ID番号 | : | 08792 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三井記念病院(諭旨解雇等)事件 |
争点 | : | 特養副施設長が配転、降格、諭旨解雇を無効として地位確認、給与支払等を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | 特別養護老人ホームの副施設長Xが、必要性のない配置転換、降格、不当な諭旨解雇があったなどと主張して、社会福祉法人Yに対し、地位確認及び給与と損害賠償等の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まず配置転換について、センター長への配転が人事上の裁量権を逸脱するものとはいえないし、退職に追い込む目的でされたと認めることはできず、命令に従うべきであったとした。次に降格について、配転先の教育研修センターには他の職員が配置されておらず、センター長であっても職員であっても業務内容等は同じはずなのに給与月額を減額したことなどからすると、その降格は不当なものであり命令に従う必要性は認められないとした(ただし、特命事項については従う義務があったと認定)。 そして諭旨解雇については、Xは3か月間にわたり新執務室への移動命令に従わなかったがその後従っており、同命令違反は、事務遅滞や職員の士気の低下等、施設の業務に悪影響を及ぼした形跡がないことから諭旨解雇事由に当たらず、一方、特命事項違反は形式的には諭旨解雇事由に当たるが、解雇という形でXに負わせるのは客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当でなく解雇は無効であるとしてXの地位確認請求を認め、また賞与を除いて未払賃金の支払を認めた(将来の賃金請求と損害賠償については否認)。 |
参照法条 | : | 労働契約法15条 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用
/配転命令権の濫用 労働契約(民事) /人事権 /降格 解雇(民事) /解雇事由 /業務命令違反 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求 |
裁判年月日 | : | 2010年2月9日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成19(ワ)30681 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1005号47頁/判例タイムズ1331号123頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣‐配転命令権の濫用‐配転命令権の濫用〕 〔労働契約(民事)‐人事権‐降格〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐業務命令違反〕 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 2 認定事実に基づく判断 (1) 本件諭旨解雇の相当性について ア 教育研修センター長への配転の当否〔中略〕 そうすると、被告が原告を退職に追い込む目的でセンター長への配転の人事命令を発したと認めることはできない。 したがって、センター長への配転の人事命令は、不当なものではなく、原告はこれに従うべきであったと認められる。 イ センター長への配転に関して発せられた特命事項等の当否 上記のとおり、センター長への配転の人事命令が不当なものではないと認められる以上、これに関して発せられた特命事項(前記1(1)キ、ケ)もまた、不当なものではないということができる。〔中略〕 また、新執務室への移動命令は、同室が従来の執務室と同じフロアにあり、狭あいでもなく、デスク等の備品も設置されていたことなどから、原告に対する嫌がらせとは認められず、不当なものではないということができる。 したがって、原告は、上記特命事項等について、これらに従うべきであったと認められる。 ウ 原告が上記ア、イの人事命令等に従わなかったというべきか否か〔中略〕 原告がセンター長への配転の人事命令にいっさい従わなかったと認めることはできない。 一方、原告が作成したプログラムや事業計画書等の中には、問題のないものもあれば、他のセミナーで提出した書面の焼き直しに過ぎないものなど、業務の目的を果たしたとはいえないものもあった。そうだとすると、原告は、教育研修の枠組みと実行計画の企画立案等、平成18年11月27日付け特命事項の一部に従わなかったというべきである。 原告は、センター職員へ降格される直前の平成19年2月28日まで、新執務室への移動を拒んでおり、その移動命令に従わなかったことが明らかである。 