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ID番号 : 08796
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 東奥学園事件
争点 : 学校法人に雇止めされた非常勤講師が、雇用契約上の地位確認と賃金支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 :  学校法人に雇用されていた非常勤講師が、1年契約を3度更新した後いわゆる雇止めにより雇用が継続されなかったのは不当であるとして、雇用契約上の地位確認と雇止後の賃金の支払を求めた事案の控訴審である。  第一審青森地裁は、度重なる非違行為に加えて教員としての資質に重大な疑問を抱かせる事情もあり、雇止めには社会的相当性を欠くところはないとして講師の請求を棄却した。これに対し講師が控訴。  第二審仙台高裁は、3度の契約更新、雇用継続についての説明不足、契約書の不存在、勤務状況等からみて、講師の雇用継続に対する期待利益には合理性があるとした。他方、届出書類と異なる住所と通勤状況及びここから派生する通勤手当の過剰受給、住所変更届の提出懈怠などが本件雇止めの相当性を基礎づけるものとはいえず、また、実家から通勤するとした顛末書を提出したもののこれを履行しないという非違行為についても、一切弁明の機会を与えていないなど不当であるとした。その上で、本件雇止めは社会的相当性を欠き、権利の濫用にあたることは明らかであるとして原判決を取り消し、講師の請求を認めて地位の確認と未払賃金の支払を命じた。
参照法条 : 労働契約法16条
体系項目 : 解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2010年3月19日
裁判所名 : 仙台高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ネ)334
裁判結果 : 一部認容(原判決取消)、一部棄却
出典 : 労働判例1009号61頁
審級関係 : 一審/青森地平成21.6.24/平成20年(ワ)第269号
評釈論文 : 葛西聡・季刊労働者の権利285号68~72頁2010年7月
判決理由 : 〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所は、主文の限度で控訴人の請求を認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、後記のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の当該欄説示のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 「(4) そこで、次に、本件雇用契約について、控訴人において、雇用継続に対する期待を有することが合理的であったといえるかを検討する。
 ア 上記認定によれば、控訴人は、新規学卒者として被控訴人に雇用されたものであり、例えば、定年退職後に有期雇用される者であるとか、あらかじめ病気休業や育児休業等により欠けた教員の一時的な代替であることを明示されて有期雇用される中途採用者等と異なり、雇用継続を期待してしかるべき状況にあったものといえるところ、雇用契約に先立つ被控訴人代表者との面接において一定期間後の雇用の継続は保障されない旨の説明は一切なく、契約期間の始期である平成16年4月1日に契約期間が記載された辞令を交付されたのみで契約書の作成もされず、被控訴人における有期契約の更新に関する方針について口頭の説明等もなされなかったことが認められる。
 また、本件高校における平成19年5月1日時点での専任教員は37名、常勤教員は15名であるところ(〈証拠略〉)、控訴人を含む常勤教員には、他の専任教員等の担当授業時間数と遜色なく授業を担当し、クラス担任を担当したり、校務分掌において役割を担ったりクラブ・同好会活動の指導に携わるなどし(〈証拠略〉)、控訴人の在籍期間においてなされた臨時教員の雇止は、前記のとおり、本件高校において不祥事を理由とするもの1件、高齢を理由とするもの1件、幼稚園において収支状況の悪化を理由とするもの1件であり、特段の理由もなく期間が満了したことのみにより一方的に雇止がなされた事例があったことはうかがわれない。
 以上に加え、控訴人は、本件雇用契約を3回更新されて、被控訴人における勤務年数が4年に及んでいることからすれば、控訴人が、本件雇用契約については、継続を期待することに合理性があるものと認められる。〔中略〕
