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ID番号 : 08841
事件名 : 損害賠償請求控訴事件(664号)、同附帯控訴事件(883号)
いわゆる事件名 : コーセーアールイー(第2)事件
争点 : 不動産売買会社の内々定を受け直前に取消しを受けた就活者が損害賠償・慰謝料を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 不動産売買会社Yから採用の内々定を受けていたが、予定されていた採用内定通知書授与の日の直前に本件内々定の取消しを受けた就活者Xが、内々定の取消しは既に成立している始期付解約権留保付労働契約に違反するとして損害賠償及び慰謝料等の支払を求めた事案の控訴審である。  第一審福岡地裁は、始期付解約権留保付労働契約の成立は認められないとしつつ、採用内定通知書授与の日が定まり、その日のわずか数日前に至った段階では、労働契約が確実に締結されるであろうとのXの期待は法的保護に値する程度に高まっていたにもかかわらず、Yは内々定取消しについて誠実な態度で対応したとはいえないこと等からすると、労働契約締結過程における信義則に反し、不法行為を構成するとして損害賠償を認め、その余を棄却した。Yが控訴、Xも敗訴部分を不服として附帯控訴。  第二審福岡高裁は、概ね原審同様、期待権侵害あるいは信義則違反を認めたが、内々定によって始期付解約権留保付労働契約が成立したわけではないのであるから、内定の場合と同様の精神的損害が生じたとすることはできないとして不法行為の損害は認めず、内々定取消しによって就活者の精神的損害を填補するための慰謝料のみ認容した。
参照法条 : 労働契約法6条
民法709条
民法1条
体系項目 : 労働契約(民事) /採用内定 /内々定
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2011年3月10日
裁判所名 : 福岡高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ネ)664/平成22(ネ)883
裁判結果 : 原判決一部変更、一部控訴認容、一部控訴棄却(664号)、附帯控訴棄却(883号)
出典 : 労働判例1020号82頁
審級関係 : 一審/福岡地平成22.6.2/平成21年(ワ)第2166号
評釈論文 : 山田省三・労働判例1020号5~13頁2011年5月1日
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐採用内定‐内々定〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 1 争点(1)(本件内々定によって、労働契約が成立しているか)について〔中略〕
 (3) 当審における被控訴人の主張に対する判断
 被控訴人は、昭和54年最高裁判決を引用して、本件内々定については、同判決で労働契約成立の要件とされた、〈1〉採用内定通知に誓約書が同封されており、内定者は誓約書を当該会社宛てに提出したこと、〈2〉内定が出た段階で、内定者が当該会社に入社することが確実であることを当該会社が知っていたことの事実が認められるから、労働契約としてこれが成立したものというべきである旨主張する。
 しかし、本件内々定については、始期付解約権留保付労働契約としてこれが成立したものとは認められないことは、前判示(原判決第3の1)のとおりである。昭和54年最高裁判決は、本件と事案を異にし、本件に適切でない(同判決では、企業が就職希望者に対し、自己都合による入社の取消しをしないこと、一定の場合に採用内定を取り消されても異存がないことについて誓約書の提出を求め、採用希望者がその提出に応じるなどしているところ、本件では、被控訴人はそのような誓約書の提出は求められていない上、控訴人が、被控訴人の入社についてこれが確実であることを知っていたことを認めるに足りる証拠はない。)。被控訴人の主張は採用できない。
 2 争点(3)(期待権侵害あるいは信義則違反の有無)について〔中略〕
 (3) 当審における控訴人の主張に対する判断
 控訴人は、〈1〉被控訴人は、控訴人から本件内々定通知を受けた後、就職活動を停止していたのであるから、その後の控訴人の対応が、控訴人と被控訴人との間で労働契約が確実に締結されるであろうという被控訴人の期待に影響を与えるものではない、〈2〉控訴人は、本件内々定取消しについて誠実に対応しなかったとはいえない、〈3〉控訴人は、本件内々定取消しを、経営判断として必要と考え、やむなくこれを行ったにすぎないから、この判断に誤りがあるなどということはできない、〈4〉本件内々定の取消しは、経済情勢の悪化という外部的な要因によるものであり、控訴人の信義則違反として構成することは妥当でなく、上記取消しの時期も外部的な要因によるものであるから、控訴人の行った本件内々定取消しについて不法行為は成立しない旨主張する。
