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ID番号 : 08881
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : いすゞ自動車(雇止め)事件
争点 : 自動車製造会社に契約不更新とされた元期間労働者、派遣労働者らが地位確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 自動車製造業等を営む株式会社Yに契約を更新されなかった期間労働者又は就業先をYとする派遣労働者であったX1ら12名が、地位確認及び賃金、又は慰謝料等を請求した事案である。 東京地裁は、労働者各々の労務提供契約の変遷と使用者側のやむを得ない事情との比較考量をした上で、X1ら全員についての契約不更新を適法とした。ただし、請求のうち第1グループ(X1からX4まで)については、休業手当額を平均賃金の6割と定めた臨時従業員就業規則は、労働基準法第26条に規定する休業手当について定めたものと解すべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないとし、休業に伴う民法536条2項による賃金残額(遅延損害金)の支払いを求める限度で、休業によるYの労務提供の受領拒絶が「債権者の責めに帰すべき事由」によるとの推認を覆すに足りる事由はないことから賃金請求権を認めることができるとし、その余の請求はいずれも理由がないとして棄却した。
参照法条 : 民法536条
民法709条
労働者派遣法40条の4
労働基準法26条
労働契約法17条2項
体系項目 : 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
賃金(民事) /休業手当 /労基法26条と民法536条2項の関係
裁判年月日 : 2012年4月16日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)10678
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1054号5頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 以上によると、被告に、本件休業によって、平均賃金の4割カットによらなければならないというだけの、上記の高度の必要性までをも認めることは困難であるといわなければならない。そうすると、本件休業がやむを得ないものであると認めることはできない。
 (3) 被告は、本件休業に係る休業手当額を平均賃金の6割にすることについては、第1グループ原告らとの間の労働契約及び臨時従業員就業規則43条により、その旨の個別合意が存在し、この合意は本件休業の合理性を基礎付ける旨主張する。しかし、上記の規定は、労働基準法26条に規定する休業手当について定めたものと解すべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないから、被告の上記主張は、その前提を欠くというべきである。
 以上によれば、本件休業による被告の労務提供の受領拒絶については、「債権者の責めに帰すべき事由」によるとの推認を覆すに足りる事由はないから、第1グループ原告らの被告に対する民法536条2項に基づく賃金請求権は、これを認めることができる。
 (4) 上記判断により、第1グループ原告らは、本件休業がされずに所定労働日に就労した場合の日額9000円による賃金額から、被告より支払われた休業手当相当額を控除した額として、原告らが第1の1(1)イ、同(2)イ、同(3)イ及び同(4)イで請求する額の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める権利を有するものと認められるという結論になる。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 7 原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及び額
 (1) 第1グループ原告ら、原告X5、原告X6及び原告X7について
 上記判断のとおり、被告が、第1グループ原告ら、原告X5、原告X6及び原告X7に対する違法な雇止め又は解雇をしたとも、詐欺に該当する説明等によって誤信させることにより臨時従業員としての労働契約の解消を余儀なくさせた等の事実も認められないから、この点に関する原告らの主張は、その前提を欠くものというべきである。
 次に、派遣禁止業務について派遣労働者を受け入れ、また、派遣可能期間を超えて派遣労働者を受け入れるという労働者派遣法違反事実から、直ちに不法行為上の違法があるとは解せないから、このような労働者派遣法違反の事実に基づいて不法行為が成立するという原告らの主張も、理由がない。
 また、11.17解雇予告通知は、解雇の理由を「急激な需要の冷え込みによる大幅な生産計画の見直しのため」とし、その根拠を臨時従業員規則8条1項5項(会社業務の都合により雇用の必要がなくなったとき)とするものであり、上記認定事実のとおり、平成20年10月以降被告の国内外の受注数が現実に減少し、同年11月6日に全社で開催された緊急会議で、完成車、エンジン等の生産数量を大幅に減少することを決定したことに鑑みれば、被告が、その経営判断として前記の理由及び根拠に基づいて11.17解雇予告通知を行ったこと自体に違法性があるとは評価できないというべきであり、仮に11.17解雇予告通知に基づく解雇の有効性が認められないとしても、同解雇予告通知自体が不法行為を構成するものとは認められない。〔中略〕
 以上により、上記原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、いずれも認められない。〔中略〕
 イ 本件労働者派遣契約中途解約に係る慰謝料請求権の成否
 上記認定事実によれば、被告は、各派遣会社との間の各労働者派遣契約(基本契約及び個別契約)の中途解約に関する規定に基づき、平成20年11月14日ころ、各派遣会社に対し、1か月程度以上の猶予期間で、解約の理由を明示して解約の申入れをし、各派遣会社は、これに応じた上で、同月中下旬に、上記原告らに対して更新拒絶又は中途解雇の告知をしたと認められる。したがって、本件労働者派遣契約中途解約は、被告と各派遣会社との間の各労働契約者派遣契約の中途解約手続に関する規定に従ってされたものであるから、中途解約手続に関し、契約違反の問題を生じないというべきである。〔中略〕
 次に、被告と各派遣会社との間の各労働契約者派遣契約の中途解約に関する規定中、「甲及び乙は、派遣労働者の責に帰すべき事由によらない本契約又は個別契約の中途解約に関しては、他の派遣先をあっせんする等により、当該個別契約に係わる派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとする」については、被告が、各派遣労働者に対し、この規定を根拠として直接法的義務を負担するものとは解されないから、この規定違反を理由に被告に対して不法行為責任を問う原告らの主張には、理由がないというべきである。
 以上の他、上記の本件労働者派遣契約中途解約の理由も併せ考慮すれば、本件労働者派遣契約中途解約が上記原告らに対する不法行為を構成する程に違法性を有するものとは評価できず、本件労働者派遣契約中途解約に係る慰謝料請求は、これを認めることはできない。
 (3) 派遣期間制限違反の労働者派遣に係る慰謝料請求について
 上記判断のとおり、派遣禁止業務について派遣労働者を受け入れ、また、派遣可能期間を超えて派遣労働者を受け入れるという労働者派遣法違反の事実があったからといって、直ちに不法行為上の違法があるとはいえないと解すべきであるから、このような労働者派遣法違反の事実に基づいて不法行為が成立するという原告らの主張も、理由がない。
 (4) 以上によれば、上記原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権(原告X5、原告X6及び原告X7については予備的請求)を認めることはできない。