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ID番号 : 08835
事件名 : 地位確認等請求控訴事件(3123号)、同附帯控訴事件(92号)
いわゆる事件名 : 津田電気計器事件
争点 : 電気計測器の会社で定年を迎えた労働者が継続雇用を理由に地位保全、賃金等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 電気計測器の会社に雇用され定年を迎えた労働者が、継続雇用制度によって継続雇用されたと主張して、労働契約上の地位の確認を求めるとともに未払賃金等の支払を請求し、これに対し会社は、改正後の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき制定した「高年齢者継続雇用規程」(継続雇用規程)の定める継続雇用の基準を労働者が満たしていなかったとして争った事案の控訴審である。 第一審大阪地裁は、労働者は継続雇用規程に定める再雇用の基準(保有資格、業務習熟度、社員実態調査結果、賞罰実績)を満たしているとして地位確認を認め、賃金請求については、確定判決までの主位的請求を棄却し、予備的請求を認め賃金支払を命じた(将来請求は却下)。会社が控訴。労働者も敗訴部分の取消しを求め附帯控訴し、賃金請求に係る遅延損害金の支払を追加して請求。 第二審大阪高裁は、継続雇用規程及び雇用継続基準は適法とした上で、継続雇用規程における業務習熟度表、社員実態調査票等から総合点数を求めても労働者は基準を満たすのにもかかわらず会社が承諾しなかったものであり、不承諾は権利濫用であるから継続雇用契約が成立したものというべきであるとして、原審を支持し控訴を棄却した。
参照法条 : 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条2項
民法1条
体系項目 : 退職 /定年・再雇用 /定年・再雇用
裁判年月日 : 2011年3月25日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ネ)3123/平成23(ネ)92
裁判結果 : 控訴棄却(3123号)、原判決一部変更、附帯控訴一部認容、一部棄却(92号)
出典 : 労働判例1026号49頁
審級関係 : 一審/大阪地平成22.9.30/平成21年(ワ)第3802号
評釈論文 :
判決理由 : 〔退職‐定年・再雇用‐定年・再雇用〕
 1 争点(1)(控訴人の継続雇用規程に定められた本件選定基準は適法なものといえるか。)について
 当裁判所も、継続雇用規程及び本件選定基準は違法無効とはいえず適法なものと判断する。その理由は、次の(1)及び(2)のように訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1の説示のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 2 争点(2)(控訴人と被控訴人との間で継続雇用契約が成立したか。)について
 (1) 契約成立の判断について
 ア 被控訴人は、事業主が高年法9条1項②号及び同条2項に則した継続雇用制度を設けた場合において、当該事業主が、同制度について定める就業規則に雇用対象者に係る具体的な選定基準及び継続雇用された場合の一般的な労働条件を定め、当該就業規則を周知したときには、当該事業主は、その周知の時点において、雇用する労働者に対し、当該就業規則に定められた条件での定年後の継続雇用契約締結の申込みをしたことになると主張する。
 高年法の継続雇用制度は、「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度(高年法9条1項2号)」であり、希望者全員を継続的に雇用することが望ましいものの直ちにすべての企業にそれを求めるのは困難であることから、同法9条2項は、事業主と労働者の過半数代表との書面協定によって「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、前項第二号に掲げる措置を講じたものとみなす」と定めている。すなわち、高年法は、労働者の過半数の代表者との書面協定によって継続雇用の対象とする労働者を事業主が選別することを許容したものと解される。
 このような労使間で協定された一定の基準で選別することを前提として、控訴人の継続雇用規程(〈証拠略〉)3条には、「会社は、継続雇用を希望する高年齢者のうちから選考して高年齢者を採用する。」と定められている。控訴人代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、同規程に基づき、会社(控訴人)が継続雇用対象者の希望を確認した上で、在職中の業務実態、業務能力の査定結果に基づいて採否を決め、これを通知する、との運用をしていることが認められる。このような控訴人の継続雇用規程の定めと実際の運用に照らすと、継続雇用対象者の希望が継続雇用契約の申込みであり、査定の結果通知が承諾、不承諾に当たると解するのが相当である。