 そこで検討するに、上記〈1〉については、確かに、被控訴人は、入社を希望していた控訴人から本件内々定通知を受けて以後、他社から受けていた内々定について断りの連絡を入れ、就職活動を停止していることが認められる(原判決第3の1(1)イ)。しかし、控訴人は、平成20年7月30日に内々定の通知をした被控訴人とAを控訴人事務所に呼び、取締役管理部長のBにおいて、控訴人の経営状況や採用の状況が話題になった際に、当時控訴人において夏季賞与のカットや退職勧奨等の経営改善策に着手していたこと等の情報をあえて伝えることはなく、「経済的状態の悪化があっても控訴人は大丈夫」などと、控訴人による採用が確実であるかのような発言を行い、その後にも、控訴人において、新卒者の採用の見直しを含めた経営改善策を進めているにもかかわらず、そのような情報を採用担当者に知らせずに、従前の計画どおり採用のための手続を進めていたのであり、被控訴人に対して同年9月25日に採用内定通知書授与の日を連絡し、被控訴人が控訴人から採用されるであろうとの期待を強めて、同授与の日に着用するためのスーツを新調するなどの準備を進めていたことからすると、被控訴人としても、控訴人から本件内々定取消しの可能性等についての正確な情報が伝えられていれば、再度就職活動を行ったと考えられる上、控訴人の上記のような対応によって、控訴人との間に労働契約が確実に締結されるであろうという被控訴人の期待が法的保護に値する程度に高まっていたと判断するのが相当であることは、前判示(原判決第3の2)のとおりである。
 同〈2〉の点については、控訴人は、同年9月25日に採用内定通知書の授与の日を被控訴人に連絡しながら、そのわずか5日後である同月30日に被控訴人に対し、本件取消通知を送付しているところ、このような本件内々定取消しについての控訴人の対応は、上記のように法的保護に値する程度に高まった労働契約締結に向けての被控訴人への期待に何ら配慮したものではなく、誠実なものであるとはいえない。
 同〈3〉、〈4〉の点については、少なくとも、同月25日後に至って、突然に本件内々定取消しを行ったことが、控訴人のやむをえない経営判断に基づくものということはできず、経済情勢の悪化という事情をもって、控訴人の本件内々定取消しの措置を合理化することはできないことは、前判示(原判決第3の2)のとおりである。
 控訴人の主張はいずれも採用できない。
 3 争点(4)(損害額)について
 (1) 賃金相当の逸失利益及び就職活動費
 賃金相当の逸失利益及び就職活動費についての当裁判所の判断は、それぞれ原判決18頁19行目冒頭から19頁2行目まで及び同9行目冒頭から12行目までのとおりであるから、これらを引用する(ただし、19頁9行目冒頭の「(2)」を「(3)」と改める。)。
 控訴人は、当審において、賃金相当の逸失利益について、被控訴人は、本件内々定については労働契約としての性質が認められるから、履行利益としての賃金相当額の逸失利益を被控訴人の損害として認めるべきである旨主張するが、本件内々定が労働契約(始期付解約権留保付労働契約)とは認められないことは前判示(原判決第3の1)のとおりであり、被控訴人の上記主張は採用できない。
 (2) 慰謝料
 ア 本件内々定によって内定(始期付解約権留保付労働契約)が成立したものとは解されないから、控訴人の本件内々定取消しによって、被控訴人に内定の場合と同様の精神的損害が生じたとすることはできないが、他方、前判示(原判決第3の2)のとおり、採用内定通知書授与の日が定められた後においては、控訴人と被控訴人との間で労働契約が確実に締結されるであろうとの被控訴人の期待は、法的保護に十分に値する程度に高まっていたこと、被控訴人は、控訴人に就職することを期待して、本件内々定の前に受けていた他社からの複数の内々定を断り、就職活動を終了させていたこと、控訴人において、被控訴人のこのような期待や準備、更には就職によって得られる利益等に対する配慮をすることなく、被控訴人に対して上記のような採用についての方針変更について十分な説明をせずに、本件内々定の取消しを行い、被控訴人からの抗議にも何ら対応しなかったこと、本件内々定取消しによって受けた被控訴人の精神的苦痛は大きく、1か月程度、就職活動ができない期間が生じ、控訴人がいまだ就職できないでいるのも、その際の精神的打撃が影響していることがうかがわれることをも考慮すると、被控訴人が本件内々定取消しによって受けた被控訴人の精神的損害を填補するための慰謝料は50万円と認めるのが相当である。