エ センター職員への降格の人事命令等の当否等 上記のとおり、原告は、特命事項の一部と新執務室への移動命令に従わなかったのであり、そのため、被告は、原告に対し、平成19年3月1日付けでセンター職員への降格の人事命令を発した。しかし、教育研修センターには他の職員が配置されておらず、センター長であっても同職員であっても業務内容等は同じであるはずであるのに、被告が原告の給与の月額を約3万円減額したことなどからすると、その降格の人事命令は不当なものといわざるを得ない。したがって、原告が同命令に従う必要性は認められない。 ただし、その降格の人事命令に関して発せられた特命事項(平成19年3月1日付け)は、教育研修センター長への配転の人事命令に関して発せられたものと同様のものであり、同センターの業務に関する命令ということができるから、これをただちに不当なものとはいえないし、原告はその一部に従わなかったというべきである(上記イ、ウ)。 オ 業務命令違反についての検討 原告は、3か月間にわたり新執務室への移動命令に従わなかったが、その後、平成19年2月28日にこれに従った。また、同命令違反は、事務遅滞や職員の士気の低下等、本件施設の業務に悪影響を及ぼした形跡がない。したがって、その違反は、同年4月にされた本件諭旨解雇事由(就業規則87条(2)職場配置命令拒否)に当たらない。 原告は、センター長への配転前も含めて、約4か月半の間、職種別業務マニュアルの整備、業務進捗報告書の提出等、多岐にわたる特命事項の一部に従わなかった。その中には、A施設長が教育研修センターのビジョンを示さないと主張して、前年度と同じプログラムを提出したり、教育計画書の提出を拒否したりするなど、態様の悪いものも見受けられる。また、原告が業務命令に従わない代わりにしていたことは、被告の代表者理事らに対し、A施設長らを強く批判して、処遇に関する不満を綿々と書き連ねた上申書を送付するなど、労使間の信頼関係を損なうものであった。このような特命事項違反は、本件諭旨解雇事由(就業規則87条(1)、86条(4)業務命令無視等)に当たる。 しかし、原告は、特命事項に従って問題のない成果物を作成したこともあるし、所属長であるA施設長に対し、ユニットケア勉強会関連会議報告を提出したり、高知で開催されたセミナーにおける講演の報告をしたりするなど、センター長または職員として業務を遂行したこともある。また、原告の特命事項違反の背景には、原告とA施設長らの意見、方針等の対立が顕著に認められる。その経緯において、原告は、A施設長に対し、教育研修センターの設置目的の説明を要求し続けるなど、攻撃的で対立的な対応に終始しているが、一方、同施設長らの姿勢も歩み寄りを見せようとせず、柔軟性を欠いたものにとどまっているというべきである。そうだとすると、このような双方の意見等の対立を背景とする特命事項違反の結果を、解雇という形で原告に負わせるのは相当でないと考えられる。 以上によれば、本件諭旨解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものというべきである。したがって、本件諭旨解雇における被告の不当労働行為意思の有無について判断するまでもなく、同解雇は無効であるから、原告の地位確認請求が認められる。 (2) 賃金請求について ア 前記(1)エのとおり、センター職員への降格の人事命令は不当というべきであるから、原告は、被告に対し、本件諭旨解雇の翌月である平成19年5月から本判決確定まで毎月25日限り、同降格前の給与月額50万6360円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求することができる。 イ 原告について、本件諭旨解雇後に賞与が発生したことを認めるべき証拠はない。したがって、原告の賞与請求は認められない。 (3) 不法行為の有無について〔中略〕 A施設長らは、原告に不愉快と感じられる言動をしたことが認められる。 しかし、〔中略〕 本件の事実経過を通じて、同施設長らが、みずからの職務怠慢が浮き彫りになることを恐れて、本件施設をよりよくするための努力をする原告を退職に追い込もうと企図し、暴言や嫌がらせや恫喝(パワハラ)を重ねたなどと認めることもできない。したがって、被告に不法行為は成立しない。 3 本判決確定の翌日以降の賃金請求について 原告らは、本判決確定後についても毎月の賃金請求をしているが、雇用契約上の地位の確認と同時に将来の賃金を請求する場合には、地位を確認する判決確定後も、被告が原告からの労務の提供の受領を拒否して、その賃金請求権の存在を争うなどの特段の事情が認められない限り、賃金請求中、判決確定後にかかる部分については、あらかじめ請求する必要がないと解するのが相当である。本件において、この特段の事情を認めることができないから、本判決確定後の賃金請求にかかる訴えは、不適法というべきである。 |