。 本件契約書による上告人と被上告人との間の雇用契約は、白紙の状態で締結されたものではなく、上記のような事実関係の中で締結されたことを考慮すべきである。そうすると、この雇用契約は、労働局の上記の是正指導を実現するための措置として行われたものと解するのが相当である。そして、原審の認定するところによれば、リペア作業は、平成14年3月以降は行われていなかった作業であり、ほとんど必要のない作業であるということができるのであって、被上告人が退職した後は、事実上は行われていない作業であった上、被上告人は、他の従業員から隔離された状態でリペア作業に従事させられていたというのである。被上告人が上告人に直接雇用の要求をし、また、労働局に偽装請負であるとの申告をしてから、本件契約書を作成するに至る事実関係からすると、上告人は、被上告人が、労働局に偽装請負であるとの申告をしたことに対する報復として、被上告人を直接雇用することを認める代わりに、業務上必要のないリペア作業を他の従業員とは隔離した状態で行わせる旨の雇用契約を締結したと見るのが相当である。このことは、労働者派遣法49条の3の趣旨に反する不利益取扱いであるといわざるを得ない。被上告人は、本件組合や弁護士と相談の上、その自由意思に基づき本件契約書に署名したとはいうものの、Cとの契約を解消して収入のない状態であり、上告人においても被上告人が収入がなく困窮していた事実を知っていたと認められるのであり、これらの事情を総合すると、上告人が被上告人をリペア作業に従事させたことは、労働局への申告に対する不利益取扱いとして、不法行為を構成するということができる。平成18年1月31日の雇止めについても、これに至る事実関係を全体として見れば、やはり上記申告に対する不利益取扱いといわざるを得ない。 |