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ID番号 : 08814
事件名 : 損害賠償等請求控訴事件(ID番号08788事件の控訴審)
いわゆる事件名 : プラスパアパレル協同組合(外国人技能実習生)事件
争点 : 外国人研修生らが、受入れ機関等に損害賠償、未払賃金、時間外手当等の支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 :  外国人技能実習制度の研修生として中国から来日し、後に技能実習生となったX1ら4名が、〔1〕第2次受入れ機関である縫製会社Y2・Y3においてX1らの旅券・預金通帳等を強制的に取り上げ、最低賃金を下回る賃金での長時間労働を強制したとして、第1次受入れ機関である協同組合(Y1)、Y2・Y3及び関係財団(Y4)らに対し損害賠償を、〔2〕Y2・Y3に対しては時間外手当及び付加金等の支払を求めた事案の控訴審である。  第一審熊本地裁は、Y2・Y3による共同不法行為の成立を認めるとともに、Y1もこれに加担し、あるいはX1らの研修等を監理指導すべき義務に違反して違法行為(不法行為)の継続にかかわったとしてY2・Y3と連帯して、X1らに生じた損害を賠償責任すべきとして慰謝料等の支払を命じ、〔2〕については、Y2・Y3に対する請求は一部認容したが、Y4に対する請求は棄却した。これに対しY1が控訴。  第二審福岡高裁はY1らによる上記行為は共同不法行為を構成し、またY1には、十分な監査を行わなかったこと、Y2らによる旅券・預金通帳等の保管等の違法を知りながら適切な指導を行わなかったことなどの作為義務違反があるとして責任を認め、控訴を棄却した。
参照法条 : 民法709条
出入国管理及び難民認定法19条
労働基準法9条
労働基準法10条
最低賃金法2条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事) /労働者 /研修期間の外国人研修生
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
労基法の基本原則(民事) /使用者 /財団法人 国際研修協力機構
裁判年月日 : 2010年9月13日
裁判所名 : 福岡高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ネ)255
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働判例1013号6頁
審級関係 : 一審/熊本地平成22.1.29/平成19年(ワ)第1711号/平成20年(ワ)第660号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐研修期間の外国人研修生〕
 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 〔労基法の基本原則(民事)‐使用者‐財団法人 国際研修協力機構〕
 第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も、第一審被告会社らによる①被控訴人らの旅券の預かり行為及び管理行為、②被控訴人らの預金口座の開設とその払戻し、預金通帳・印鑑の管理行為及び③被控訴人らに対する違法な労働状態の作出の行為が、被控訴人らに対する共同不法行為を構成するものであり、また、控訴人による①第一審被告会社らの被控訴人C及び同Dの旅券の預かりについて加担した行為及び②第2次受入れ機関である第一審被告会社らによる違法就労の排除、不適切な監理の禁止、非実務研修の実施等について適切な監査を行い、その結果に基づいて第一審被告会社らを適切に指導すべき作為義務を怠ったことが、被控訴人らに対する不法行為を構成するものであり、これによって、被控訴人らにそれぞれ損害(慰謝料100万円及び弁護士費用10万円)が生じたものであって、控訴人は、被控訴人ら各自に対し、損害金110万円及びこれに対する平成20年1月8日(控訴人に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべきものと判断する。〔中略〕
 ①の点については、Fが被控訴人らの逃亡防止を図ることを主たる目的として被控訴人らから旅券を預かり、その管理を継続したものであるところ、これが被控訴人らの移動の自由を制約し、違法な労働状態を助長することになるものであって、第一審被告会社らによる違法行為に当たるものというべきことは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の1(2)ア、3(1)アのとおりである。
 ②の点については、控訴人が、被控訴人C及び同Dの同意を得ることなく、また、交付後にこれをどのように扱うか等について確認することもなく、Fに上記被控訴人らの旅券を交付したことが、Fにおいて違法に同被控訴人らの旅券の管理を継続する原因となったものであり、この行為をもって第一審被告会社らの不法行為に加担したものといえることは、同第3の3(1)イ(ア)のとおりである。
 控訴人の主張はいずれも採用できない。
 (2) 控訴人の作為義務について
 控訴人は、①被控訴人らの作業時間について、これを記載したメモは、被控訴人らが作成したものであり、証拠価値の乏しいものである一方、被控訴人らが給与の支払を受ける際作業時間について何ら言及していないことや熊本地方労働局においてされた仲裁の経緯等から見て、上記メモの記載によって、上記作業時間を認定することは相当でない、②第一審被告会社らが被控訴人らに対し違法就労をさせた事実はない、③控訴人は、被控訴人らの就労に関してガイドラインに従った監査を実施しており、監査について義務違反はなく、また、監査時に第一審被告会社ら及び被控訴人らは違法就労はないと断言しており、控訴人においてこのような違法就労を知り得る状況になかった、④旅券、預金通帳及び印鑑の預かり行為も双方の合意に基づくものであり、違法でなく、これについて控訴人の監査が不十分であったとはいえないし、控訴人においてこのような預金通帳の預かりなどを知り得なかった旨主張する。
