ID番号 | : | 08863 |
事件名 | : | 従業員地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 学校法人関西学園事件 |
争点 | : | 学校法人の教職員が休職処分とその後の解雇を無効として地位確認と賃金等支払を求めた事案(労働者勝訴) |
事案概要 | : | 学校法人Yの教職員Xが、休職処分とその後の解雇を無効である等と主張して、休職処分については無効確認を、解雇処分については地位の確認を求めるとともに未払賃金と付加金の支払及び不法行為に基づく慰謝料の支払を求めた事案である。 岡山地裁は、まず休職処分について、処分には合理的な理由が見いだしがたく、Xが行った仲裁センターへの和解あっせん申立てを嫌悪して行ったものと認定するのが相当であり、正当事由を欠くものとして無効とし、解雇処分について、解雇事由はいずれもXが教職員としての資質に欠けることの根拠たり得ず、合理的な理由に基づくものとは認められず、社会的に相当性を欠くものとして無効であると判示した。 その上で、変形労働時間制について、Yの主張する変形労働時間制は法の要求する要件を満たしているとは認められないとして無効とし、寮監の仮眠時間の労働時間該当性について、細かく業務内容が決められている以上、仮眠時間も使用者の指揮命令下にあると認めるのが相当というべきであり、また変形労働時間制ともみなせないから、当該時間に対しても時間外勤務手当の支払義務を免れるものではないと判示した(付加金の支払は否認)。慰謝料についても、休職処分・解雇処分は無効であるから、一定の精神的苦痛を被ったとしてこれを認めた。 |
参照法条 | : | 労働契約法15条 労働契約法16条 労働基準法32条 労働基準法41条1項3号 労働基準法114条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇
/懲戒事由
/職務能力 解雇(民事) /解雇事由 /職務能力・技量 労働時間(民事) /労働時間・休憩・休日の適用除外 /監視・断続労働 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求 雑則(民事) /付加金 /付加金 |
裁判年月日 | : | 2011年1月21日 |
裁判所名 | : | 岡山地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成19(ワ)2025 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1025号47頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇‐懲戒事由‐職務能力〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐職務能力・技量〕 〔労働時間(民事)‐労働時間・休憩・休日の適用除外‐監視・断続労働〕 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕 2 争点2「本件解雇処分の有効性」について〔中略〕 イ 仮に、この事実が存在したとしても、被告は、当時賞罰委員会を開いた上で原告を謹慎処分にしたというのであるから、相応の処分がされたというべきであり、かつ、本件解雇処分から10年も前のことであることからすれば、これをもって原告が教職員としての資質に欠ける事由とすることは相当性を欠くというべきである。〔中略〕 イ しかしながら、本件記録中、原告が同喫茶店の料理長として稼働した事実を認めるに足りる確たる証拠はないし、証拠(〈証拠略〉)によれば、原告の非番の日に、原告の両親がA議員と共同経営者となっていた同喫茶店を手伝っていたものと認められるにすぎないから、これをもって、いわゆる私生活上の非行に該当するとはいえない。仮に、これが二重就職と評価されるものとしても、被告の職場秩序に影響せず、かつ被告に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度ないし態様のものであれば禁止の対象とはいえないと解するのが相当であるところ、本件において、原告の関与の程度は明確ではないから、これを本件解雇処分の理由とすることは相当とはいえない。 ウ そして、被告は、原告に誓約書及び始末書を提出させているというのであるから(ただし、原告は、始末書の提出については認めているが、誓約書については知らないとしている。)、本件についても、既に相応の処分は済んでいるというべきである。 エ したがって、これをもって原告が教職員としての資質に欠ける事由とすることも相当性を欠くというべきである。〔中略〕 ウ 以上に加え、同〈4〉については、平成19年5月3日、当該生徒の保護者との間で既に示談が成立していること(〈証拠略〉)からすれば、これらの事由を原告が教職員としての資質に欠ける事由とすることは、相当性を欠くというべきである。〔中略〕 イ よって、この事実をもって、原告が教職員としての資質に欠ける事由とすることは、相当性を欠くといわざるを得ない。〔中略〕 エ したがって、原告が本件仲裁センターへの和解あっせん申立てをしたことをもって、職場放棄と認定することはできないから、本事由も教職員としての資質に欠けることを示す事由として相当とはいえないというべきである。