 (5) そうすると、本件雇用契約について控訴人が雇用の継続を期待することに合理性があるものと認められ、控訴人について雇止するに当たっては、解雇に関する法理を類推するのが相当である。
 3 争点(2)(本件雇止についての権利濫用の有無)について〔中略〕
 (3) 本件雇止の相当性
 ア 控訴人は、本件雇止には相当な理由はなく、権利の濫用にあたると主張し、被控訴人は、控訴人について、①届出書類と異なる住所及び通勤状況であったこと及び通勤手当の過剰支給を受けたこと、②①につき住所変更届の提出を速やかに行うように指示を受けながらこれを怠ったこと及び③その後、被控訴人の総括事務長の督促を受けると、以後は実家から通勤することとする顛末書を提出したものの、その後も従前どおり婚約者と同居を継続し、婚約者宅から通勤したことという非違行為が存在すること並びに④教員としての能力・適性が劣ることから、本件雇止は相当であり権利の濫用にはあたらないと主張する。
 イ 控訴人は、当審において本件戒告処分が無効であると主張するが、まずは、本件戒告処分が有効であることを前提に検討する。
 ①について、上記認定によれば、控訴人が意図的に住所変更を隠蔽しようとしていたということはできず、また、実家からの通勤距離は6.6キロメートルで婚約者宅からの通勤距離は5.7キロメートルであり、婚約者宅からの通勤距離がそれ程短いとはいい難いから、控訴人が通勤手当を意図的に不正受給しようとしたものということもできない。次に、②については、確かに控訴人は本件戒告処分後1か月弱の期間適切な対処を怠っており、適切ではないが、上記(1)認定の控訴人及び婚約者間の事情に照らせば、直ちに控訴人が本件戒告処分を真摯に受けとめなかったと評価することは困難である上、②の事情については顛末書の提出をさせる以上に特段の処分や注意を受けた様子はうかがわれない。加えて、①及び②の事情により、控訴人の教員としての労務提供に支障を来したことをうかがわせる証拠はない。そして、③及び④の事情が認められないのは上記(1)(2)説示のとおりである。
 そこで検討すると、上記事情に鑑みれば、①②の事由については本件雇止の相当性を基礎づけるものとは到底いえない。まして、被控訴人は、③の事由を重視して本件雇止を行ったことがうかがわれるところ、同事実を確認するために本件調査(わずか4日間の調査でそのうち1日については控訴人の車両を確認できていない。)を行ったのみでその結果について控訴人に一切弁明の機会を与えておらず、不当である。本件雇止は社会的相当性を欠き、権利の濫用にあたることは明らかである。
4 以上によれば、本件雇止により本件雇用関係が終了したとはいえないことになり、雇用関係は継続しているとみるべきであり、控訴人の雇用契約上の地位確認請求には理由がある。〔中略〕
 主文
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。〔中略〕
 以上によれば、原告は、戒告処分を受けた上、その理由となった状況を改めることなく放置し、被告から督促されて状況を改める旨の顛末書を提出したにも拘わらず、これを改めることなく、従前の状況を継続していたというべきであり、これは、原告が、本件高校の公民科の教員として、その生徒らに規範を遵守すべきことを教育し、育成しなければならない立場にあることを考慮すると、教員としての資質に重大な疑問を抱かせる事情であるといわざるを得ず、被告のした本件雇止には、客観的で合理的な理由があるというべきである。〔中略〕
 原告は、単に住居変更届等を懈怠したのにとどまらず、これに基づく戒告処分を受けながらも、これを真摯に受けとめることなく、被告に対して実態とは異なる虚偽の顛末書を提出し、自己の不行跡を改める姿勢を示さなかったものといわざるを得ない。そして、この原告の行為は、被告との間の信頼関係を破壊するものであって、決して軽視することのできない非違行為であるといわざるを得ず、また、上記説示のとおり、原告の教員としての資質に重大な疑問を抱かせる事情でもあるというべきである。
 そうすると、原告との雇用契約を終了させた被告による本件雇止には、社会的相当性を欠くところはないというほかない。
 (3) 以上のとおりであって、被告が主張するその他の事由について判断するまでもなく、被告による本件雇止は、これに客観的で合理的な理由があり、社会的にも相当であるといわざるを得ないものであるから、権利の濫用ということはできず、有効というべきである。
 4 したがって、本件雇止には解雇権濫用の法理が類推適用されるべきものではあるが、本件雇止が権利の濫用であるとすべき事由はないというほかないから、原告の請求には理由がないというべきであって、棄却を免れない。