 ①の点については、被控訴人らが第一審被告会社らに就労した際の作業時間は、原審認定(原判決の「事実及び理由」欄の第3の1(3)ア)のとおりであり、証拠を精査してもその事実認定に誤りは認められない。そして、第一審被告会社らが被控訴人らの旅券や預金通帳等を管理するなどして、被控訴人らの行動を制約し、被控訴人らを強い指揮命令下に置いていたこと(同第3の3(1)ア(ア)ないし(ウ))からすれば、被控訴人らが給与の支払を受ける際にこの作業時間について言及しなかったからといって、被控訴人らが給与計算の対象とされた作業時間が実際のそれと同じものとして納得していたことにはならず、被控訴人会社らの支給に係る給与等が正当な金額であることを意味するものとはいえない。また、熊本地方労働局の仲裁の点についても、同地方労働局の仲裁が行われている(同第3の1(10))が、その際被控訴人らが同地方労働局からどのようなことを聴かれ、どのように回答したか等を明らかにする証拠はなく、また、スキールの代表者であるF自身が熊本地方労働局の仲裁手続がされる以前に作業時間についての記録を処分した旨供述していること(同第3の1(3)ア(イ)a)からすると、同地方労働局でされた仲裁に係る金額をもって、被控訴人らの作業時間についての原判決の認定を左右するものとはいえない。
 ②の点については、第一審被告会社らが被控訴人らについての違法な労働状態を作出し、これを継続させたと認められることは、前判示(前記引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第3の3(1)ア(ウ))のとおりである。控訴人は、被控訴人らの同意に基づき、第一審被告会社らは被控訴人らに作業をさせた旨主張するが、被控訴人らの作業状況は厳しいものであり(同第3の1(3)ア)、他方、第一審被告会社らが被控訴人らに支給した金員は作業時間に適合していないこと等からすると、上記のような労働状況について被控訴人らの任意による同意があったものとは考え難く、また、上記同意があったことを認めるに足りる証拠もない。
 ③の点については、本件指針が第1次受入れ機関に対し違法就労の排除等を内容とする監査をするよう求めていることなどからすると、第1次受入れ機関である控訴人には、違法就労の排除等について適正な監査を行い、その結果に基づいて第一審被告会社らを適切に指導すべき作為義務があるにもかかわらず、控訴人には十分な監査を行わなかった等の作為義務違反があること(したがって、控訴人が本件指針に従った監査をしたとはいえない。)、及び、監査時に第一審被告会社らと被控訴人らが控訴人に対して違法就労はないと断言していたことを認めるに足りないことは、同第3の3(1)イ(イ)のとおりである。
 また、④の点のうち、第一審被告会社らが被控訴人らの旅券を保管したことが違法であり、被控訴人らの預金通帳や印鑑を管理する行為が違法であることは、前判示(同第3の3(1)ア(ア)、(イ))のとおりである。控訴人は、平成18年7月18日の監査の時点で、スキールが研修生の預金通帳を保管していたことを知っており、また、控訴人には、本件指針が求めるように、不適切な管理の有無につき適切な監査を行い、その結果に基づいて第一審被告会社らを適切に指導すべき作為義務があるにもかかわらず、この作為義務に違反した違法があると認められることも、前判示(同第3の3(1)イ(イ))のとおりである。
 控訴人の主張はいずれも採用できない。
 (3) 紛争解決のための合意(和解契約)について
 控訴人は、①被控訴人らに対し清算金を支払ったのは、第一審被告会社らであり、また、被控訴人らと第一審被告会社らとの間で何らかの債権債務があったとしても、それについては、和解契約によって債権債務関係は清算された、②控訴人は被控訴人1名につき11万円を支給した旨主張する。
 ①の点については、清算確認書(〈証拠略〉)に基づく合意は、同書面の記載内容からして、控訴人と被控訴人ら間の合意であると認められること、また、清算対象として被控訴人らの第一審被告会社ら及び控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求を含むものと認められないことは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の3(3)のとおりである。
 ②の点については、被控訴人らは、控訴人から平成19年8月分の給与として一定の金員の支払を受けている(同第3の1(10))が、控訴人からの上記支払をもって、被控訴人らの上記損害賠償請求について清算する趣旨の合意がされたものと認めることはできない。
 控訴人の主張はいずれも採用できない。
 (4) 損害賠償額について
 控訴人は、被控訴人1名の慰謝料として100万円は高額に過ぎ、控訴人と第一審被告会社らに同額の損害賠償義務があるというのも不合理である旨主張する。しかし、第一審被告会社ら及び控訴人の不法行為の内容等からすれば、被控訴人ら1名の慰謝料額は100万円とするのが相当であるし、研修制度における第一次受入れ機関である控訴人の役割の重要性や、控訴人が作為義務(監査・指導義務)を尽くしていれば、第一審被告会社らの被控訴人らに対する不法行為の継続を防止できたこと等(原判決の「事実及び理由」欄の第3の3(1)イ(ウ)、(2)ア)にかんがみれば、控訴人に第一審被告会社らと同額の損害賠償義務があるとするのが相当である。
 控訴人は、また、被控訴人A及び同Bの旅券の預かり行為に関与していない控訴人が同被控訴人らにつき第一審被告会社らと同額の損害賠償義務があるとするのは不合理であるとも主張する。しかしながら、第一審被告会社らによる①旅券の預かり行為及びその管理行為、②預金口座の開設とその払戻し、預金通帳・印鑑の管理行為、③違法な労働状態の作出行為は、相互に密接に関連する一連の行為であり、これにより被控訴人らの人格権を侵害し、不法行為を構成するところ、控訴人は同被控訴人らの旅券の預かり行為に直接関与していないものの、控訴人の監査が不十分であったために、第一審被告会社らによる同被控訴人らの旅券の管理の継続という違法行為を結果として容認することとなり、同被控訴人らの人格権を侵害したこと(同第3の3(1)ア(オ))からすると、控訴人に同被控訴人らにつき第一審被告会社らと同額の損害賠償義務があると認める