ID番号 | : | 08870 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | F社事件 |
争点 | : | コンピュータソフト会社を休職期間満了による自然退職となった元社員が地位確認と給与の差額等を求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | コンピュータソフトウェアの作成及び販売等を業とする株式会社Y1らに対し、元社員Xが、Y1がXの傷病を業務上のものとして取り扱わず、その結果休職期間満了後に自然退職扱いとされたとして、退職無効による地位の確認、給与の差額支払いなどを求め、また、精神疾患による休職を余儀なくさせたとして従業員Y2、産業医Y3、健康保険組合Y4、労働組合Y5、派遣先会社Y6に対し不法行為ないし使用者責任に基づく慰謝料の支払いを求めた事案である。 東京地裁は、まず退職扱いの有効性について、Xは6カ月間病気欠勤し、引き続き1年4カ月間にわたり休職したことが認められ、その時点で休職事由たる精神疾患が寛解していたと認めるに足る証拠がないことから、就業規則の規定に基づき自動的に退職したというべきであるとし、また、裁判所の再三の求釈明にもかかわらず、業務と傷病との間の相当因果関係の存在について具体的な主張及び立証がなかったため業務起因性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず、Y1に対する雇用契約上の権利を有する地位の確認及び賃金差額支払請求はいずれも理由がないとした。また、Y2~Y6に対する慰謝料請求についても、それら行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係が認められないとして、いずれも棄却した。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法710条 民法715条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)
/労働契約上の権利義務
/使用者に対する労災以外の損害賠償請求 解雇(民事) /解雇事由 /病気 退職 /失職 /失職 |
裁判年月日 | : | 2012年8月21日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成22(ワ)40768 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2156号22頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐病気〕 〔退職‐失職‐失職〕 1 争点(1)(本件退職扱いの有効性)について〔中略〕 原告は、前記前提事実のとおり、平成20年8月31日までの6か月間病気欠勤し、引き続き同年9月1日から平成21年12月31日まで1年4か月間にわたり休職したことが認められるところ(前記第2の1(3)のセ及びソ)、その時点で、休職事由たる前記各精神疾患が寛解していたと認めるに足りる証拠はない(その旨の主張もない。)から、就業規則83条の規定により、原告は、同日をもって被告F社を自動的に退職したものと言うべきである。〔中略〕 原告は、当裁判所の再三の釈明にもかかわらず、業務と傷病との間の相当因果関係の存在について具体的な主張及び立証(特に医学的な見地からの主張立証)をしようとしないから、本件においては、原告の傷病につき業務起因性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず(なお、原告は、多数の人証申請をしているが、いずれも上記相当因果関係の立証との関係では取調べの必要性が認められない。)、結局、本件退職扱いの無効をいう原告の上記主張は採用の限りではないというべきである。 (3) 以上によれば、原告の被告F社に対する雇用契約上の権利を有する地位の確認請求及び賃金差額支払請求(前記第1の1及び2)は、いずれも理由がない。 2 争点(2)(被告Cのパワーハラスメントを理由とする慰謝料請求の可否) 原告は、被告Cのパワーハラスメントが原因となって、本件退職扱いの結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮に原告主張に係る被告Cの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、被告Cの行為がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、被告Cのパワーハラスメントを理由とする原告の慰謝料請求(前記第1の3)は理由がない。 3 争点(3)(被告Dに対する慰謝料請求の可否) 原告は、被告Dが産業医として不当・不適切な行為をしたため、原告は職場に復帰することもできず、本件退職扱いという結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮に原告主張に係る被告Dの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、被告Dの行為が産業医として不当ないし不適切であったと評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、原告の被告Dに対する慰謝料請求(前記第1の4)は理由がない。 4 争点(4)(被告健保組合に対する慰謝料請求の可否) 原告は、原告の傷病は業務上のものであるのに、被告健保組合は「私傷病」との表現を変えなかったため、原告の傷病は業務上の傷病として取り扱われず、本件退職扱いの結果が生じた旨を主張する。しかしながら、被告健保組合は、組合員たる原告の請求に応じて傷病手当金の請求手続等をしたにすぎず、当該手続に当たり、当該傷病が業務起因性を有するものであるかについて積極的に判断すべき立場にはなかったと認められるから、原告の傷病が業務上のものであることが明らかにされていない状況の下において、被告健保組合がこれを業務外の傷病として取り扱ったことを違法であると評価することは困難であるし、もとより、被告健保組合の当該取扱いと本件退職扱いとの間に相当因果関係の存在を肯定することもできないと言うべきである。 よって、その余の点について検討するまでもなく、原告の被告健保組合に対する慰謝料請求(前記第1の5)は理由がない。 5 争点(5)(被告労働組合に対する慰謝料請求の可否) 原告は、被告労働組合が、組合員である原告の力とならず、会社側の立場で行動した結果、原告は本件退職扱いを受けることとなった旨を主張する。しかしながら、本件退職扱いを無効ということができないことは前記1(2)で判示したとおりであり、そうであるとすれば、仮に原告主張のように被告労働組合が会社側の立場で行動したとの事実があったと仮定しても(ただし、現時点において、そのように認めるべき証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があるとは認めることができないから、その余の点につき検討するまでもなく、原告の被告労働組合に対する慰謝料請求(前記第1の6)は理由がない。 6 争点(6)(被告H社に対する慰謝料請求の可否) 原告は、平成17年5月9日から同年11月1日までの間、被告H社から過重労働を強いられた結果、強迫性障害に陥った旨を主張する。しかしながら、仮に原告主張のような過重労働の事実が認められたとしても(ただし、現時点において、そのように認めるに足りる的確な証拠はない。)、当該事実と強迫性障害罹患との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、原告の被告H社に対する慰謝料請求(前記第1の7)は理由がない。 |