全 情 報

ID番号 : 08807
事件名 : 障害補償給付支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 : 国・園部労働基準監督署長(傷害等級男女差)事件
争点 : 金属加工会社の業務災害で火傷を負った者が障害等級表認定を不服として取消しを求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 :  金属加工会社Aで勤務中、業務災害によって火傷を負った男性Xが、後遺障害について障害等級表併合第11級に該当すると認定した労働基準監督署長の処分について、女性の後遺障害の等級に比べて等級が低過ぎるとして取消しを求めた事案である。  京都地裁は、〔1〕本件差別的取扱いの合憲性、すなわち、差別的取扱いの程度の合理性、厚生労働大臣の裁量権行使の合理性が立証されていないとして、障害等級表の差別的取扱いを定める部分は、合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして憲法14条1項に違反するものと判断せざるを得ず、その処分は、憲法14条1項に違反する障害等級表の部分を前提にこれに従ってされたものである以上、原則として違法であるといわざるを得ないとした。同時に、〔2〕だからといって、男女に差が設けられていること自体が直ちに違憲であるともいえず、男女を同一の等級とするにせよ、異なった等級とするにせよ、外ぼうの醜状という障害の性質上、現在の障害等級表で定められている他の障害との比較から、第7級と第12級のいずれかが基準となるとも、その中間に基準を設定すべきであるとも、直ちに判断することは困難であり、結論が単純に導けない以上、違憲である障害等級表に基づいてXに適用された障害等級(第12級)は違法であると判断せざるを得ないとして、処分を取り消した。
参照法条 : 日本国憲法14条
労働者災害補償保険法15条
労働者災害補償保険法12条の8第1項3号
労働者災害補償保険法施行規則14条
労働者災害補償保険法施行規則別表第1
体系項目 : 労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /障害補償(給付)
労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /障害等級と男女平等
裁判年月日 : 2010年5月27日
裁判所名 : 京都地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成20(行ウ)39
裁判結果 : 認容
出典 : 労働判例1010号11頁/判例時報2093号72頁/判例タイムズ1331号107頁/裁判所ウェブ掲載判例
審級関係 :
評釈論文 : 夏井高人・判例地方自治331号109~114頁2010年8月新井誠・法学セミナー55巻9号34~35頁2010年9月川田知子・労働法学研究会報61巻20号22~27頁2010年10月15日
判決理由 : 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐障害補償(給付)〕
 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐障害等級と男女平等〕
 1 争点(1)について〔中略〕
 以上のとおり、国勢調査の結果は、外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらによる就労機会の制約、ひいてはそれに基づく損失てん補の必要性について、男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異につき、顕著ではないものの根拠になり得るといえるものである。また、外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念があるといえなくはない。そうすると、本件差別的取扱いについて、その策定理由に根拠がないとはいえない。
 しかし、本件差別的取扱いの程度は、男女の性別によって著しい外ぼうの醜状障害について5級の差があり、給付については、女性であれば1年につき給付基礎日額の131日分の障害補償年金が支給されるのに対し、男性では給付基礎日額の156日分の障害補償一時金しか支給されないという差がある。これに関連して、障害等級表では、年齢、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的条件について、障害の程度を決定する要素となっていないところ(認定基準。〈証拠略〉)、性別というものが上記の職業能力的条件と質的に大きく異なるものとはいい難く、現に、外ぼうの点以外では、両側の睾丸を失ったもの(第7級の13)以外には性別による差が定められていない。そうすると、著しい外ぼうの醜状障害についてだけ、男女の性別によって上記のように大きな差が設けられていることの不合理さは著しいものというほかない。また、そもそも統計的数値に基づく就労実態の差異のみで男女の差別的取扱いの合理性を十分に説明しきれるか自体根拠が弱いところであるうえ、前記社会通念の根拠も必ずしも明確ではないものである。その他、本件全証拠や弁論の全趣旨を省みても、上記の大きな差をいささかでも合理的に説明できる根拠は見当たらず、結局、本件差別的取扱いの程度については、上記策定理由との関連で著しく不合理なものであるといわざるを得ない。
 (4) 小括
 以上によれば、本件では、本件差別的取扱いの合憲性、すなわち、差別的取扱いの程度の合理性、厚生労働大臣の裁量権行使の合理性は、立証されていないから、前記(2)ウのように裁量権の範囲が比較的広範であることを前提としても、なお、障害等級表の本件差別的取扱いを定める部分は、合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして、憲法14条1項に違反するものと判断せざるを得ない。
 そして、本件処分は、上記の憲法14条1項に違反する障害等級表の部分を前提に、これに従ってされたものである以上、原告の主張する条約違反の点(前記第2の2(1)(原告の主張)エ)を検討するまでもなく、本件処分は原則として違法であるといわざるを得ない。
 2 争点(2)について
 (1) 前記1のように、本件差別的取扱いは憲法14条1項に違反しているとしても、男女に差が設けられていること自体が直ちに違憲であるともいえないし、男女を同一の等級とするにせよ、異なった等級とするにせよ、外ぼうの醜状という障害の性質上、現在の障害等級表で定められている他の障害との比較から、第7級と第12級のいずれかが基準となるとも、その中間に基準を設定すべきであるとも、本件の証拠から直ちに判断することは困難である。
 (2) このように、「従前、女性について手厚くされていた補償は、女性の社会進出等によって、もはや合理性を失ったのであるから、男性と同等とすべき(引き下げるべき)である」との被告が主張するような結論が単純に導けない以上、違憲である障害等級表に基づいて原告に適用された障害等級(第12級)は、違法であると判断せざるを得ず、本件処分も、前記1の原則どおり違法であるといわざるを得ない。
 3 争点(3)について
 前記1、2のとおり、本件処分が違法であることは明らかであるから、争点(3)は判断する必要がない。
 4 結論
 以上のとおり、本件処分は障害等級表の憲法14条1項に違反する部分に基づいてされたもので、違法である。したがって、本件処分は取り消されるべきであり、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。