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ID番号 : 08874
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : 貨物自動車運送会社で起きた石綿粉じん吸引で死亡した従業員の遺族らが損害賠償等を求めた事案(遺族勝訴)
事案概要 : 貨物自動車運送事業等を主たる業とする会社Yの従業員であった者らが、石綿の輸送作業中及びYの大物車庫における積み下ろし作業中に石綿粉じんを吸引した結果、肺がん・悪性中皮腫等石綿関連疾患に罹患し死亡するに至ったとして、その遺族であるX1ら16名が安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償及び遅延損害の支払いを求め、合わせて従業員の妻5名が、慶弔見舞金規程に基づく金員の支払いを求めた事案である。 神戸地裁尼崎支部は、死亡した従業員全員について石綿粉じんにばく露していたと認定した上で、Yの予見可能性について、業務従事期間当時において安全配慮義務等の具体的義務内容の前提となる予見可能性があったと認め、また、Yには石綿粉じんの発生を防止するための注水等の措置、呼吸用保護具を装着させる措置、粉じん濃度を測定して改善措置を講ずること、及び安全教育・安全指導を行うこと等について安全配慮義務違反等があり、本件元従業員の死亡との間に相当因果関係が認められるとして損害賠償を認めた。しかし、見舞金規程については、この制度がYに現に就労する社員の福利厚生を目的とし、労災補償の上積み補償として従業員及びその扶養家族の生活保障のために支給される性質のものであるとして適用を認めず、請求を棄却した。
参照法条 : 民法623条
民法709条
労働契約法5条
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 : 2012年6月28日
裁判所名 : 神戸地尼崎支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)121
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 判例時報2160号63頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 イ 被告の予見可能性について〔中略〕
 ウ 以上の検討に照らして、被告には、神崎工場関係元従業員ら及び亡Tの業務従事期間当時までにおいて、少なくとも後掲3のとおり原告らの主張する安全配慮義務等の具体的義務内容の前提となる予見可能性があったと認められる。〔中略〕
 3 争点3(被告の安全配慮義務等違反の有無)について
 被告において認められる前記予見可能性を前提として、以下では、被告の安全配慮義務等の具体的内容について検討を加える。
 (1) 神戸港及び被告クボタ神崎工場での作業について
 ア 石綿粉じんの発生防止措置をとる義務について〔中略〕
 (ウ) 被告において、上記義務が存したにも関わらず、何らの措置をとっておらず、義務懈怠があったと認められる。
 イ 発生した石綿粉じんを除去し、飛散を防止する措置をとる義務について〔中略〕
 (エ) よって、被告には、作業場所付近に局所排気装置を設置すべき義務があったということはできないから、原告らの上記主張は採用し得ない。
 ウ 呼吸用保護具を適正に使用させる義務について〔中略〕
 (エ) 以上の検討に照らして、被告は、本件従業員らに対して、マスクを準備せず、かつ、これを装着すべきことを指導することもなかったのであるから、被告には、この点について安全配慮義務等違反があったと認められる。〔中略〕
 エ 粉じん濃度を測定し、その結果に従い改善措置を講じる義務について〔中略〕
 (エ) よって、被告において、かかる濃度測定を行っていないのであるから上記義務の懈怠があったと認められる。
 オ 安全教育及び安全指導を行う義務について〔中略〕
 しかしながら、これまで検討したように、保護具の使用や石綿粉じんの飛散防止措置の実施等について、昭和31年(1956年)時点において、被告において、けい肺等の作業環境による疾病に対して予防策を研究し、保護具等を実施する(乙A41)としながらも、昭和36年(1961年)になっても、保護具の利用の重要性が社員に共有認識となっていなかった等の状況に照らせば、前記認定にかかる石綿ばく露状況を踏まえた教育、指導は行われていなかったというほかなく、そうすると、被告には、この点について安全配慮義務等の懈怠があったものと認められる。
