ID番号 | : | 08866 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本化薬事件 |
争点 | : | 派遣社員が、業務委託先の火薬類製造販売会社が真の雇用者であるとして地位確認を求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 派遣会社に雇用されたXが、派遣会社と火薬類製造販売会社Yとの間の業務委託契約に基づきY姫路工場での稼働を開始したが、同契約は偽装請負であるから無効であり、X・Y間には労働契約が成立している上、その後のYによる解雇は無効である等として、Yに対し、雇用契約上の地位確認、賃金及び慰謝料を求めた事案である。 神戸地裁姫路支部は、事前の会社訪問と質疑があったとしても、事前面接ではなく、Xの採用に関与し決定していたとはいえず、またXの出退勤につき、Yがある程度の管理をしていたとしても、三者間の関係は労働者派遣に該当するというべきであり、そのような労働者派遣を超えてX・Y間に黙示の労働契約が成立していたとは認められず、Xは姫路工場での就労開始前から就労終了後まで、一貫して自らが派遣会社の従業員であったと認識していたことは明らかであるから、黙示の雇用契約が成立していたと推認される事情ないし特段の事情は何ら見当たらないと判示した。また、労働者派遣法40条の4に基づく労働契約の成否についても、同条はその文言からして、派遣先の派遣労働者に対する申込義務を規定したにとどまり、申込の意思表示を擬制したものでないから、労働契約が既に成立していたとのXの主張は、立法論としてならともかく現行法の解釈としては採り得ないとして、不法行為の成立の主張も含め、Xの請求をいずれも棄却した。 |
参照法条 | : | 職業安定法4条6項 労働者派遣法2条1項1号 労働者派遣法40条の4 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)
/労働者
/派遣労働者・社外工 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求 |
裁判年月日 | : | 2011年1月19日 |
裁判所名 | : | 神戸地姫路支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21(ワ)290 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1029号72頁/労働経済判例速報2098号24頁/裁判所ウェブサイト掲載判例 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐派遣労働者・社外工〕 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 2 争点1(原告・被告間の労働契約の成否)について (1) 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。 そして、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである(最高裁判所平成21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁参照。)。 (2) 黙示の労働契約の成否について ところで、原告は、原告・A社間の雇用契約の有効性にかかわらず、原告・被告間には労働契約が成立しているとも主張するので、以下、検討する。〔中略〕 したがって、A社による原告の採用につき、被告による事前面接があったとは認められず、これを根拠に原告・被告間には黙示の労働契約が成立したとの原告の主張には、理由がない。〔中略〕 (イ) しかし、以下に説示するとおり、上記労働者派遣を超えて、原告・被告間に黙示の労働契約が成立していたとは認められない。 a まず、前記1(9)認定のとおり、原告は、平成21年1月27日に、B及びCに対し、自らを正社員として直接雇用して欲しい旨を述べたところ、Bからこれを聞いたA社により、同月末まで出勤停止処分とされている。そして、原告は、同処分につき、原告が被告に対し直接雇用を求めたことに対する制裁としてされたことは明白であり、被告が原告に対し懲戒権を発動したものであって、被告が原告の使用者であることを肯定する重要な事実であると主張する。 しかし、前記1(9)認定のとおり、上記処分は、A社が、派遣元の立場から、姫路工場の製品に品質上の問題が起こらないようにとの配慮から実施したものであって、BがA社に対し上記伝達をしたことにつき不自然さは否めないものの、本件全証拠によっても、それ以上に、被告が、A社に対し、原告につき何らかの処分をするように圧力を加えたとか、A社が原告に対し上記処分をせざるを得なかったといった事情は見当たらないことに加え、原告の姫路工場における就労がその4日後で終了することが既に決定していたことも併せ考えると、これをもって、被告が原告に対し懲罰権を発動したとは認められない。