ID番号 | : | 08798 |
事件名 | : | 損害賠償本訴請求、賃金等反訴請求控訴事件(353号)、同附帯控訴事件(559号) |
いわゆる事件名 | : | 三和サービス(外国人技能実習生)事件 |
争点 | : | 帆布製品製造会社が、外国人技能実習生のボイコットにより損害を被ったと賠償金を求めた事案(会社側敗訴) |
事案概要 | : | 帆布製品製造会社が外国人技能実習生ら5名に対し、就業をボイコットされたことにより取引先を失い、縫製部門が廃業に追い込まれたとして損害賠償金等を求めたのに対し、実習生らは解雇無効につき、賃金と研修期間中の未払時間外労働賃金、付加金等の支払を求めた事案の控訴審である。 第一審津地裁四日市支部は会社の請求を棄却し、実習生らの反訴請求のうち解雇の事実はなかったが、就労時の未払時間外労働賃金と付加金については認容した。これに対し双方が控訴。 第二審名古屋高裁は、まず不就労の責任について、会社が暴力によって威嚇して恐怖感を抱かせ就労できないようにさせたものであって、専ら会社が招いたことであり実習生らに帰責性はないとし、不就労と会社の損害との因果関係も否定した。次に実習生らの反訴請求について、前記不就労後に話合いがもたれたが会社が就労を一切拒絶したことが認められ、このような労務受領拒否は解雇にほかならないとして解雇を認定した。その上で、たとえ有力取引先との取引がなくなったからといって縫製の仕事をすぐに廃業すべき必然性も合理性もなく、したがって解雇がやむを得ないものであったとは認め難く、解雇権の濫用として無効であると判示し、会社の本訴控訴は棄却、実習生らの附帯控訴を認容した(付加金については一部除斥期間を認めた)。 |
参照法条 | : | 労働基準法20条 労働基準法26条 労働基準法37条 労働基準法114条 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)
/労働者
/研修期間の外国人研修生 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /労働者の損害賠償義務 解雇(民事) /解雇事由 /企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更 解雇(民事) /解雇事由 /就労不能 雑則(民事)/付加金 /付加金 雑則(民事)/時効/時効 |
裁判年月日 | : | 2010年3月25日 |
裁判所名 | : | 名古屋高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21(ネ)353/平成21(ネ)559 |
裁判結果 | : | 棄却(353号)、一部認容(原判決一部変更)、一部棄却(559号) |
出典 | : | 労働判例1003号5頁 |
審級関係 | : | 一審/津地平成21.3.18/平成19年(ワ)第478号/平成19年(ワ)第552号 |
評釈論文 | : | 吉田美喜夫・法律時報82巻8号122~125頁2010年7月山口浩一郎・労働法令通信2233号22~23頁2010年12月8日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐研修期間の外国人研修生〕 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐労働者の損害賠償義務〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐就労不能〕 〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕 〔雑則(民事)‐時効‐時効〕 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきものと、また、被控訴人の反訴請求(当審における請求増額分を含む。)のうち、平成19年9月1日からそれぞれの外国人技能実習期間満了まで月額11万7000円の賃金(被控訴人Aら3名につき各8か月分合計各93万6000円、被控訴人Dら2名につき各12か月分合計各140万4000円)及びこれらに対する各支払日(毎月末日)の翌日から支払済みまでの遅延損害金、並びに、未払時間外労働賃金(被控訴人Aら3名につき各45万4925円、被控訴人Dら2名につき各54万9523円)及びこれらに対する遅延損害金については、いずれも理由があるから全部認容し、付加金請求については、被控訴人Aら3名つき各12万7096円、被控訴人Dら2名につき各29万6777円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その範囲でこれらを認容し、その余をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおり、原判決を付加訂正するほか、原判決「第4 当裁判所の判断」欄の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕 「(2) 争点(2) 8月27日の不就労につき被控訴人らの帰責性の有無〔中略〕 これらによれば、被控訴人らがミシン台の高さのような自分たちの労働条件に関わる重要な事柄につき、控訴人に対して労働環境に関する要求をすることは当然許されるべきことであると解されるが、控訴人は、そのような切実ともいえる要求をした被控訴人らに対し、暴力によって威嚇し、恐怖感を抱かせ、控訴人において就労できないようにさせたものであるから、8月27日の不就労については、専ら控訴人が招いたことであり、被控訴人らには帰責性はないというべきである。〔中略〕 「3 反訴請求について (1) 争点(1)、控訴人は被控訴人らを解雇したか 前記(付加訂正後の原判決)1(19)ないし(22)に認定の事実によれば、被控訴人らは、8月27日の不就労の後にも、すぐに中国に帰る意思はなく、暴力を振るう控訴人代表者の下では働きたくはないが、会社の変更が叶わなければ、やむなく控訴人において働き続けるしかないとも考えていたこと、したがって、無条件で控訴人を退社して帰国する旨の意思を表明したことはないこと、むしろ、日本での就労継続を希望して、平成19年8月29日には、労働基準監督署や日本労働評議会に連絡を取るなどし、同年9月1日には、このような被控訴人らの意向を受けて、日本労働評議会が控訴人に対し、就労の保障を求めて団体交渉の申入れがなされ、これを受けて、同日話合いがもたれたこと、しかるに、控訴人代表者は、既に仕事はなくなっており、材料も取引先に全部返した旨述べて、今後の被控訴人らの就労を一切拒絶したことが認められ、控訴人によるこのような労務受領拒否は、被控訴人らに対する解雇にほかならないというべきである。