ID番号 | : | 08810 |
事件名 | : | 賃金請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | フィンエアー事件 |
争点 | : | 航空機客室乗務員が、業務時間が12時間を超えたことを理由に欠員手当の支給を主張した事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 航空機の客室乗務員7名が、航空会社に対し、雇用契約上、フライト編成時の人員に欠員が生じていない場合であっても、フライト業務時間が12時間を超えたときには欠員手当を支払うことが定められていたとして、欠員手当の支払等を求めた事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、客室乗務員らの請求は、実際のフライト乗務時間が12時間を超過したことを理由に、フライト乗務超過勤務手当に加えて更に欠員手当を請求するものであって理由がなく、また本来フライト編成について定めるワークマニュアルを、制定目的を異にする欠員手当支給規定を補充する事後的な解釈基準として位置付けることはできないとして、請求を棄却した。これに対し客室乗務員らが控訴。 第二審東京高裁は、日本人客室乗務員に対する欠員手当は、フライト出発時の合計編成人員に欠員が発生した場合に限り支払われるべきものであり、出発時の合計編成人員に欠員が生じていない場合においてはフライトが12時間を超えたからといって会社が欠員手当の支払義務を負うものではないとして、客室乗務員らの控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法8条 労働契約法9条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事)
/就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立
/就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立 就業規則(民事) /就業規則の一方的不利益変更 /その他 |
裁判年月日 | : | 2010年7月22日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成22(ネ)884 |
裁判結果 | : | 控訴棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2080号23頁 |
審級関係 | : | 一審/東京地平成22.1.15/平成20年(ワ)第26678号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則(民事)‐就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立‐就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立〕 〔就業規則(民事)‐就業規則の一方的不利益変更‐その他〕 2(1) 上記1の事実によれば、日本人客室乗務員に対する欠員手当は、フライト出発時の合計編成人員に欠員が発生した場合に限って支払われるものであり、出発時の合計編成人員に欠員が生じていない場合において、フライトが12時間を超えたからといって、被控訴人が欠員手当の支払義務を負うものではない。 (2) 本件ワークマニュアルの趣旨及び性格について ア 控訴人らは、本件ワークマニュアル中の本件12時間超規定を根拠として、予定されたフライト業務時間が12時間を超えていなかったが、実際のフライト業務時間が12時間を超えた場合において、フライト出発時に遡って客室乗務員数を12名と固定し、実際の客室乗務員数がこれに満たなかった場合には、その不足した員数分を欠員と扱って、欠員手当を支給すべきであると主張する。 しかし、そもそも、日本人客室乗務員の欠員手当は、前記のとおり、本件賃金規定において定められた日本人客室乗務員特有の乗務員手当の一つであり、フライト出発時の合計編成人員に欠員が生じた場合にその欠員人数に応じて支払われる手当であって、本件賃金規定には、欠員が生じない場合にまで欠員手当を支払うべきものとする定めは見当たらない。また、本件ワークマニュアル及びその元となったフィンランド語のワークマニュアルは、顧客満足度を向上させるために客室乗務員が行うべき機内サービスの実施方法等を客室乗務員向けに具体的に示した業務上のガイドラインにすぎないのであり、このような本件ワークマニュアルの趣旨及び性質からすれば、本件ワークマニュアルにおいて客室乗務員に対する欠員手当の支給要件が規定されているものと解することはできない。 イ 「On flights in excess of 12h, fix12CAs」の意義について 控訴人らは、本件12時間超規定の「On flights in excess of 12h, fix12CAs」は、「フライト業務時間が12時間を超えた場合には必要編成人員が12名となる。」ことを意味するとも主張する。 