〔中略〕 したがって、被告が、原告の給与の額を実質的に決定する立場にあったとは認められない(なお、証拠(略)によれば、原告は、被告から、平成18年1月10日付けで、報酬として1万1111円の支払を受けたことが認められるが、この一事をもって、上記認定説示が左右されるとは認められない。)。 d さらに、前記1(1)、(3)、(9)認定、上記c説示及び証拠(略)によれば、原告は、姫路工場での就労開始以前の平成14年には、既にA社に登録していたこと、平成17年5月ころの本件に関する申込みについても、同社の求人広告を見て応募したものであるところ、同広告に被告の名前は記載されていなかったこと、姫路工場での就労中は、A社から賃金の支払を受け、厚生年金、健康保険、雇用保険等の社会保険の加入等は、A社が実施し、原告が所持していた健康保険証の雇用主の欄にもA社の名称が記載されていたこと、原告は、平成21年1月27日にB及びCに対して直接雇用を申し込むという、内容的に、自らが被告ではなくA社に雇用されていることを前提とする行為をしていること、姫路工場での就労終了後の平成21年2月24日付けの兵庫労働局宛ての申告書には、「私は平成17年6月27日にA株式会社に雇用され」「実質的に派遣労働者として」などと記載したことが認められる。 これによれば、原告は、姫路工場での就労開始前から就労終了後まで、一貫して、自らがA社の従業員であったと認識しており、被告に雇用されているという認識を持ち合わせていなかったことは明らかである。 e 以上からすれば、本件において、原告・被告間に黙示の雇用契約が成立していたと推認される事情、ないしこれを認めるべき特段の事情は何ら見当たらないというべきである。 (3) 労働者派遣法40条の4に基づく労働契約の成否について 前記(2)イ(ア)説示のとおり、原告、被告及びA社の三者の関係は、原告が姫路工場での就労を開始した当初(平成17年6月27日)から、労働者派遣であったと認められるところ、当時、物の製造業務に関する派遣可能期間は1年であったことからすれば、被告には、平成18年6月27日の時点で、原告に対し直接雇用を申し込むべき義務が発生していたと解するほかはない。 しかし、労働者派遣法40条の4は、その文言からして、派遣先の派遣労働者に対する雇用契約の申込義務を規定したにとどまり、申込の意思表示を擬制したものでないことは明らかであって、原告の主張は、立法論としてならともかく、現行法の解釈としては採り得ないものといわねばならない。 したがって、この点に関する原告の主張には、理由がない。 (4) 小括 以上のとおり、原告・被告間に、労働契約の成立は認められない。 3 争点2(解雇(更新拒絶)の違法・無効性)について 上記2説示のとおり、原告・被告間に労働契約の成立は認められないから、同契約の成立を前提とする解雇ないし更新拒絶は、これを判断するまでもない。 したがって、この点に関する原告の主張には、理由がない。 4 争点3(被告の不法行為)について (1) まず、原告は、自己が派遣可能期間を超えた役務の提供という違法行為を継続させられた上で、最終的に解雇ないし雇止めされたことにより、精神的苦痛を受けた旨を主張するが、前記2説示のとおり、原告・被告間に労働契約は成立していないから、上記主張には理由がない。 (2) 次に、原告は、被告が、兵庫労働局から是正指導を受けた段階で、原告に対し直接雇用の申込みをすべき信義則上の義務があったとか、契約社員を応募しておきながら原告に声を掛けることさえしなかった被告の対応は、直接雇用を期待していた原告に対する不法行為を構成するなどと主張する。 しかし、前記1(9)認定のとおり、被告は、兵庫労働局から上記指導を受けた平成21年4月16日の時点で姫路工場の製造ラインにおいて就業中であった派遣労働者については、その全員に対し期間契約社員として直接雇用する旨を提案するとともに、同雇用を希望した者につき同年6月1日付けで期間契約社員として雇用し、労働者派遣を中止していることからすれば、被告は、兵庫労働局からの上記指導内容である「労働者の雇用の安定を図るための措置を講ずることを前提に、直ちに労働者派遣を中止する」ことに沿う措置は一応取ったといえるのであって、同指導を受けた同年4月16日の段階で既に姫路工場での派遣労働を終了していた原告についてまで、直接雇用の申込みをすべき信義則上の義務があったとはいえない。 また、前記1(9)認定のとおり、被告は、同年6月以降平成22年8月29日までの間に、少なくとも7回の契約社員の募集をしているところ、これらはいずれも求人広告を用いた公募であったのであるから、原告がもし被告に直接雇用されることを望むのであれば、上記公募に応募すればよかったのであって、原告が同応募をしたにもかかわらず、兵庫労働局に対し前記申告をしたがゆえに被告から不利益な取扱いを受け、採用されなかったというのであれば格別、原告は、上記公募に応募せず、かえって平成22年5月1日以降、被告とは別の会社において契約社員として稼働しているのであるから(原告本人19・20・38・43)、何ら原告に対する不法行為を構成するものではないといわねばならない。 |