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ID番号 : 08864
事件名 : 深夜勤就労義務不存在確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 郵便事業事件
争点 : 郵便局の労働者が、連続「深夜勤」勤務の指定の違法無効を争った事案(労働者敗訴)
事案概要 :  郵政公社(後に郵便事業株式会社)Yの設置する支店(郵便局)に勤務するXらが、Yに対し、社員就業規則に定める連続「深夜勤」勤務の指定を可能とする就業規則等の規定は憲法13条、18条、25条及び国際人権規約に違反し無効であるなどと主張して(1)指定に従う義務のないことの確認(2)指定の差止め(3)安全配慮義務違反又は不法行為を理由とする損害賠償(慰謝料)の支払を求めた事案の控訴審である。  第一審東京地裁は、請求のうち、(1)(2)を棄却し(3)は認容した。X・Yの双方が控訴。  第二審東京高裁は、連続「深夜勤」勤務の指定は何通りかのパターンに集約され、規則性がないわけではなく、連続する勤務と勤務との間には一定時間が確保され、その間に休養を取って疲労を回復することができるよう配慮され違法とは言えず、また、Yの経営上、より高いサービスの提供(翌日配達地域の拡大等)が不可欠であり、そのための業務繁忙に対応するために「深夜勤」の継続実施は避けられず、「深夜勤」勤務の連続指定を認めることが不合理であるとまではいえないから、連続「深夜勤」勤務の指定を可能とする労働協約及び就業規則等は、憲法13条、18条、25条、国際人権規約A規約7条の趣旨を考慮しても、連続「深夜勤」勤務の指定が違法、無効なものとはいえず、安全配慮義務違反、不法行為の主張にも理由がないとしてXらの請求をすべて斥けた。
参照法条 : 憲法13条
憲法18条
労働契約法5条
民法415条
国際人権規約A規約7条
体系項目 : 就業規則(民事) /就業規則の一方的不利益変更 /労働時間・休日
就業規則(民事) /就業規則と法令との関係 /就業規則と法令との関係
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 : 2011年1月20日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ネ)3486
裁判結果 : 原判決一部取消、一部控訴棄却
出典 : 労働経済判例速報2099号3頁
審級関係 : 一審/東京地平成21.5.18/平成16年(ワ)第21274号
評釈論文 :
判決理由 : 〔就業規則(民事)‐就業規則の一方的不利益変更‐労働時間・休日〕
〔就業規則(民事)‐就業規則と法令との関係‐就業規則と法令との関係〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 これに対し、第1審被告は、引用した原判決認定のとおり(原判決第3の1(2)イ(イ)b(b)〔25頁〕)、深夜業務従事者の健康保持と作業能率維持のための配慮として、通常の勤務4時間につき15分の休息時間とは別に、「10深夜勤」につき60分(休息時間合計113分)、「8深夜勤」につき30分(同合計60分)、「10深夜勤」及び「調整深夜勤C」につき38分(同合計76分)の休息時間を付与している。休息時間の過ごし方については各従業員の自由にゆだねられており、短時間とはいえ休憩室で仮眠を取ることもできる。
 また、連続する勤務と勤務との間の時間につき、「10深夜勤」の連続指定の場合は13時間、新夜勤と調整深夜勤の連続指定の場合は11時間15分、「8深夜勤」の連続指定の場合は15時間15分となるよう勤務の始終業時刻を設定した上、連続する勤務と勤務との間に時間外労働を命ずることを制限するなどして、勤務と勤務との間に一定時間が確保されるようにしているものである。
 カ 第1審原告らの作業内容は、引用した原判決認定のとおり(第1審原告Aにつき原判決第3の1(6)イ(ア)a〔42頁〕及び(イ)a〔44頁〕、第1審原告Bにつき同(7)イ(ア)〔49頁〕)、郵便物の区分け作業等であって、深夜帯は日中に比べて取扱量が格段に多くなること、取り扱う郵便物の中には重量20~30kg程度のものもあること、などを勘案しても、過酷な身体的負荷を伴うものとまでは認められない。
 キ これらによれば、第1審被告による連続「深夜勤」勤務の指定による負担は、深夜帯の時間数、実施回数、休憩時間という点からみて、我が国の他の民間企業等における深夜業に関する一般的状況に照らし、著しく過重なものであるということはできず、従業員の生命、身体に危険を及ぼす程度のものであるとも認めることはできない。このことは、第1審原告らの従事していた作業内容等をも勘案しても同様である。