しかし、本件12時間超規定は、前記1(1)及び(5)のとおり、被控訴人が予め定める客室乗務員数は、飛行機の機種や顧客サービスについての方針に応じて被控訴人の顧客サービス部門が決定する人数であり、原則として顧客数に応じて定められ、例外として、予定フライト業務時間が12時間を超えるときにのみ客室乗務員は12名で固定するというものであるから、同規定が実際のフライト勤務時間が結果的に12時間を超えた場合には遡って客室乗務員を12名で固定すべきであるとの趣旨であると解することはできない。 (3) 被控訴人による欠員手当の支給について 被控訴人が平成19年9月15日、同年10月28日、同年11月2日、同月4日の便に乗務した客室乗務員計5名に12時間超過を理由とする欠員手当を支払ったことは前記1(6)に認定したとおりであるところ、前記1(6)の事実によれば、被控訴人がフライト出発時の合計編成人員に欠員が生じていない場合に12時間超過を理由に欠員手当を支払ったのは、上記の1例のみであって、その前後において、被控訴人が同様の支払をしたことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、控訴人らを含む客室乗務員からの請求があっても就業規則に支給の定めがないとして支払を拒否していたことが明らかであり、こうした事情に前記1(6)のその余の事実及び(7)の事実を考え併せれば、上記の欠員手当の支払は、担当者が欠員手当の支給要件を誤解していたことによるものと認めるのが相当である。 (4) フィンランド人客室乗務員との比較について 控訴人らは、フィンランド人客室乗務員には12時間超過となった場合に欠員手当が支払われていたから、これとの比較において、日本人客室乗務員にも同様の措置がとられるべきであると主張する。 しかし、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、労働協約により、フィンランド人客室乗務員に対し、予定されたフライト及び予定されていないフライトにおいて12時間を超える場合、欠けた客室乗務員1名につき1休日の欠員補償をしていることが認められるが、JCA規定には上記の場合において欠員手当を支給するとの定めがないことは前示のとおりであるし、被控訴人が上記のフィンランド人客室乗務員と同様の労働協約を締結している事実も認められない。 また、控訴人らは、被控訴人が日本人客室乗務員の欠員手当に関し、実労働時間が12時間を超える場合の手当として1日の休みを付与する旨回答していたと主張し、当審で提出された書証(略)(O作成の陳述書)にはこの主張に沿う記載がある。 しかし、証拠(略)によれば、① 被控訴人は、平成3年11月25日に日本人客室乗務員に対し、「1人欠員の時は、予定されたブロックタイム×1時間給×1を、2人欠員の時は、予定のブロックタイム×1時間給×2を支給する。この手当は実労働時間が12時間以内の便にのみ適用される。実労働時間が12時間を超える場合の手当は1日の休みとする。」と回答したこと、② 日本人客室乗務員は、同年12月25日に被控訴人に対し、「欠員手当のこの件について再度確認していただきたいと思います。我々は、フィンランド人客室乗務員と同様に扱われるべきです。」と主張したこと、③ 被控訴人は、平成4年1月24日に上記①と同趣旨を回答するとともに、日本発の便に限定されることを付け加えたこと、④ 被控訴人は、平成5年3月22日に「最近、会社とフィンランド人客室乗務員組合は、欠員の場合の補償につき見直しをし、下記の合意に達した。東京/バンコク/ニューヨーク路線については、客室乗務員数を乗客数に応じたフレックス制とする。すなわち、乗客数に応じて客室乗務員を合計10名から13名とする。また、乗務時間が12時間を超える場合でも、乗務員数は影響を受けない。この結果、この点に関する同様の考え方が日本人客室乗務員にも適用される。」と回答したことが認められる。これらの事実によれば、被控訴人は、平成3年11月から平成5年3月までの間に日本人客室乗務員に対し、① 欠員が1名及び2名の場合に支給される欠員手当の算定方法、② フィンランド人客室乗務員組合との間で、客室乗務員をフレックス制と固定制により編成することが合意され、これをフィンランド人客室乗務員と同じ飛行機に乗務する日本人客室乗務員にも適用することを言明していたことまでは認められるものの、フライト出発時の合計編成人員に欠員が生じていない場合において実労働時間が12時間を超えたときには日本人客室乗務員に1日の休みを与えるなど欠員手当を支給する趣旨まで表明していたものとは認められない。そうすると、書証(略)(O作成の陳述書)により控訴人らの主張事実を認めることはできず、他の証拠を精査しても、同主張を認めるに足りない。 したがって、控訴人らの主張は理由がない。 (5) 以上のとおり、被控訴人の日本人客室乗務員に対する欠員手当の支払義務は、フライト出発時の合計編成人員に欠員が発生した場合に限り発生するものというべきであるから、実際のフライト業務時間が12時間を超えた場合には出発時に欠員が生じていないときでも請求できるとの控訴人らの主張は採用することができない。 第4 以上の次第で、控訴人らの請求は、いずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。 |