〔中略〕 イ そして、被告就業規則18条2項では、引き続き7日以上年次有給休暇を取得するときは医師の診断書等の書類を添付する必要がある旨定められているが、同規定の趣旨は、飽くまで長期休暇を取ることが妥当か否かを判断するためと解されるから、診断書を作成した医師の病院に必ず入院する必要はないというべきである。さらに、本件診断書1及び本件診断書2には、いずれも一定の期間を定めて休養加療を要するとされていたのであるから(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)、原告がそのために入院の途を選択したとしても合理性があるというべきであり、しかも、そのこと自体は被告の業務執行に特段の影響を及ぼすものではないから、同診断書のいずれにも入院の記載がないからといって、原告が入院したことが職場放棄の根拠となるものとも思われない。 ウ したがって、この事実も原告が教職員としての資質に欠ける事由となるものではないというべきである。〔中略〕 (8) 解雇事由〈8〉「平成19年9月ころにA議員との不倫関係が判明したこと」について ア 本件解雇処分は、懲戒解雇ではないから、処分後に判明した事実であっても、処分の相当性を判断する根拠事由として勘案することができると解される。 イ 証拠(〈証拠略〉)によれば、原告は、相当の期間、A議員と男女関係にあったことがうかがわれる。原告は、この点につき、A議員とは結婚を約束していたと主張し、その旨供述するが(〈証拠略〉)、一件記録中にこれを裏付ける確たる証拠はない。そうすると、一般的には、生徒の指導に当たる教職員が有夫の女性と親しい関係に入ることは社会的にも評価できることではないというべきである上、特に多数の発行部数を持つ週刊誌においてそのような内容を発表されることは、被告にとっても決して名誉なことではなく、まして原告自身が進んで取材に応じていることからすれば、このことは原告自身の教職員としての適格性に大きく影響する事由であると思われる。 ウ しかしながら、被告代表者は、当審における尋問において、本件解雇処分の事由として被告が掲げる8つの事由の中で特に重大なものは何かとの原告訴訟代理人の質問に対して、平成19年4月5日の本件仲裁センターへの和解あっせん申立てをしたことである旨明確に答えている(同代表者155項~159項)。このことからすれば、本解雇事由は、社会的には許容されない可能性が高いとしても、本件解雇処分においてはそれほど重要視されていなかったというべきであるから、これのみをもって原告が教職員としての資質に欠けると結論づけるのは相当ではないというべきである。 (9) 以上の検討によれば、結局、被告の主張する解雇事由は、いずれも原告が教職員としての資質に欠けることの根拠たり得ないということになる。そして、被告自身、平成17年12月12日、剣道において優れた技能を持つ原告(〈証拠略〉)を表彰していること(〈証拠略〉)を勘案すると、本件解雇処分は、合理的な理由に基づくものとは認められず、社会的に相当性を欠くものとして無効であるといわざるを得ない。〔中略〕 5 争点5「寮監の仮眠時間の労働時間該当性及び手当」について (1) 労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうが、〈1〉所定労働時間外に労働者が使用者の業務の範囲に属する労務に従事した場合に、それに要した時間が前記意味の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり(最高裁判所平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)、〈2〉実作業に従事していない不活動時間が前記意味の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価し得るか否かにより客観的に定まるものというべきである(大星ビル管理事件判決)。〔中略〕 7 争点7「付加金(労基法114条)の支払の可否及び額」について (1) 争点6に対する判断で説示したように、被告は、原告に対し、時間外勤務手当等として738万1554円の支払義務を負っていると認められる。しかしながら、裁判所が、使用者に対し、付加金の支払を命じることが相当ではないと認められるような特段の事情がある場合には、裁判所はその支払を命じないこともできると解され、また、その範囲内で適宜、減額することも許されると解するのが相当である。 (2) そこで、検討するに、原告が本訴で請求している時間外勤務手当等においては、仮眠時間が相当の時間数を占めているところ、これらについては、監視断続業務に該当する宿日直勤務として適正な手続を執っていれば、時間外勤務手当などの支払義務を免れる可能性があるものであり、原告を除く他の寮監は労働時間とは認識していない(〈証拠略〉)。 (3) これらのことを勘案すれば、少なくとも仮眠時間に係る時間外勤務手当等については、被告に対し、付加金の支払を命じることは相当とは思われない。〔中略〕 8 争点8「原告に認められるべき慰謝料の額」について (1) これまでに説示したように、本件休職処分及び本件解雇処分は無効であるから、これにより、原告は、一定の精神的苦痛を被ったと認められる。 しかしながら、原告は、その被った精神的苦痛に対し、金銭的賠償を求めているところ、これは前項までに認容した被告からの金銭支払により、相当程度回復するものと思われる。 (2) 以上のところから、当裁判所は、原告の慰謝料として100万円が相当と判断する。 |