 カ 以上によれば、被告には、神崎工場関係元従業員らに対して、上記のとおりの安全配慮義務等の違反が認められる。
 (2) 大物車庫での作業について(T関係のみ)〔中略〕
 (イ) そこで、検討するに、前提事実及び前記認定のとおり、被告において、粉じんの飛散に注水等が有効であることは認識すべきであったことに照らして、被告には、粉じん防止措置をとる義務があったと認められる。
 そして、前記認定のとおり、従来は不備であった有害物質に対する規制内容を明確にするため、労働大臣において、昭和46年(1971年)4月28日、旧特化則が定められ、石綿を湿潤な状態にするなど労働者の障害を予防するため必要な措置を講じる義務が定められた4条も、昭和47年(1972年)5月1日施行されていることに鑑みれば、亡Tの就業時期の上記義務はより高度であったということができる。
 (ウ) 被告において、上記義務が存したにも関わらず、何らの措置をとっておらず、義務懈怠があったと認められる。
 イ 発生した石綿粉じんを除去し、飛散を防止する措置をとる義務〔中略〕
 よって、被告において、大物車庫の作業について何かしらの措置を設ける必要があったとはいえるものの、実際の石綿濃度も明らかではなく、少なくとも亡Tの石綿積み下ろし等の作業従事期間に被告において局所排気装置を設置すべき義務があったとはいえない。
 (ウ) よって、上記原告らの主張は採用し得ない。
 ウ 呼吸用保護具を適正に使用させる義務〔中略〕
 (ウ) よって、被告において、亡Tの石綿積み下ろし等の作業従事期間においても、義務懈怠があったと認められる。
 そして、この点について、被告が亡Tに対して、呼吸用保護具を手徹底し、他の安全配慮義務等も尽くしていれば、相当程度石綿ばく露が低減し得たものであり、亡Tについて胸膜中皮腫の発症ないしそれによる死亡が免れたと認めるのが相当である。
 エ 安全教育及び安全指導を行う義務〔中略〕
 (ウ) 被告において、前記のとおり、社内の衛生教育等の改善について取り組んでいたことは認められるが、それが上記の義務の履行に繋がっていないのであり、実際に教育及び指導が現場で普及していたとも認めるに足る証拠はないから、被告には義務懈怠があったと言わざるを得ない。
 オ 以上によれば、被告には、亡Tに対する、上記のとおりの安全配慮義務等の違反が認められる。
 4 争点4(石綿ばく露の有無及び死亡との間の因果関係の有無)について
 (1) 亡Iについて〔中略〕
 イ かかる認定によれば、亡Iが被告での勤務期間中の作業で石綿にばく露をしたことにより、同人が石綿肺に合併した原発性肺がんに罹患し、死亡したと認めることができ、よって、被告の安全配慮義務違反と亡Iの死亡との間には、相当因果関係が認められる。
 (2) 亡Kについて〔中略〕
 ウ 以上に照らせば、亡Kが被告での勤務期間中の作業で石綿にばく露をしたことにより、同人が石綿肺に合併した原発性肺がんに罹患し、死亡したと認めることができ、よって、被告の安全配慮義務違反と亡Kの死亡との間には、相当因果関係が認められる。
 (3) 亡Oについて〔中略〕
 イ 以上に照らせば、亡Oが被告での勤務期間中の作業で石綿にばく露をしたことにより、同人が石綿肺に合併した原発性肺がんに罹患し、死亡したと認めることができ、よって、被告の安全配慮義務違反と亡Oの死亡との間には、相当因果関係が認められる。
 (4) 亡Qについて〔中略〕
 イ 以上に照らせば、亡Qが被告での勤務期間中の作業で石綿にばく露をしたことにより、同人が石綿肺に合併した原発性肺がんに罹患し、死亡したと認めることができ、よって、被告の安全配慮義務違反と亡Qの死亡との間には、相当因果関係が認められる。
 (5) 亡Tについて〔中略〕
 イ 以上に照らせば、亡Tが被告での勤務期間中の作業で石綿にばく露をしたことにより、同人が石綿肺に合併した原発性肺がんに罹患し、死亡したと認めることができ、よって、被告の安全配慮義務違反と亡Tの死亡との間には、相当因果関係が認められる。〔中略〕
 6 争点6(本件見舞金規程の適用の有無)について〔中略〕
 (3) 以上に照らせば、本件従業員らに対しては、本件条項は適用されないから、これを前提とする原告X1ら5名の被告に対する本件見舞金規程に基づく請求は、いずれも理由がない。