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ID番号 : 08869
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : NTT東日本-北海道ほか事件
争点 : 電信電話会社で複数回契約更新していた契約社員らが地位確認と雇止め無効・慰謝料を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 電信電話会社Y1と期間の定めのある契約社員として複数回契約を更新してきたX1ら3名が、Y1の更新拒絶(雇止め)と関連会社Y2への転籍に対し、意思表示の錯誤による無効又は詐欺・強迫による無効を理由に、Y1との間の地位確認と、Y1らに連帯して慰謝料の支払いを求めた事案である。 札幌地裁は、まずXらがY2に対してもY1との雇用契約上の地位を有することの確認を求めている件については確認の利益がなく不適法であるとして却下した。次いで慰謝料について、〔1〕X1らとY1との雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となっていたということはできず、また、雇用契約が更新されるものとの合理的な期待を抱いていたということもできないから、解雇法理は類推適用されず、また、雇用替えに際しても移籍という選択肢を提示しており非合理とはいえないこと、雇用替えの実施には適正な手続が執られていて対象者の人選にも不公平な点はみられないことなどから、雇用契約不更新には客観的で合理的な理由があること、〔2〕転籍合意が存在することが事実に反するということができないこと、〔3〕通常一般人が転籍に合意しなかったであろうと考えられるほどに重要な錯誤があったとはいえず、要素の錯誤とはいえないこと、〔4〕転籍に応じない場合の雇止めの可能性をあらかじめ告げており、X1らを欺罔して錯誤に陥れようとの故意は認められないこと、〔5〕強迫についても、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇用止めになります。」と記載した資料を配布した行為が相手方に畏怖を生じさせ、意思表示させようとする故意はないなどとして、X1らの請求を棄却した。
参照法条 : 労働契約法17条
民法95条
民法96条
民法709条
民法710条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事) /解雇予告 /解雇予告の方法
配転・出向・転籍・派遣 /転籍 /転籍
裁判年月日 : 2012年9月5日
裁判所名 : 札幌地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ワ)1928
裁判結果 : 一部却下、一部棄却
出典 : 労働判例1061号5頁/労働経済判例速報2156号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔解雇(民事)‐解雇予告‐解雇予告の方法〕
〔配転・出向・転籍・派遣‐転籍‐転籍〕
 1 確認の利益について
 原告らは、原告ら各自と被告テレマートとの間においても、原告ら各自が被告NTT北海道との雇用契約上の地位を有することの確認を求めている。しかしながら、上記の請求に係る訴えは、いずれも確認の利益がなく、不適法であるから、却下を免れない。
 2 争点1(解雇に関する法理を類推適用すべき事情の有無)について〔中略〕
 イ 期間の定めのある雇用契約であっても、期間満了ごとに当然更新され、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には、期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり、その実質に鑑み、その効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推適用すべきであり(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁参照)、また、労働者が契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が存続、維持されてきた場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、期間満了後の更新拒絶(雇止め)について、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される(最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決・集民149号209頁参照)。
 そこで、前記認定事実を前提に、原告Aに対する雇止めにおいて、解雇に関する法理が適用又は類推適用されるべきであるか否かを以下に検討する。〔中略〕
 (ウ) 以上からすると、原告Aと被告NTT北海道との間の雇用契約が、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたということはできず、また、雇用契約が更新されるものとの合理的な期待を抱いていたということもできないというべきである。
 そうすると、原告Aと被告NTT北海道との間の雇用契約には、解雇に関する法理が類推適用されると解されない。
 (2) 原告B及び原告Cについて〔中略〕
 (ウ) 以上からすると、原告B及び原告Cと被告NTT北海道との間の雇用契約が、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたということはできず、また、雇用契約が更新されるものとの合理的な期待を抱いていたということもできないというべきである。
 そうすると、原告B及び原告Cと被告NTT北海道との間の雇用契約には、解雇に関する法理が類推適用されると解されない。
