全 情 報

ID番号 : 08848
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 奈良観光バス事件
争点 : 研修中の検定で不合格となり退職扱いにされたバス運転者が地位確認、賃金等の支払を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 :  貸切バス運行会社Yに観光バス運転者として採用されたものの、研修中に検定で不合格となり退職扱いにされた運転手Xが、地位確認及び賃金の支払を求めるとともに、研修中の負傷につき安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求め、予備的に休業損害及び後遺障害による逸失利益の賠償を求めた事案である。  大阪地裁は、Yが、本件中間検定について不合格の判定を行うとともに、研修を続けても技能の向上が見込めないと判断したことは、必ずしも不当とまではいえず恣意的に判断を行ってもいないから、Xにバス運転者としての適性・能力を有することが認められない以上、契約社員の労働契約が成立したと主張することはできず、XY間の労働契約関係は雇用期間2か月の経過とともに終了しており、Xの地位確認請求及び賃金請求は理由がないとした。また、研修中の事故に係る安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求についても、当該バスを運転していた研修生のほか、これに同乗していたY社助役及び研修生1名のいずれもがXがバスに接触したところを現認していないなど、本件事故の発生を認定するには証拠が足りないとして、Xの主位的請求及び予備的請求のいずれも理由がないとして棄却した。
参照法条 : 労働契約法16条
民法415条
体系項目 : 労働契約(民事) /試用期間 /本採用拒否・解雇
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 : 2011年2月18日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)1026
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働判例1030号90頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐試用期間‐本採用拒否・解雇〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 1 地位確認請求について〔中略〕
 証拠(〈証拠・人証略〉、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、〈1〉平成19年3月20日に大型第二種運転免許を取得したばかりであり、バス運転の経験を有しなかったこと、〈2〉被告の採用試験においても、一回目は、左折時に脱輪するなどして不合格となっていること、〈3〉研修中から、バス運転に関し、速度を出し過ぎる、速度にムラがある、左側に寄り過ぎる、ふらつくなどの問題点を指摘されていたこと、〈4〉本件中間検定においても、6名の判定者から、「全体を通して、速度を出し過ぎる」「カーブ及び交差点に進入する際、減速が足りない」「対向車を避けるとき、急ハンドルを切る」「車両が左側に寄り過ぎる」などの問題点が指摘され、判定会議の結果、判定者6名のうち1名が、「もう少し研修をして経過観察しても良い」という意見であったものの、その余の5名が、「改善の見込みがなく本採用しない」という意見であったことが認められる。したがって、被告が、原告に対し、本件中間検定について不合格の判定を行うとともに、研修を続けても技能の向上が見込めないと判断したことは、必ずしも不当とまではいえず、本件全証拠を検討してみても、被告が恣意的に判断を行ったことを窺えるような証拠もない。
 よって、原告は、被告のバス運転者としての適性・能力を有することが認められない以上、被告に対し、契約社員の労働契約が成立したと主張することはできない。
 (5) 以上より、原告被告間の労働契約関係は、平成19年9月15日の経過により終了し、以後、両者の間に労働契約関係は存在しないから、原告の地位確認請求は、理由がない。
 2 賃金請求について
 前記判示のとおり、平成19年9月16日以降、原告と被告との間に労働契約関係は存在しないから、原告の賃金請求は、理由がない。
 3 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求について〔中略〕
 ウ 判断
 原告は、本件事故の発生を主張し、本人尋問においてこれに沿う供述をする。しかしながら、上記認定事実のとおり、〈1〉原告は、本件事故について、被告に対し直ちに報告をせず、本件中間検定の不合格が決まった後に初めてこれを行っているだけでなく、その発生日時についても供述を変遷させていること、〈2〉原告の腰痛の原因は、腰椎の変形性変化にあるとみられるところ、原告は、被告に採用される前の平成18年12月21日に変形性腰椎症の診断を受けており、同症状が平成19年7月27日を境に増悪したと認めるに足りる的確な証拠もないことに加えて、〈3〉本件バスに同乗していたA助役、B研修生及びC研修生のいずれもが、証人尋問において、原告が本件バスに接触したところを現認していない旨証言していることに照らすと、本件事故の発生を認定するには証拠が足りないといわなければならない。
 (2) よって、原告の主位的請求及び予備的請求における安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求は、その余を検討するまでもなく、いずれも理由がない。