 なお、第1審原告らは、第1審被告における交替制勤務は不規則であって勤務サイクルに周期性や規則性が全くないから、連続「深夜勤」勤務によるダメージが破滅的な程度にまで悪化すると主張する。しかし、上記イのとおり、第1審被告による連続「深夜勤」勤務の指定は何通りかのパターンに集約されるものであって全く規則性がないとまでいうことはできないし、上記オのとおり、連続する勤務と勤務との間には一定時間が確保され、その間に休養を取って疲労を回復することができるよう配慮されているものであるから、第1審原告らの上記主張は採用することができない。
 (3) 「深夜勤」の必要性と合理性
 承継計画に規定されている経営方針等(原判決第3の1(4)ア(ア)〔36頁〕)、及び、郵便利用が相対的に減少することが見込まれる一方で民間の新規参入により競争が激化するという第1審被告の郵便事業をとりまく情勢等(同1(4)ア(イ)〔36頁〕)からすれば、公社時代と変わらず、より高いサービスの提供(翌日配達地域の拡大等)が不可欠であり、そのための業務繁忙に対応するために「深夜勤」の継続実施は避けられないものといえる。
 また、従前の「新夜勤」のみでは拘束時間も長くなり、従業員の勤務管理という面からしても、「深夜勤」勤務の連続指定を認めることが不合理であるとまではいえない。
 (4) まとめ
 以上を総合すれば、連続「深夜勤」勤務の指定を可能とする労働協約及び就業規則等は、憲法13条、18条、25条、国際人権規約A規約7条の趣旨を考慮しても、その内容が公序良俗に反し又はその他の強行法規に反して無効であるとはいえず(なお、安全配慮義務に反することはそもそも無効原因ではない。)、第1審被告による連続「深夜勤」勤務の指定が違法、無効なものとはいえない。
 したがって、争点(2)についての第1審原告らの主張は理由がない。
 4 争点(3)(安全配慮義務違反又は不法行為の成否)について
 (1) 安全配慮義務違反について
 使用者は、労働者の生命や身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているものと解されるところ(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決・民集38巻6号557頁)、第1審原告らは、連続「深夜勤」勤務が第1審原告ら労働者の健康に害を及ぼし過労死等にも追い込むものであるから、第1審被告による連続「深夜勤」勤務の指定は安全配慮義務に違反すると主張する。
 しかし、一般に深夜勤務が概日リズムの乱れを生じさせるなどして健康によくない影響を及ぼす可能性があることは否定できないとしても、上記3に判示したとおり、第1審原告らに対する連続「深夜勤」勤務の指定は、その時間数、実施回数、休憩時間、作業内容、等に照らして、それ自体が第1審原告らの身体的精神的健康を害するなどその生命、身体等に危険を及ぼす程度のものであったとは認められない。また、第1審原告らがうつ病等を発症するまで(平成17年度及び平成18年度)の勤務状況(第1審原告Aにつき原判決第3の1(6)ウ〔46頁〕、第1審原告Bにつき同(7)ウ〔51頁〕を併せ考慮しても、第1審原告らにおいては超過勤務(時間外労働)や休日労働をほとんど行っていなかったのであり、第1審原告らが過重な業務を負担する状況にあってそのために心身の健康を害したものとも認めることができない。なお、第1審原告らが現にうつ病等に罹患しているとしても、深夜勤とうつ病等との間の事実的因果関係は明らかとはいえないから、第1審原告らがうつ病等に罹患していることをもって直ちに深夜勤が第1審原告らの生命、身体等に危険を及ぼすおそれがあったものと推認することはできない。このことに加えて、第1審被告においては、深夜勤を含む深夜帯の勤務に従事する者については、健康診断等の一般的対策のほか、自発的健康診断の経費負担、成人病検診受診の自己負担分の助成をし、その結果に基づいて、必要に応じて時間外労働及び「深夜勤」勤務の指定の制限等の措置を取ってきたものであること(第1審原告らについても、健康診断の結果等に基づき、職場復帰後も深夜帯の勤務を指定していない。)、などを勘案すれば、第1審被告に第1審原告らに対する安全配慮義務違反があったということはできないものというべきである。
 したがって、その余の点につき判断するまでもなく、安全配慮義務違反についての第1審原告らの主張は、理由がない。
 (2) 不法行為について
 上記(1)に判示したところによれば、第1審被告において、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して第1審原告らの心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務を怠った過失があったということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、不法行為についての第1審原告らの主張も、理由がない。
 5 まとめ
 以上によれば、第1審原告らの本件請求は理由がないからこれをいずれも棄却すべきである。