 イ また、以上のように考えないと、次のような不都合が生じ得る。労働者において継続雇用の基準は満たすが、労働条件等についてはさらに交渉、合意を求めたい事情があることは、労働者側にも事業主側にも考えられる。例えば、控訴人でいえば、希望すれば週40時間の労働が可能な高年齢者であっても、30時間の労働しか望まない場合や、逆に基準によれば週30時間の労働条件しか得られないが、控訴人側のその時の都合で40時間の労働を求める場合などである。このように、労働者の継続雇用の希望を聞き、さらに交渉が行われる事態を考えると、継続雇用対象者に係る具体的な選定基準及び継続雇用された場合の一般的な労働条件を定め当該就業規則を周知する行為は、申込みの誘引と解すべきであって、同行為をもって申込みがあったものと解するのは相当ではない。
 もっとも、このように解したからといって、労働者から継続雇用の申込みがあった場合に事業主である控訴人において自由に採否を決められるものではなく、当該労働者が選定基準を満たす場合は、控訴人には継続雇用を承諾する義務が課せられていると解すべきである。そこで、これに反して被控訴人が不承諾とした場合には、解雇法理(解雇権濫用法理)を類推適用して、不承諾は使用者の権利濫用に当たり、不承諾を当該労働者に主張することができない結果継続雇用契約が成立したと扱われるべきものと解するのが相当である。
 本件で被控訴人が継続雇用を希望し、これに対し控訴人が不採用を通知したことは前記「前提となる事実関係」に記載のとおりである。したがって、本件では、継続雇用規程に定める基準を満たさないとした控訴人の判断の是非を検討する必要があることになる。そして、選定基準を定めたのは控訴人であること、選定基準に係る査定帳票がいずれも控訴人の作成保管するものであること、選定基準の内容は人事評価に係ることであり、もっぱら控訴人側が把握している事実であることにかんがみると、控訴人において被控訴人が選定基準を満たさないことを主張、立証する必要があるものと解すべきである。〔中略〕
 ケ 以上の査定帳票の点数を継続雇用対象者の査定表に当てはめると、保有資格0点、業務習熟度表0点、社員実態調査票マイナス4点、賞罰実績5点であり、総合点数は1点になる。
 そうすると、控訴人は、被控訴人の継続雇用の申込みに対し、被控訴人が基準を満たすのにもかかわらず承諾しなかったことになる。控訴人が被控訴人の継続雇用を不承諾とするのは権利濫用であり、被控訴人との間で継続雇用契約が成立したものというべきである。
 このように、控訴人と被控訴人の間には継続雇用規程に基づく雇用契約が存在するにもかかわらず、控訴人はこれを争っているのであるから、被控訴人の請求のうち地位確認請求は理由がある。
 3 争点(3)(継続雇用契約が成立した場合の賃金額)について
 (1) 前記引用に係る原判決の「前提となる事実関係」に記載のとおり、継続雇用規程4条においては、〈1〉継続雇用対象者の査定票による総点数が10点以上の高年齢者は週40時間以内の労働時間とし、〈2〉同票による総点数が0点以上の高年齢者は週30時間以内の労働時間とする旨を定め、また、賃金額については、同規程20条において、次のように定めている。
 本給=満61歳時の基本給×0.7×(1週の労働時間)/40
 被控訴人は、週40時間の労働、それがかなわないなら週30時間の労働を労働条件とする雇用契約の申込みをしたものと認められる。被控訴人の査定帳票による総点数は1点であるから、上記の継続雇用規程4条の定めにより、控訴人と被控訴人の間には、週30時間以内の労働時間による労働契約が成立したものと扱うのが相当である(ちなみに、控訴人が被控訴人との間で週40時間の労働を条件とする雇用契約を締結する意思のないことは明らかである。)。
 (2) 継続雇用契約が成立した場合の賃金額は、原判決別紙1「継続雇用時の賃金計算書」の2記載のとおり、月額19万9293円になるものと認められる。控訴人は継続雇用契約の成立を争い、被控訴人の就労を拒否しているから、本判決確定時までの賃金支払を命ずるのが相当である。
 (3) 被控訴人の賃金請求のうち主位的請求は理由がないが、予備的請求については、当審で拡張した遅延損害金を請求する部分を含めて理由がある。
 第4 結論
 以上の次第で、被控訴人の地位確認請求は理由があり、賃金請求のうちの主位的請求(本判決確定までのもの)は理由がないが、賃金請求のうちの予備的請求(本判決確定までのもの)は、当審で拡張された遅延損害金の支払を求める部分を含め理由がある。
 よって、被控訴人の附帯控訴及び請求の拡張に基づき、原判決中主文第4項を本判決主文第1項後段のように変更し、控訴人の控訴及び被控訴人のその余の附帯控訴をいずれも失当として棄卸することとし、主文のとおり判決する。