〔中略〕 (2) 争点(2) 解雇の無効及び賃金の額 ア 次に、控訴人による上記解雇がやむを得ないものであったといえるかどうかを検討するに、被控訴人らを解雇した際の上記控訴人代表者の発言は、被控訴人らの就労拒否によって取引先を失って仕事がなくなり、材料も取引先に全部返したという趣旨の発言であると解されるものの、上記発言のみでは期間の定めのある労働契約における解雇理由が明示されているとはいい難い上、これまで述べたところによれば、被控訴人らによる8月27日の就労拒否は、控訴人に非はあっても被控訴人らに非のあることではないこと、控訴人は、当初日本人のパートを5人くらいは雇っており、日本人を雇うことで殊更人件費が嵩むものでもないこと(当審における証人L)や、外国人研修生や外国人技能実習生を受け入れるために相当多額の投資ないし支出をしていながら、当時未だそれを回収できておらず、むしろ多額のリース代の債務が残り、向後10年以上にわたり利益を上げることを望んでいたこと(本訴状の記載ほか弁論の全趣旨)等からすれば、たとえ株式会社Iとの取引がなくなったからといって、縫製の仕事をすぐに廃業すべき必然性も合理性もなかったといえるところであるから、控訴人が被控訴人らに対してなした解雇がやむを得ないものであったとは認め難く、このような解雇は解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない。 イ そして、前記認定によれば、上記解雇当時、被控訴人らの月給は各11万7000円であったことが認められるから、控訴人は、平成19年9月から被控訴人らそれぞれの実習期間満了までの間、被控訴人らに対し、未払賃金として毎月末日限り各11万7000円ずつ及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うべきであり、被控訴人Aら3名に対しては各93万6000円及び別紙遅延損害金目録〈15頁〉記載1の金員を、被控訴人Dら2名に対しては各140万4000円及び別紙遅延損害金目録記載2の金員を支払う義務がある。」〔中略〕 確かに、被控訴人らは、平成17年10月1日から同年12月31日までの間、第一次受入機関の代表者が経営する三重県鈴鹿市所在の「Mテック」と称する仕事場において就労していた事実は認められる(当審における証人L、弁論の全趣旨)。しかし、当審における証人Lによれば、同証人をはじめ、控訴人、Mテックらは、受入機関以外の場所で外国人研修生を就労させることが名義貸し(飛ばし)として禁止されていることを十分に理解しながら、被控訴人らを他の仕事場であるMテックで就労させ、研修費用は控訴人名で支払っていたものであることが認められ、この事実からすれば、この間も被控訴人らを控訴人に属する外国人研修生として、控訴人の業務命令に基づき、上記仕事場で就労させていたというべきであり、この間だけその労働者性が失われていたともいえないところであるから、当然に控訴人に差額賃金の支払義務が生じるものというべきである。よって、控訴人の上記主張は採用し難い。 オ 付加金について 他方、上記時間外労働賃金の不払いは、労基法37条1項に違反するものであるから、被控訴人らは控訴人に対し、労基法114条の付加金をも請求し得るところ、その範囲は、労基法37条1項の割増賃金部分のみならず、通常の賃金も含めたものであると解され、本件においては、最大で、上記各未払時間外労働賃金(被控訴人Aら3名につき各45万4925円、被控訴人Dら2名につき各54万9523円)と同額の付加金の支払を命じる余地があり(後記除斥期間により認められない部分は除く。)、これまで述べたところによれば、裁判所の裁量によって付加金を減額するのが相当とされるような事情は全く窺われないところである。 (4) 争点(4) 付加金のうち当審において請求が拡張された部分についての除斥期間経過の有無〔中略〕 イ そこで検討するに、付加金請求は、裁判所の職権による支払命令を求める特殊な訴訟行為であり、本体請求の附帯請求としての性格を有し、当裁判所における貼用印紙額の計算上も付加金部分は除かれる扱いであって、付加金請求権は、それ自体が通常の訴訟物とは異なるものである。そして、付加金の額は、労基法20条、26条若しくは37条の規定に違反した場合、「これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額」(労基法114条本文)とされ、本体の未払金の額に規定されるものである。そうすると、違反の時から2年以内に請求されている付加金の額が、仮に誤って少額であったしても、本体請求における未払金の額が異ならないのであれば、その後、その未払金の額に合致した額に付加金の請求を増額したとしても、2年の除斥期間によりその増額が制限されることはないというべきである。したがって、その限りで控訴人の上記主張は採用できない。 しかし、違反があった時から2年以内に全く請求を行わなかった付加金については、除斥期間の経過によってこれを請求することができなくなるものと解さざるを得ない。〔中略〕 そうすると、被控訴人Aら3名については、原判決別表1の「2006年1月」から「4月」まで4か月間の「時間外労働賃金」欄の合計額19万7836円から、同期間の「既払額」欄の合計額7万0740円を差し引いた12万7096円は、いずれも除斥期間にかかわらず請求が認められるが、それより前のものについては、除斥期間の経過により請求が認められない。 また、被控訴人Dら2名については、原判決別表2の「2006年1月」から「8月」まで8か月間の「時間外労働賃金」欄の合計額47万9657円から、同期間の「既払額」欄の合計額18万2880円を差し引いた29万6777円は、いずれも除斥期間にかかわらず請求が認められるが、それより前のものについては、除斥期間の経過により請求が認められない。」 第4 結論 よって、上記判断と一部結論の異なる原判決を被控訴人らの本件附帯控訴に基づき変更し、控訴人の本件控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 |