ID番号 | : | 08818 |
事件名 | : | 配転命令無効確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | オリンパス事件 |
争点 | : | カメラ、内視鏡等の製造販売会社の労働者が配転命令の無効確認と慰謝料等を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | 労働者Xが、勤務していた日本法人を吸収合併した会社Y1及び上司Y2を相手どり、吸収後に行われた配転命令の無効確認と、パワハラによる人格的利益侵害を理由に損害賠償を求めた事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、一連の配転はXが取引先企業従業員の雇入れについて意見を述べたり、コンプライアンス室に通報したことを理由になされたものではなく、そこには業務上の必要性があり、また、Y1等がXを退職に追い込もうとした事実は認められないなどとして請求をいずれも棄却したため、Xが控訴。 第二審東京高裁は、第1配転命令は、会社の信用の失墜を防ぐためにしたXの内部通報等の行為に反感を抱いて、本来の業務上の必要性とは無関係にしたものであり、その動機において不当なもので、内部通報による不利益取扱を禁止した運用規定にも反するものであると認め、また、続く配転命令も、同様に業務上の必要性とは無関係になされたものであると認めた。その上で、昇格・昇給の機会を事実上失わせ、人格的評価を貶めるという不利益を課すものであるから、上司の行為は不法行為を構成するとして、上司の不法行為と会社の使用者責任を認定し、損害賠償を一部認めた。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法715条 公益通報者保護法2条 公益通報者保護法5条 公益通報者保護法6条 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣
/配転命令権の濫用
/配転命令権の濫用 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求 |
裁判年月日 | : | 2011年8月31日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成22(ネ)794 |
裁判結果 | : | 原判決一部変更、一部控訴棄却 |
出典 | : | 労働判例1035号42頁/労働経済判例速報2122号3頁/判例時報2127号124頁 |
審級関係 | : | 一審/東京地平成22.1.15/平成20年(ワ)第4156号 |
評釈論文 | : | 光前幸一・季刊労働者の権利292号31~37頁2011年10月 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣‐配転命令権の濫用‐配転命令権の濫用〕 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 2 第3配転命令は被控訴人会社が配転命令権を濫用したものであるか否か(その前提として第1配転命令及び第2配転命令は被控訴人会社が配転命令権を濫用したものであるか)について〔中略〕 以上のとおり、〈1〉第1配転命令は、被控訴人Aにおいて、E社から転職者の受入れができなかったことにつき控訴人の言動がその一因となっているものと考え、被控訴人会社の信用の失墜を防ぐためにした控訴人の本件内部通報等の行為に反感を抱いて、本来の業務上の必要性とは無関係にしたものであって、その動機において不当なもので、内部通報による不利益取扱を禁止した運用規定にも反するものであり、第2及び第3配転命令も、いわば第1配転命令の延長線上で、同様に業務上の必要性とは無関係にされたものであること、〈2〉第1ないし第3配転命令によって配置された職務の担当者として控訴人を選択したことには疑問があること、〈3〉第1ないし第3配転命令は控訴人に相当な経済的・精神的不利益を与えるものであることなどの事情が認められるから、第1ないし第3配転命令は、いずれも人事権の濫用であるというべきである。したがって、第3配転命令については、控訴人には就業規則34条の「正当な理由」があり、これを拒絶できるというべきである。 3 不法行為の成否 (1)被控訴人らの不法行為 ア 第1ないし第3配転命令の不法行為性 上記2のように、第1配転命令及び第2配転命令は、いずれも被控訴人Aが人事権を濫用したものであり、第3配転命令もその影響下で行われたものであって、これらにより、控訴人に上記2の(5)のような昇格・昇給の機会を事実上失わせ、人格的評価を貶めるという不利益を課すものであるから、被控訴人Aの上記行為は、不法行為法上も違法というべきである。 これに対し、被控訴人Bは、前記のとおり、平成19年8月20日の時点では、控訴人がNDTシステムグループに残留することを前提とした育成コメントを作成している(甲135)のであって、控訴人に対する第1配転命令の決定に積極的に関与したことを認めるに足りる証拠はなく、後記の業務命令等も、上司である被控訴人Aの決定した方針に従ってしたものであることが窺われるから、これをもって不法行為法上、違法ということはできない。他に、被控訴人Bについて、控訴人に対する配転命令に関し、不法行為というべき行為を認めるに足りる証拠はない。〔中略〕 エ まとめ (ア)控訴人に対する第1ないし第3配転命令が不法行為というべきものであり、被控訴人Aがこれにつき責任を負うことは前記アで説示のとおりである。 (イ)また、C及びDの前記イの行為は、控訴人に対する不法行為というべきであり、被控訴人Aは、IMS事業部長として両名の上司であったのであり、両名の上記行為は、第1配転命令をした被控訴人Aの意向を受けたものであると推認できる。 (ウ)さらに、前記ウの第2配転後の品質保証部における控訴人に対する処遇も不法行為というべきである(控訴人の本訴提起がその一因となっていたとしても正当化されるものではない。)。 (エ)そして被控訴人A、D及び品質保証部の管理職による上記不法行為は、いずれも被控訴人会社の職務を執行するにつき行われたものであるから、被控訴人会社は、その使用者として損害賠償責任がある。脚他方、被控訴人Bについて、控訴人に対する不法行為というべき事実が認められないことは前記のとおりである。 (2)損害 ア 控訴人は、前記のとおり第1配転前においては合格点を下回る評価を受けたことはなかったのであるから、被控訴人Aらの前記(1)の不法行為がなければ、140PA期から141PB期までの賞与において支給額の減額を受けることがなかったものと推認できる。したがって、控訴人は、前記不法行為により、実際に受けた賞与の減額相当分として23万9100円の損害を被った(甲113の1ないし5、174、185)というべきである。 イ 前記(1)の被控訴人Aらの行為によって控訴人が受けた精神的苦痛を慰謝すべき金額は、176万0900円を下らないというべきである。そして、控訴人は被控訴人Aらの不法行為による損害賠償を請求するために弁護士に依頼することを余儀なくされたのであるから、控訴人が支払うべき弁護士報酬のうち、上記損害額合計200万円の1割に当たる20万円が相当因果関係のある損害である。 第6 結論 以上の次第で、控訴人の当審での訴え変更後の請求(主文第1項(1))は理由があり、被控訴人会社及び被控訴人Aに対する損害賠償請求は、220万円及びこれに対する平成20年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、被控訴人Bに対する請求は、すべて理由がない。 |