 (3) 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求は理由がないことが明らかである。
 3 争点2(更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由の有無)について
 もっとも、原告らの主張に鑑み、仮に解雇に関する法理が類推適用されるとした場合に、原告らとの雇用契約を更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由の有無についても、あえて検討する。〔中略〕
 エ 以上のとおり、被告NTT北海道による本件雇用替えの目的には一応の合理性が認められ、原告らを雇止めして被告テレマートに転籍させる理由としても一応の合理性があるものと認められること、被告NTT北海道は、本件雇用替えに当たって、原告らを単に雇止めするのではなく、被告テレマートへの移籍という選択肢を提示しているところ、その選択肢は非合理とはいえないこと、本件雇用替えの実施に当たって適正な手続が執られていること、本件雇用替えの対象者の人選に不公平な点はみられないことからすれば、原告らとの間の雇用契約を更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由があったというべきである。
 4 争点3(転籍合意の有無)について
 以上のとおりであるから、原告らの請求原因は認められないこととなるが、原告らの主張に鑑み、以下では、原告らの雇止めにつき解雇に関する法理が類推適用され、かつ、雇止めに客観的合理的な理由がなかったと仮定して、争点3から争点6までにつき検討することとする。〔中略〕
 そこで、上記各転籍合意が存在することが真実に反するかを検討すると、上記(1)のとおり、上記各転籍合意は、原告らに不利益を与え得るものであるというべきであるが、そのことのみから、上記各転籍合意が存在しないと認めることはできず、その他、上記各転籍合意の不存在を認めるに足りる証拠はないから、上記各転籍合意が存在することが真実に反するということはできない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、自白の撤回をいう原告らの主張には理由がない。
 (3) 以上によると、上記各転籍合意については自白が成立しており、その撤回は認められないものというべきである。
 5 争点4(錯誤の有無)について〔中略〕
 原告Aは、転籍に合意しなければ、被告NTT北海道は、平成22年3月31日をもって、原告Aを合法に雇止めをすることができると認識していた可能性は否定できないというべきである。
 ウ しかしながら、上記3(2)イで述べたとおり、被告テレマートに転籍後も、被告NTT北海道に派遣され、従前と同じ業務を続けることが予定されていたこと、転籍後の労働条件は、転籍前と比べてほとんど変更はなく、転籍前と比べて不利益になる点もあるものの、その不利益をできる限り小さくするための手当がされていたこと、逆に、転籍後は、転籍前と異なり、正社員に登用される可能性もあったこと、本件雇用替えは、被告NTT北海道と同社の最大の労働組合であるNTT労働組合(上記3(1)ウ参照)との間で協議がなされ、大綱了解に至っていた施策であり、実際、上記(1)ウで認定したとおり、本件雇用替えの対象となった669名の契約社員から、退職する旨の意思を示していた者や、出産、育児等の事由により休暇取得中であった者を除く社員のうち、最終的に転籍に応じなかったのは2名のみであり、残りの635名は転籍に応じたものであること、転籍に応じれば被告NTT北海道との関係の悪化を回避することができることからすれば、通常一般人が、仮に、法的に雇止めができないことを認識していたとしても、転籍に合意することは十分にあり得たものと考えられる。そうすると、仮に、原告らに錯誤があったとしても、錯誤がなかった場合に、通常一般人が転籍に合意しなかったであろうと考えられるほどに重要な錯誤があったとはいえず、要素の錯誤であるとは認められないというべきである。
 (3) したがって、錯誤に関する原告らの主張は採用することができない。
 6 争点5(詐欺の有無)について〔中略〕
 (2) Jの上記供述によれば、被告NTT北海道が、原告らに対し、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇用止めになります」と記載した資料(書証略)を配付し、転籍に応じない契約社員に関しては、平成22年3月31日をもって雇止めとするとの説明を行ったのは、転籍に応じない場合、雇止めする可能性も否定できないから、これをあらかじめ契約社員らに告げておくとの合理的な動機に基づくものであって、原告らを欺罔して錯誤に陥れようとする故意があったと認めることはできない。
 (3) 以上によれば、詐欺に関する原告らの主張は採用できない。
 7 争点6(強迫の有無)について
 被告NTT北海道が、原告らに対し、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇止めになります」と記載した資料(書証略)を配付し、転籍に応じない契約社員に関しては、平成22年3月31日をもって雇止めとするとの説明を行った行為は、そもそも、違法な強迫行為であると認めることはできないし、上記6(2)で述べたのと同様の理由により、被告NTT北海道には、相手方に畏怖を生じさせ、この畏怖によって意思表示をさせようとする故意があったものと認めることはできない。
 したがって、強迫に関する原告らの主張は採用できない。
 8 争点8(違法行為の有無)について
 原告らは、被告らが、原告らに対し、その意思に反して被告テレマートへの転籍に応じさせたと主張するが、上記5ないし7のとおり、錯誤、詐欺及び強迫は認められないことからすると、本件雇用替えが原告らの意思に反していたということはできない。
 そうすると、不法行為に基づく損害賠償を求める原告らの請求は、その余の争点について判断するまでもなくいずれも理由がない。