ID番号 | : | 08790 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴、附帯控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | T社事件 |
争点 | : | 労働者派遣会社から解雇された労働者が、解雇を不当として地位確認、未払給与等を求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 労働者派遣事業等を行う会社から普通解雇された会社員が、解雇には理由がなく、仮にあったとしても相当性を欠き解雇権濫用に当たり無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認及び未払給与等の支払を求めた事案の控訴審である。 第一審甲府地裁は、会社員の主張を大筋で認め、会社に諸給与等の支払を命じた。これに対し会社が控訴。 第二審東京高裁は、15の解雇理由のうち8つの事実を認定した上で、会社が行った解雇の社会的相当性について、上司による多数の指導に様々な形で度のすぎた反抗的な対応等を重ね、社内秩序の意味を十分に理解認識していた筈にもかかわらず就業時間内に会社の事務機器を私用に用い、社有車を職務外に利用し、あまつさえガソリン代の不正請求を重ねるなどの会社員の諸行状に照らして、会社がなおも教育指導を重ねて社内で円滑な仕事を行わせるよう努めるべきであると認めるに足りる格別な事情もうかがえない本件では、解雇は社会通念上も相当なものであり、濫用ではなく解雇は有効として、原判決中会社敗訴部分をいずれも取り消し、会社員の請求をすべて棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 解雇(民事)
/解雇事由
/勤務成績不良・勤務態度 解雇(民事) /解雇事由 /上司反抗 |
裁判年月日 | : | 2010年1月21日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21(ネ)1800/平成21(ネ)3306 |
裁判結果 | : | 認容、附帯控訴棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2065号32頁 |
審級関係 | : | 一審/甲府地平成21.3.17/平成20年(ワ)第80号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇(民事)‐解雇事由‐勤務成績不良・勤務態度〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐上司反抗〕 (1) 解雇理由(1)(朝営業先に直行し、出社しないこと)について〔中略〕 エ してみれば、被控訴人の前記アの行動は、被控訴人の組織としての秩序を乱すものであるといわざるを得ず、控訴人の就業規則(以下「本件就業規則」という)13条①号、⑨号に違反し、同27条1項②号に該当するが、懲戒解雇事由である同33条2項⑦号に該当するとまではいうことができない。 (2) 解雇理由(2)(新規営業をしないこと等)について〔中略〕 しかし、証拠(略)によれば、控訴人は、Cが、上記見解の下に、平成19年5月28日及び同年6月8日に被控訴人に対して営業活動ができないならば人事部に異動する旨告げたところ、被控訴人は「俺は営業職で入ったから嫌だ」と述べた上、「給料以上の仕事はやりたくない」と述べたことが認められる。上記のCの告知は、正式の配転命令とは認められず、人事部への異動を予告することにより被控訴人の奮起を促す言葉にすぎないものと認められるが、これに対する被控訴人の上記の反応は、たとえ被控訴人が新規営業の努力をしていたとしても、上司の指導に対する言動としては度のすぎた反抗的なものであって、本件就業規則13条⑨号に違反するものであり、他の違反事実と併せれば、同条にしばしば違反していたものであるから、同27条1項②号に該当することとなる。 したがって、上記の限度で、解雇理由(2)の事実を認めることができる。 (3) 解雇理由(3)(職務怠慢を正当化する発言)について 証拠(略)によれば、被控訴人は、Cから、平成19年6月8日、マクドナルド国母店で、新規営業活動をすること及び朝出社することを指導された際、「会社の決算書を見ると、こんな給与じゃ、ばかばかしくてやってられない」と発言をしたことが認められる。かかる発言は、上司の指導に対するものとして非常識な内容及び表現であって、反抗的なものであるといわざるを得ず、本件就業規則13条⑨号に違反し、他の違反事実と併せれば、同27条1項②号に該当することとなる。 (4) 解雇理由(4)(上司の営業への同行の拒否)について〔中略〕 イ 上司であるCが、被控訴人の営業活動に疑問を抱き、同行したい旨申し入れたところ、被控訴人がこれを拒否した行為は、それ自体組織における秩序を乱す行為であり、本件就業規則12条、同13条⑨号に違反し、他の違反事実と併せれば、同27条1項②号に該当することとなる。 (5) 解雇理由(5)(指揮命令に従わないこと)について 当裁判所も、解雇理由(5)を認めることはできないと判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1(5)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (6) 解雇理由(6)(社内での脅迫的な言動等)について〔中略〕 してみれば、被控訴人の上記各行為は、本件就業規則13条⑨号に違反し、他の違反事実と併せれば、同27条1項②号に該当することとなる。 (7) 解雇理由(7)(同僚とのコミュニケーションがとれないこと等)について 当裁判所も、解雇理由(7)について、本件就業規則13条⑨号に違反し、27条1項②号及び同33条2項⑦号に該当すると評価し得る事実は認められないと判断する。〔中略〕 (8) 解雇理由(8)(パソコンの破損行為)について〔中略〕 してみれば、被控訴人の上記行為は、控訴人の備品を損壊する非常識なものであって、本件就業規則13条⑨号に違反し、他の違反事実と併せれば、同27条1項②号に該当することは明らかである。書込みの字体が小さいことや、消去することも可能なものであること、パソコンが耐用年数を経過した古いものであったことは、上記判断を動かすものではない。 (9) 解雇理由(9)(社有車の職務外使用)について 当裁判所も、解雇理由(9)が認められ、本件就業規則13条⑧号に違反し、同27条1項②号に該当すると判断する。〔中略〕 (10) 解雇理由(10)(社有車の破損)について 当裁判所も、解雇理由(10)に関し、本件就業規則13条⑨号に違反し、同27条1項②号並びに同33条2項⑦号及び⑧号に該当するような事実は認められないと判断する。〔中略〕 (11) 解雇理由(11)(備品の乱暴な取扱い)について〔中略〕 してみれば、被控訴人の上記行為は、本件就業規則13条⑨号に違反し、同27条1項②号及び同33条2項⑦号に該当する。 (12) 解雇理由(12)(勤務時間中の私用行為)について〔中略〕 そして、被控訴人の上記行為は、本件就業規則13条⑤号及び⑧号に違反し、同27条1項②号に該当するというべきである。〔中略〕 (13) 解雇理由(13)(早退等が多いこと)について 当裁判所も、解雇理由(13)は認められないと判断する。〔中略〕 (14) 解雇理由(14)(派遣スタッフからの要請に対する不熱心な態度等)について 当裁判所も、解雇理由(14)は認められないと判断する。〔中略〕 (15) 解雇理由(15)(ガソリン代の不正請求)について〔中略〕 そうすると、被控訴人は、少なくとも、平成19年7月30日及び同年8月22日に私有車(いずれも連休の直後であり、レジャー等に使用して、ガソリンが足りなくなったものと推認される)に給油したにもかかわらず、これらの領収書を控訴人に提出してその精算を受け、ガソリン代を不正に取得したと認められる。 ウ してみれば、被控訴人の上記行為は本件就業規則13条の②号及び⑩号に違反し、同27条1項②号及び同33条2項⑤号に該当する。 3 解雇権の濫用の有無について〔中略〕 以上によれば、被控訴人の上記認定された各行為は本件規則27条1項②号、33条2項⑤号(上記(15))、⑦号(上記(4)、(11))に該当するといえ、これは客観的に合理的な理由があるといえるので、さらに、控訴人において被控訴人を上記理由により解雇することの社会的相当性の有無をみるに、被控訴人は上司による多数の指導に対し様々な形で執拗に度のすぎた反抗的な対応その他を重ねたほか、社内秩序の意味を十分に理解認識していた筈の被控訴人が就業時間内に会社の事務機器を私用に用い、社有車を職務外に利用し、あまつさえガソリン代の不正請求を重ねるなどの諸行状に照らして、控訴人において被控訴人に対しなお教育指導を重ねて社内で円滑な仕事を行わせるよう努めるべきであると認めるに足りる格別な事情もうかがえない本件においては、本件解雇が社会通念上も相当なものであると認めざるを得ない。 したがって、控訴人の被控訴人に対する本件解雇は権利の濫用であるとは認められず、他にこれを認定するに足りる的確な証拠はない。 4 以上によれば、被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。 |