全 情 報

ID番号 : 08834
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : プリンター等販売会社Y事件
争点 : プリンター会社の営業職だった女性労働者が解雇無効として地位確認、未払賃金等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : プリンター等販売会社Yの営業職として勤務していた女性労働者Xが、解雇は無効であると主張して、労働契約上の地位確認、未払賃金・未払賞与の支払、不法行為を理由とする損害賠償の支払を求めた事案である。 東京地裁は、事業場外みなし制度の下、労働時間管理をするためYが求めた具体的な業務内容の報告をXがハラスメントと捉え、合理性のある業務指示・命令に従おうとせず、一貫して抵抗することは、あまりにも不合理なものであるとした。また、Yから指摘される非違行為(携帯電話の私的利用、勤務時間記録表の不正確な記録、交通費の重複請求)に対しても強い被害意識のもとで過度に防衛的なやり取りに終始し、自らのその場限りの主張を維持するため社外関係者と口裏を合わせて虚偽の報告をするなど不誠実性が推認されるから、労働契約法16条の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には該当しないとした。さらに、不法行為の成否についても、Xは上司からの無視やいやがらせなどにより自律神経失調症の傷害を負ったと主張するが、それら行為が違法なものであることを具体的に根拠付ける主張も因果関係の立証も不十分で、暴行についてもその請求を根拠付けるだけの客観的な主張・立証が欠けているとして、請求をいずれも棄却した。
参照法条 : 労働基準法38条の2第1項
労働契約法15条
労働契約法16条
体系項目 : 解雇(民事) /解雇事由 /勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) /解雇事由 /業務命令違反
裁判年月日 : 2011年3月28日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)47399
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働経済判例速報2115号25頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐解雇事由‐勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐業務命令違反〕
 2 本件解雇の有効性
 労働基準法は、労働者保護の要請から、労働時間に関する厳格な法規制(刑罰の対象にもなり得る。)を使用者に課しており、労働時間を管理することは、同法により使用者に課せられた厳格な法的義務がある。一方で、同法は、事業場外での勤務の比重の高い業務については、事業場外みなし制度により、一定の要件のもとで、所定労働時間を労働したものとみなして、時間外手当を支払わないことを許容している(同法38条の2第1項)。
 以上の法規制のもとで、被告が、原告の従前従事していた営業職は事業場外での勤務の比重が高いとして事業場外みなし制度が適用されていたのに、平成21年1月23日に、事業場外みなし制度の対象から外して、残業代を支払うようにしたことは、原告自身の本意に沿っていたかはともかくとして、労働基準法下での労働者保護の対象となったものである。もっとも、営業職の仕事が事業場外での勤務の比重があることから、使用者が、労働時間を管理するため、時間外労働について、その具体的な業務内容の報告を求め、三六協定に違反しそうな従業員の労働に関して具体的な労働時間の報告を求めることは、労働基準法の見地からは、重要で合理的なものに他ならない。
 してみると、現在の法制度を前提とすれば、A部長や人事部による労働時間管理に関する業務指示、命令の内容自体は、問題はないのであり、上記認定事実によれば、被告が労働時間管理のための報告を求めていることをハラスメントの行為とし、上司から繰り返して発せられる労働時間管理に関する業務指示、命令に従おうとしていない(原告が、具体性のある残業申請をしたことは、証拠上、認められない。)ことは、現在の法制度のもとで企業に雇用される者として、不適切な行動であるといわなければならないし、労働基準監督署や労働組合等の、労働法制に関する基本的な理解を得ることが期待できる環境にあった原告が、A部長や人事部による合理性のある業務指示、命令に一貫して抵抗する対応は、あまりにも不合理なものであるといわざるを得ない。
 また、本件の事実経緯を見ると、被告によって指摘されている非違行為に関して、原告は、強い被害意識のもとで、過度に防衛的なやり取りをし、必ずしも合理的とはいえない自らの言い分に固執し、さらにはその場限りの言い分により主張を変遷させるという傾向が顕著に認められる。上記認定事実によれば、この傾向は、B部長、A部長に対してはもとより、人事部による調査の過程でも同様であるし、本件通報制度による調査担当者であるC(原告の上司に対しても、一定の厳しい評価をしている。)に対しても、本件口頭弁論における本人尋問に際しても一貫している。その結果、携帯電話の私的利用であれ、勤務時間記録表の記載の不正確さであれ、また、交通費の重複請求の点であれ、被告の指摘する一つ一つの非違行為自体は、勘違いの範疇に属するという評価の余地もあるものの、上述の対応を一貫して繰り返す原告に対しては、労働契約関係を解消する以外に、方途を失っていると評価せざるを得ない。
 第3に、上記認定事実のとおり、原告は、その場限りの主張を維持するため、社外の関係者と口裏を合わせて虚偽の報告をしていることは、労働者としての原告の不誠実性を推認させる事情であり、このような他人を巻き込んでの虚偽報告をする原告について、労働契約関係を維持させることを強制することが、妥当であるとはいい得ないといわなければならない。
 以上の点を考慮すれば、被告による本件解雇は、労働契約法16条の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には該当しないというべきであり、無効にならないという結論になる。
 原告は、本件労働契約を締結した初期の段階から、原告を解雇することを企図した行動をとっていたと主張するが、その具体的な内容として提出する証拠(略)は、日常的に職場に不適応を起こしている労働者の愚痴の域を脱しないものであり、被告が、当初の段階から解雇を企図した行動をとっているという上述の原告の主張を採用する余地は存しない。
 3 不法行為の成否
 原告は、被告のA部長から、無視され、直接のコミュニケーションを拒否され、自らのスケジュールを公開せず、会議日程等の通知を欠いたり、その内容についての連絡がなかったこと、第1回、第2回面談の際に被告の主張を押しつけたり、確認書に署名を強要する行為により、自律神経失調症の傷害を負ったと主張する。上記認定事実からも、原告が、被告の内部において、不適応を起こし、疎外感を有していたことは推認に難くないが、被告の従業員による行為が違法なものであることを具体的に根拠付ける主張が十分でないし、その行為と自律神経失調症との因果関係の立証が十分にされているとはいい得ない。また、Dが、原告は犯罪者であると社内に触れているという点についても、原告がそう供述するのみで、客観的な立証を欠いている。してみれば、この点についての原告の請求には理由がない。
 次に、平成21年7月29日の暴行についていえば、上記認定事実からすれば、その客観的な証拠である診断書の内容は、外傷であるにもかかわらず、加療期間が終了しそうな時点における診断書の記載のみであることから、その請求を根拠付けるだけの客観的な主張、立証が欠けているといわざるを得ない。してみると、原告のこの点の請求にも理由がないという結論になる。