ID番号 | : | 08806 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 藍澤證券事件 |
争点 | : | 証券会社から雇止めを受けた短期契約社員(精神障害3級)が地位確認と賃金等を求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 証券会社で一般事務に就労し雇止めを受けた短期契約社員(精神障害3級)が、雇止めを無効として、地位の確認と賃金、在籍中の同僚からの嫌がらせに対する慰謝料等を求めた事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、元社員の勤務態度について、郵便の誤配送や名刺作成での製作・印刷ミスによって損害を生じさせており、また自分のミスを隠そうとしたりで改善が見込めないと判断したのであって、第2契約の登用特約があったとしても元社員に雇用継続の合理的期待はなく、契約期間満了により終了したというのが相当であるとした。また損害賠償責任についても、同僚によるハラスメントの事実が存在しないか、存在するとしてもハラスメントであると評価することはできないことから使用者責任及び債務不履行責任の前提事実を欠くとした。 第二審東京高裁は、会社は障害に配慮して元社員の従事する業務を選定し、同僚らに具体的な指導に当たらせるなどしてその能力に見合った業務に従事させるなど適正な雇用管理を行っていたところ、元社員は作業上のミスを重ね、指導を受けてもそれを改善せず、一度は契約の更新をしてもらったものの、就労の実状を改善することができなかったばかりか、名刺作成の際に失敗した用紙を無断でシュレッダーにかけたり、それが発覚すると自分の机の中に隠すなどして失敗を隠蔽するに及び、やむなく雇止めを行ったとして、元社員の控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 民法623条民法628条民法709条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求 解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) |
裁判年月日 | : | 2010年5月27日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21(ネ)5747 |
裁判結果 | : | 控訴棄却 |
出典 | : | 労働判例1011号20頁/労働経済判例速報2076号30頁 |
審級関係 | : | 一審/東京地平成21.9.28/平成20年(ワ)第21106号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 第3 当裁判所の判断〔中略〕 なるほど、障害者の雇用の促進等に関する法律5条は、障害者を雇用する事業者は、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を努めなければならないと定めているのであるから、当該労働者が健常者と比較して業務遂行の正確性や効率に劣る場合であっても、労働者が自立して業務遂行ができるようになるよう支援し、その指導に当たっても、労働者の障害の実状に即した適切な指導を行うよう努力することが要請されているということができる。 しかし、同法は、障害者である労働者に対しても、「職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。」(第4条)として、その努力義務について定めているのであって、事業者の上記の協力と障害を有する労働者の就労上の努力があいまって、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念が実現されることを期待しているのであるから、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援及び指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負っているのである。 本件において、控訴人の就労の実状は上記のとおりであって、被控訴人は、控訴人の病状に配慮して、郵便物の仕分け、郵便料金の支払、名刺作成、事務用品の発注及び挨拶状作成といった、比較的簡易な事務に従事させ、また、その業務遂行に当たっては、Bを担当者として、その指導等に当たらせ、また、控訴人の希望に沿って定時に帰宅させるといった配慮もしていたのである。 そして、甲第20号証、証人K及び同Bの各証言並びに弁論の全趣旨によると、控訴人のうつ病については、控訴人の入社前にLマネージャーがBに説明した上、うつ病についてのレクチャーをし、Bも自ら家庭医学書やウェブサイトでうつ病についての知識を深めて控訴人に接していたこと、B自身は、控訴人に対する話し掛け方がきついとは思ってはいなかったものの、平成18年8月ころ人事部長のKから、Bの話し掛け方がぶっきらぼうの印象を与えたかも知れないので、健常者に対するよりも少し軟らかく話してはどうかと注意を与えられたことがあり、Bもこれを納得して、その後は控訴人に対する話し方を軟らかくするように心掛けていたことのほか、Bの指導の在り方に問題があれば、管理本部長のCがBに注意するなどして、これに対処していたことが認められる。 そうすると、被控訴人は、控訴人の障害に配慮して、控訴人の従事する業務を選定し、その業務遂行については、Bを指導担当者として具体的な指導に当たらせ、同人の指導のあり方に問題があれば、Cが注意するなどしていたのであるから、控訴人をその能力に見合った業務に従事させた上、適正な雇用管理を行っていたということができる。 ところが、控訴人は、作業上のミスを重ね、Bから具体的な指導を受けてもその改善を図らず、一度は契約の更新をしてもらったものの、上記の就労の実状を改善することができなかったばかりか、名刺作成の際に失敗した用紙を無断でシュレッダーに掛けたり、これが発覚すると自分の机の中に隠すなどして、失敗を隠蔽するに及んでいるのである。このような事態を受けて、被控訴人は、やむなく本件雇止めを行ったのであるから、本件雇止めには合理的な理由があったものと認められる。 (2) なお、控訴人は、控訴人の業務遂行の実状について、控訴人本人の供述よりも、証人Bの証言の方が信用性が高いと評価することは精神障害者に対する理解を欠く判断である旨論難する。 しかし、控訴人の原審における供述は、印刷等のミスをしたことはなく、仕事上のミスの指摘を受けたこともなく、定時に退社するということもなかったなどと強弁するのみであるのに対し、証人Bの証言は、控訴人の就労の実状について具体的にその経緯等を述べており、証人Eの証言内容とも整合するのであって、控訴人の上記供述よりもその信用性が高いというべきであるから、上記認定判断をもって、障害者の雇用の促進等に関する法律の精神を無視したものであるということはできない。 (3) 以上のとおりであって、本件雇止めには合理性がなく無効である旨の控訴人の主張はこれを採用することができない。 3 したがって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。 |