ID番号 | : | 08784 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 江崎グリコ事件 |
争点 | : | 菓子・食料品会社の短期雇用ストアセールス3名が雇止めの無効を求めた事案(労働者のうち一部が勝訴) |
事案概要 | : | 菓子・食料品製造販売会社に、営業担当(ストアセールス)として採用され、1年ごとに契約を数年から十数年間更新した後に雇止めされた3名が、雇止めを無効として雇用契約上の地位保全及び賃金仮払の仮処分を求めた事案である。 秋田地裁は、まず本件雇用実態に照らせば、雇用継続の期待利益に合理性があるから、雇止めの効力を判断するに当たっては解雇権濫用法理が類推されるとした上で、〔1〕人員削減の企業経営上の必要性は2名削減分までは認められること、〔2〕整理解雇回避努力義務については会社は真摯かつ合理的な努力を尽くしたと評価できること、〔3〕被解雇者選定にも合理性が認められ、〔4〕労使間における協議義務の履行等の手続の妥当性についても、協議義務を誠実に履行しており手続は妥当であったと認定し、2名についての雇止めを有効とし、人事評価の最も高い1名の雇止めのみ無効として賃金の仮払いを認めた(地位保全の必要性は認めなかった)。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め) 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性 解雇(民事)/整理解雇/協議説得義務 |
裁判年月日 | : | 2009年7月16日 |
裁判所名 | : | 秋田地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成21(ヨ)4、平成21(ヨ)5、平成21(ヨ)6 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例988号20頁 労働経済判例速報2052号23頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 高橋賢司・労働法学研究会報61巻14号24~29頁2010年7月15日 |
判決理由 | : | 〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕 〔解雇(民事)-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕 〔解雇(民事)-整理解雇-協議説得義務〕 2 争点(1)(本件雇止めの効力)について (1) 本件雇止めに解雇権濫用法理が適用されること 有期の雇用契約において更新が繰り返されたときには、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になったと認められる場合、又は期間の定めのない契約と必ずしも同視できなくても雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性があると認められる場合には、雇用契約の反復更新後の雇止めには解雇権濫用法理が類推され、合理的な理由のない雇止めは、解雇権の濫用に当たり無効となるというべきである。 債権者Aは、平成5年12月に債務者に採用されて以来、本件雇止めまで約15年間、合計16回にわたって債務者から雇用契約を更新されており、債権者Bは、平成11年6月に債務者に採用されて以来、本件雇止めまで約9年6か月間、合計10回にわたって債務者から雇用契約を更新されており、債権者Cは、平成16年5月に債務者に採用されて以来、本件雇止めまで約4年7か月間、合計5回にわたって債務者から雇用契約を更新されているのであって、平成19年までは債権者らと債務者との間で具体的な交渉もなく当然に雇用契約が更新されてきたこと、ストアセールスについて雇止めの前例はほとんどなかったことに照らせば、債権者らと債務者との間の雇用契約は、形式的には期間の定めのあるものであったが、更新を繰り返すことが当然に予定されており、雇用継続に対する債権者らの期待利益に合理性があると認められるから、本件雇止めの効力を判断するに当たっては、解雇権濫用法理が類推されるというべきである。 (2) 本件雇止めが整理解雇の有効要件を満たしているか否かについて 債務者は、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推されるとしても、本件雇止めは整理解雇が有効とされるための要件を具備している旨主張するので、この点について判断する。 整理解雇が有効とされるためには、〈1〉人員削減の企業経営上の必要性、〈2〉整理解雇回避努力義務の履行、〈3〉被解雇者選定の合理性、〈4〉労使間における協議義務の履行等の手続の妥当性が必要であると解される。そこで、本件雇止めについて上記〈1〉ないし〈4〉の要件が備わっているか検討する。 ア 人員削減の企業経営上の必要性について 債務者の売上高は年々減少傾向にあり、平成20年度には過去15年間で初めての営業損失を計上するに至っているなど、債務者の経営状態は相当程度悪化している。