ID番号 | : | 08846 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | リンク・ワン事件 |
争点 | : | 人材支援サービス会社元従業員が、賞与の支給日在籍要件の効力を争った事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 人材支援サービス会社Yの従業員であったXが、賞与の支給日在籍要件はXに適用されない等と主張して、Yに対し、賞与の内金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 東京地裁は、Xは給与改定通知書を示された上で説明を受け、これに署名したのであり、給与改定通知書には改定後の給与及び標準賞与金額のほか、賞与が標準賞与金額に会社業績・部門業績・個人業績を反映して支給されることが記載されていたのであり、標準賞与金額が保障されたものではないことを当然に認識し得たというべきであるとした。その上で、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とされるところ(労働契約法12条)、就業規則の最低基準効を発生させるには、就業規則が周知されていれば足り、従業員代表からの意見聴取や労働基準監督署長への届出がなされていることまでは必要ないというべきであり、改正後の給与規程は社内イントラネット上に掲示され、従業員が見ようと思えばいつでも見ることができる状態になっていたのであるから、同日時点において従業員代表からの意見聴取や労働基準監督署長への届出がなされていなかったとしても有効であるとして、X請求を斥けた。 |
参照法条 | : | 労働契約法8条 労働契約法12条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事)
/就業規則の周知
/就業規則の周知 賃金(民事) /賞与・ボーナス・一時金 /賞与・ボーナス・一時金 |
裁判年月日 | : | 2011年2月23日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成22(ワ)40392 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1031号91頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則(民事)‐就業規則の周知‐就業規則の周知〕 〔賃金(民事)‐賞与・ボーナス・一時金‐賞与・ボーナス・一時金〕 2 争点 本件支給日在籍要件の効力 (被告の主張) 原告は、平成19年6月1日ころ、被告から、変更後の具体的な労働条件について説明を受け、これに同意したから、本件支給日在籍要件は、原告と被告との合意により有効である。平成19年6月1日には、賞与の支給日在籍要件が定められた新給与規程が従業員に周知されていた。労働基準監督署長への届出は就業規則変更の効力発生要件ではない。 また、旧給与規程にも賞与の支給日在籍要件があり、支給日前に退職した従業員には実際に賞与が支給されていなかったこと、標準賞与金額を前提とした場合には、給与規程の変更に伴う労働条件の変更により原告を含む全従業員の年間給与支給額が増額されたことからすると、本件における給与規程及び労働条件の変更は、不利益変更には当たらない。 仮に、旧給与規程を前提にするとしても、旧給与規程にも有効な賞与の支給日在籍要件が存在した。旧給与規程における賞与支給額が確定的なものであったとしても、自己都合退職では従業員が退職日を選択できるから、支給日在籍要件が従業員に不利益とはいえないし、そもそも旧給与規程においても賞与は被告の当期業績により支給されないことがある旨明記されており、賞与支給額が確定的であったわけではない。 (原告の主張) 本件給与改定通知書の記載によっても、確定した年俸額が保障された年俸制度から、賞与額が保障されない月給制に変更されたことを知ることは不可能であり、原告は、年俸制度を前提として、年俸額の変更に同意したに過ぎず、月給制に変更されることについて同意したわけではない。 本件支給日在籍要件は、旧給与規程で定める基準に達しない労働条件を定めるもので、無効である。まず、新給与規程は、社内イントラネット上に掲示しただけでは周知したとはいえないし、平成19年6月1日時点で従業員代表からの意見聴取や労働基準監督署長への届出がなされていないから、原告は、新給与規程に拘束されず、旧給与規程の適用を受けることになる。次に、旧給与規程における賞与の支給日在籍要件は、単に「賞与」の支払期日を定めたものというべきである。なぜなら、旧給与規程における「賞与」は、年俸額として決定された金額の一部が賞与の名目で支払われるに過ぎないもので、確定した年俸額を特定の月に多く配分するものに過ぎないから、支給日在籍要件を設けることによって当該賃金請求権を排除することはできないからである。 第3 当裁判所の判断 1 本件支給日在籍要件は、原告に対する本件給与改定通知書に記載があるところ、労働者と使用者が合意した場合には、労働条件を変更することができるから(労働契約法8条)、まず、原告が本件支給日在籍要件に同意したといえるかが問題となる。 上記前提事実によれば、原告は、平成19年6月1日ころ、被告から、本件支給日在籍要件が記載された本件給与改定通知書を示された上で説明を受け、同通知書に署名したのであり、原告は、本件支給日在籍要件を含む、本件給与改定通知書に記載された労働条件に同意したと認めるのが相当である。 この点、原告は、年俸額が保障された年俸制度から、賞与額が保障されない月給制に変更されることに同意したわけではない旨主張する。しかし、本件給与改定通知書には、改定後の給与及び標準賞与金額のほか、賞与が標準賞与金額に会社業績・部門業績・個人業績を反映して支給されることが記載されていたのであり、原告は、本件給与改定通知書に記載された標準賞与金額が保障されたものではないことを当然に認識し得たというべきであるから、原告の上記主張は採用できない。 また、原告は、新給与規程が周知されておらず、意見聴取や届出もなされていないから、新給与規程には拘束されず、旧給与規程の適用を受けることになることを前提に、本件支給日在籍要件は、旧給与規程で定める基準に達しない労働条件を定めるものであるから、無効である旨主張する。 ここで、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とされるところ(労働契約法12条)、このような就業規則の最低基準効を発生させるには、就業規則が周知されていれば足り、従業員代表からの意見聴取や労働基準監督署長への届出がなされていることまでは必要ないというべきである。本件において、新給与規程は、平成19年6月1日に被告の社内イントラネット上に掲示され、従業員が見ようと思えばいつでも見ることができる状態になっていたのであるから、周知されていたと認められる。そうすると、同日時点において従業員代表からの意見聴取や労働基準監督署長への届出がなされていなかったとしても、上記最低基準効が生じるのは、新給与規程であるというべきである。よって、原告の上記主張は、その前提を欠き、採用できない。 2 以上によれば、本件支給日在籍要件は、原告と被告の合意により有効であり、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。 |