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ID番号 : 08873
事件名 : 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 : 国立大学法人Y大学事件
争点 : セクハラを理由に諭旨解雇された国立大学准教授が地位確認、未払給与の支払い等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 国立大学法人Yの准教授であったXが、Yの研究所で研究をしていた大学院生Aに対し強引に性交渉に及び、また、Xが実質上の指導教員として指導していた大学院生Bに対し、複数回身体接触を行ったり性的内容を含むメールを送信したことが、Yセクハラ防止綱領に定めるセクハラ行為に該当するとして懲戒処分として諭旨解雇処分をしたことに対し、懲戒処分は無効であると主張して地位確認、未払給与の支払い及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。 東京地裁は、A事案、B事案ともに処分の前提となる事実を認定した上で、AはXの実験を手伝いXの論文に共著者として氏名を掲載される予定であったという事情も併せ考慮すれば、XとAとは類型的に権力の不均衡が認められる関係にあり、XはAに対し制度上優位な立場にあったと認め、またBについても、XがBに対し強い影響力を有していたと認めた。その上で、このような状況の下で為されたXの行為を両者ともYセクハラ防止綱領に定めるセクハラ行為に該当すると認定し、行為態様の悪質さ、被害の甚大さ、Xの反省が窺われないことなどに鑑みて諭旨解雇処分は相当として、Xの請求をいずれも棄却した。
参照法条 : 労働契約法16条
体系項目 : 解雇(民事) /解雇事由 /暴力・暴行・暴言
解雇(民事) /解雇事由 /不正行為
裁判年月日 : 2012年7月4日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成22(ワ)17160
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働経済判例速報2153号17頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐解雇事由‐暴力・暴行・暴言〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐不正行為〕
 第3 当裁判所の判断
 1 A事案について〔中略〕
 (3) セクハラ行為該当性
 そして、前記前提事実(3)ア記載の原告とAとの関係及び上記(1)ア(ア)記載の、当時、Aは原告の実験を手伝い原告の論文に共著者として氏名を掲載される予定であったという事情も併せ考慮すれば、原告とAとは、類型的に権力の不均衡が認められる関係にあり、原告は、Aに対し、制度上優位な立場にあったと認められ、かかる状況下におけるA事案事実〈1〉〈2〉の行為は、セクハラ防止綱領に定めるセクハラ行為に該当する。
 2 B事案について
 (1) B事案事実〈1〉について〔中略〕
 (イ) 判断
 Bの上記供述は、原告から身体的接触があった日時や、身体接触の回数について、必ずしも明確に特定しているわけではないが、時期については、いずれの行為も6月から7月ころという限度で特定し、一貫しているし、行為態様についても、最初に飲んだときの状況は、ある程度詳細に供述し、また、尻を触られた状況についても、一定程度具体的であるということができる。そして、Bが供述する身体的接触の態様が、その1つ1つは単純な行為で、時間的にも比較的短く、何回も同様の行為を繰り返すことが可能な行為であると窺われることに照らせば、態様や回数、行われた場所等について一定程度曖昧な供述となっていることが、特段不合理、不自然であるとまではいえない。
 そして、Bの上記供述は、Bが自主的に原告との会話を録音した録音記録(書証略)の内容(録音記録の会話内容を全体としてみれば、7月ころに、原告がBに対して複数回、意図的に身体的接触を行ったことを自認していると認められる。これに反する原告主張は採用しない。)とも、身体的接触の存在及び時期の点で附合しているといえ、更にBが平成19年2月ころ作成した「回想記録」と題する書面(書証略)の内容とも整合するものといえる。
 したがって、Bの供述は信用することができる。
 ウ 小括
 以上によれば、B事案事実〈1〉についてのBの供述は信用することができ、これに反する原告の供述は採用することができない。
 したがって、B事案事実〈1〉を認定することができる。
 (2) B事案事実〈2〉について
 ア 原告がBに対してB事案事実〈2〉記載のとおりメールを送信した事実については、当事者間に争いはない。〔中略〕
 (3) セクハラ行為該当性
 そして、前記前提事実(3)イ記載の原告とBとの関係に照らせば、原告がBに対し強い影響力を有していたと認められ、かかる状況下におけるB事案事実〈1〉〈2〉は、セクハラ防止綱領に定めるセクハラ行為に該当する。
 3 以上のとおり、A事案事実〈1〉〈2〉及びB事案事実〈1〉〈2〉は、いずれもセクハラ防止綱領に定めるセクハラ行為に該当し、本件就業規則38条5号及び6号に該当する。
 4 本件懲戒処分について
 (1) A事案は、准教授であった原告が、学生のAに対し、飲食中に太ももを触る等の意に反する身体接触を行い、執拗にA宅への宿泊を求めた挙げ句、A宅においてAと強引に性交渉を行ったものであり、その態様は極めて悪質である。Aは、A事案事実〈1〉〈2〉の後、PTSDと診断され、精神的にも深い傷を負うなど、その被害は甚大であり、原告の責任は極めて重いといわなければならない。
 また、B事案は、准教授であった原告が、同じ乙センターで日々指導をしていた学生Bに対し、その立場上の関係及び環境に乗じて性的な内容のメールを執拗に送信し続けたり、複数回にわたりBの意に沿わない身体接触をしたもので、執拗かつ悪質な行為として到底許されるものではない。
 (2) そして、A事案及びB事案を全体としてみれば、1年余りの長期間にわたり、2人の学生に対してセクハラ行為を繰り返しており、教員としての適性を欠いていることが明らかであるところ、原告は、A事案については行為自体を全面的に否認し、B事案についても身体接触の大部分を否認しており、未だに本件各行為に真摯に向き合い、反省する態度は窺われない。
 (3) 以上のとおりの原告の行為態様の悪質さ、被害の甚大さ、原告の反省が窺われないことなどに鑑みれば、諭旨解雇処分(本件就業規則39条5号)が相当であるということができ、本件懲戒処分は有効である。
 5 手続に関する主張について
 原告は、本件懲戒処分に至る手続が適正ではなかったと主張するが、本件においては、防止委員会における調査の段階から原告代理人弁護士が関与し、適宜意見書、弁明書等が提出され、懲戒委員会調査委員会においても、事前に同委員会の認定した事実を告知した上で弁明の機会が与えられたと認められ(書証略、弁論の全趣旨)、手続も適正であったといえる。