また、「標準コール数」で示される債務者の秋田事務所におけるストアセールスの仕事量は、訪問すべき店舗数や各店舗における活動可能な業務内容の減少等を反映して、平成20年2月の時点で5名の合計値が319.3と東北管内の他の県と比べると4名分程度の仕事量しかなく、本件雇止めが行われた同年12月の時点では5名の合計値が255.4と3名分程度の仕事量しかなかった。 こうした状況に照らすと、本件雇止めの時点において、債務者の秋田事務所におけるストアセールス合計5名のうち、2名については人員を削減する企業経営上の必要性があったというべきである。 しかしながら、債権者ら3名の本件雇止めのうち1名については、人員削減の必要性が認められず、解雇権濫用法理が類推適用されてその雇止めが無効となると解される。 イ 整理解雇回避努力義務の履行について 債務者は、平成20年4月ころには債権者らストアセールスに割り当てるための新たな訪問先や業務を探すべく努力している。また、上記認定事実1(5)のとおり、団体交渉において債権者らの労働時間を4時間ないし4時間半に短縮することにより債権者ら3名全員の雇用を確保するワークシェアリングの方法を提案したり、債権者らに相当額の再就職支援金の支払を申し出て希望退職を促したりしており、本件雇止めを回避すべく真摯かつ合理的な努力を尽くしたと評価すべきである。 ウ 被解雇者選定の合理性について 債務者が平成20年3月以降Eには秋田県北部、Fには同県南部を中心とした営業担当先を割り当てることとし、さらに、債務者の秋田事務所をめぐる経済環境が悪化した結果、本件雇止めが行われた同年12月の時点では、秋田市及びその周辺を担当する債権者ら3名には、合計しても1名分に相当する仕事量しかなかったのであるから、債権者ら3名のうちから2名の雇止め対象者を選定することには、十分な合理性が認められる。 そして、債務者は、同年4月16日、同年5月11日から半年間債権者らの雇用契約を更新し、その間に債権者らについて客観的な人事評価を行った上で雇用を継続する2名を選定する旨の方針を債権者らに告知し、上記半年間債権者らに対して人事評価を行った結果、債権者Aが1位、債権者Cが2位、債権者Bが3位となったものであって、上記人事評価の方法に特段不合理な点は見当たらないから、債権者ら3名の本件雇止めのうち、債権者B及び債権者Cの雇止めは、対象者の選定について客観的かつ合理的な基準を設定してこれを公正に適用したもので有効というべきであるが、人事評価の最も高い債権者Aの雇止めは無効となると解すべきである。 これに対し、債権者らは、上記のとおりE及びFに営業担当先を割り当てたこと及びE及びFを雇止めの対象としなかったことが不合理かつ恣意的である旨主張する。 しかし、E及びFはそれぞれ秋田県北部(大館市)及び同県南部(横手市)に居住しており、債権者ら3名はいずれも秋田市新屋地区に居住しているのであって、秋田県内の地理及び交通の状況、債務者の社有車で自宅近くの駐車場から営業担当先店舗へと直行・直帰するというストアセールスの業務形態等に照らせば、債務者において秋田県北部及び同県南部に居住するE及びFにそれぞれ同県北部及び同県南部の営業担当先を割り当て、秋田市新屋地区に居住する債権者ら3名の中から雇止めの対象者を決定するという選定方法は、債務者が負担すべき社有車の燃料費、維持費、自宅・店舗間の往復の移動に要するストアセールスの人件費等に鑑みて十分に合理性のある選択であるというべきである。 さらに、債権者らは、県境をまたぐ広域規模のワークシェアリングを行って債権者らの雇用を確保すべきである旨主張するが、債権者らストアセールスが転勤を予定していない職種であること、東北地方の地理及び交通の状況やストアセールスの業務形態等に照らすと、債権者らの上記主張は、およそ合理性及び実現可能性を欠くものといわざるを得ない。 エ 労使間における協議義務の履行等の手続の妥当性について 債務者は、債権者らに対する最初の雇止めの予告をした平成20年4月以降、2回にわたって債権者らとの雇用契約を更新し、その間に労働組合と2回にわたる団体交渉及び労働委員会の2回のあっせんによる債権者らとの話合いを行い、本件雇止めを回避すべく合理的な解決案を債権者らに提案しているから、労使間における協議義務を誠実に履行しているというべきであり、本件雇止めの手続は妥当であったと認めることができる。 (3) 以上の検討によれば、債務者による本件雇止めのうち、債権者B及び債権者Cに対するものは有効であり、上記両名については本件における被保全権利が認められないが、債権者Aに対する雇止めは無効であって、同人には本件における被保全権利があると認めるのが相当である。 3 争点(2)(保全の必要性)について 上記のとおり被保全権利が認められる債権者Aについては、その家族構成、生活状況等に照らすと、本件雇止めの日の翌日である平成20年12月11日から本案判決確定に至るまで本件雇止め前3か月の平均賃金額に相当する1か月当たり13万1570円の賃金の仮払いを求める限度で保全の必要性が認められるが、賃金の仮払いを認める以上、雇用契約上の地位保全の必要性まで認めることはできない。 |