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ID番号 : 08813
事件名 : 地位確認請求事件
いわゆる事件名 : 東京大学出版会事件
争点 : 財団法人の定年退職者が再雇用を拒否され、雇用契約が成立していることの確認を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 :  学術出版等を事業とする財団法人Yで編集に従事し定年退職したXが、再雇用を希望する旨の意思表示をしたところ拒否されたため、同拒否の意思表示は正当な理由を欠き無効であり再雇用契約は成立しているとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。  東京地裁は、Yにおいては「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の趣旨を踏まえ、労使交渉を経て「再雇用契約社員就業規則」が制定されており、また、同規則施行後に再雇用の対象となった定年退職者のうち、X以外に再雇用を拒否された者はいないことなどから、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は、Yとの間で同規則所定の取扱い及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり、本件では何らの客観的・合理的理由もなく雇用拒否がなされたものであって、解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であるとして、再雇用契約の成立を認めXの請求を認容した。
参照法条 : 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則3条
労働契約法16条
体系項目 : 退職 /定年・再雇用 /定年・再雇用
裁判年月日 : 2010年8月26日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)10447
裁判結果 : 認容
出典 : 労働判例1013号15頁/労働経済判例速報2085号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 慶谷典之・労働法令通信2226号20~21頁2010年9月28日丸尾拓養・労働経済判例速報2085号2頁2010年11月10日
判決理由 : 〔退職‐定年・再雇用‐定年・再雇用〕
 すなわち、法は、継続雇用制度の導入による高年齢者の安定した雇用の確保の促進等を目的とし、事業者が高年齢者の意欲及び能力に応じた雇用の機会の確保等に努めることを規定し、これを受けて、法附則は、事業者が具体的に定年の引上げや継続雇用制度の導入等の必要な措置を講ずることに努めることを規定していることによれば、法は、事業主に対して、高年齢者の安定的な雇用確保のため、65歳までの雇用確保措置の導入等を義務づけているものといえる。また、雇用確保措置の一つとしての継続雇用制度(法9条1項2号)の導入に当たっては、各企業の実情に応じて労使双方の工夫による柔軟な対応が取れるように、労使協定によって、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、継続雇用制度の措置を講じたものとみなす(法9条2項)とされており、翻って、かかる労使協定がない場合には、原則として、希望者全員を対象とする制度の導入が求められているものと解される。〔中略〕
 以上のとおり検討した法の趣旨、再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況等にかんがみれば、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は、被告との間で、同規則所定の取扱い及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず、同定年退職者に対して再雇用拒否の意思表示をするのは、解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるというべきであるから、当該定年退職者と被告との間においては、同定年退職者の再雇用契約の申込みに基づき、再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。〔中略〕
 かかる再雇用就業規則の制定経過、目的、再雇用の条件を定めた同規則3条(1)、(2)の各要件の配置及び文言からすると、定年退職者が再雇用されるための条件としての「能力」とは、その中心的なものとして、当該職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力を意味するものと解するのが相当であるが、当該職務そのものの内容や性質のほか、職務遂行に必要な環境及び人間関係等に照らして、当該職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力を計るに当たって、協調性や規律性等の情意(勤務態度)についてもその要素として考慮しなければならない場合もあるものと解される。〔中略〕
 原告は、被告に在職中、一貫して編集局に所属し、社会学、宗教学、教育学、文化人類学等の社会科学・人文科学の分野の学術書・教科書又は教養書の編集に携わっていたのであるから、特段の事情のない限り、再雇用後も同様に編集者としての職務を担当する可能性が高いといえる。そして、被告のような出版社の従業員としての編集者の職務については、その性質上、編集対象の書籍等の執筆者等との連絡・調整に加えて、当該出版社の出版方針等を理解し、上司の指示命令に従った編集作業を遂行することが求められるのは公知の事実であるから、その職務遂行上備えるべき身体的・技術的能力を測るに当たっては、再雇用就業規則3条(2)所定の「能力」の解釈の中で、協調性や規律性等の情意(勤務態度)についても、一定程度考慮せざるを得ないものと解される。具体的には、上記身体的・技術的能力を減殺する程度の協調性又は規律性の欠如等が認められるか否かという枠組みのなかで検討すべきである。〔中略〕
 上記判示の事情にかんがみれば、再雇用拒否理由2の事実をもってしても、原告には、職務上備えるべき身体的・技術的能力を減殺するほどの協調性又は規律性の欠如等は認められず、再雇用就業規則3条(2)所定の「能力」がないと認めることはできない。
 (3) 以上によれば、本件再雇用拒否は、原告が再雇用就業規則3条所定の要件を満たすにもかかわらず、何らの客観的・合理的理由もなくなされたものであって、解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であるというべきである。そうすると、原告は、再雇用就業規則所定の取扱い及び条件に従って、被告との間で、再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するというべきであるから、原告の平成19年7月30日付け再雇用契約の申込みに基づき、原被告間において、平成21年4月1日付けで再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。
 したがって、原告が被告に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。