ID番号 | : | 08877 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本ヒューレット・パッカード事件 |
争点 | : | コンピュータ会社から無断欠勤で諭旨退職とされたSEが地位確認、賃金、賞与等の支払いを求めた事案(労働者勝訴) |
事案概要 | : | コンピュータ会社Yから、就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤があったとして諭旨退職処分を受けたシステムエンジニアXが、雇用契約上の権利を有する地位の確認と、賃金と遅延損害金の支払い及び賞与と遅延損害金の支払いを求めた事案である。 第一審東京地裁は、判決確定日の翌日以降の金員支払いについて却下し、その他請求を棄却したため、Xが控訴。 第二審東京高裁は、判決確定日の翌日以降の金員支払いについて却下し、それ以外の請求を認めたためYが上告。 最高裁第二小法廷は、Xは、被害妄想など何らかの精神的な不調によりYに休職の承諾を求めたが出勤を促されるなどしたため、自分自身が納得しない限り出勤しない旨をあらかじめYに伝えた上で有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けたものである。このような精神的な不調のために欠勤を続けている労働者に対しては、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきところ、このような対応を採ることなく、直ちにその欠勤を正当な理由のない無断欠勤として諭旨退職の懲戒処分の措置を執ったことは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難いとして、上告を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条 労働契約法15条 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 解雇(民事)
/解雇事由
/病気 懲戒・懲戒解雇 /懲戒事由 /無断欠勤を理由とする諭旨退職 |
裁判年月日 | : | 2012年4月27日 |
裁判所名 | : | 最高二小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成23(受)903 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1055号5頁/労働経済判例速報2148号3頁/裁判所時報1555号8頁/判例時報2159号142頁/判例タイムズ1376号127頁/裁判所ウェブサイト掲載判例 |
審級関係 | : | 控訴審/東京高平成23.1.26/平成22年(ネ)第4377号 一審/東京地平成22.6.11/平成21年(ワ)第12860号 |
評釈論文 | : | 夏井高人・判例地方自治360号83~85頁2012年11月嶋崎量・労働法律旬報1780号56~60頁2012年11月25日 |
判決理由 | : | 〔解雇(民事)‐解雇事由‐病気〕 〔懲戒・懲戒解雇‐懲戒事由‐無断欠勤を理由とする諭旨退職〕 上告代理人大谷禎男、同鳥養雅夫、同松尾剛行の上告受理申立て理由について 1 本件は、上告人に従業員として雇用された被上告人が、上告人から、就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤があったとの理由で諭旨退職の懲戒処分(以下「本件処分」という。)を受けたため、上告人に対し、本件処分は無効であるとして、雇用契約上の地位を有することの確認及び賃金等の支払を求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係等によれば、被上告人は、被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には事実として存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを受けているとの認識を有しており、そのために、同僚らの嫌がらせにより自らの業務に支障が生じており自己に関する情報が外部に漏えいされる危険もあると考え、上告人に上記の被害に係る事実の調査を依頼したものの納得できる結果が得られず、上告人に休職を認めるよう求めたものの認められず出勤を促すなどされたことから、自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ上告人に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けたものである。 このような精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上告人としては、その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどした上で(記録によれば、上告人の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。)、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。 そうすると、以上のような事情の下においては、被上告人の上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たらないものと解さざるを得ず、上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた本件処分は、就業規則所定の懲戒事由を欠き、無効であるというべきである。 |