ID番号 | : | 08883 |
事件名 | : | 未払割増賃金等請求控訴事件(1713号)、同附帯控訴事件(1862号) |
いわゆる事件名 | : | 日本郵便輸送事件 |
争点 | : | 郵便物運送等会社の給与規程の不備を理由に従業員らが未払割増賃金を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | 郵便物の運送等を業とし、郵政民営化の一環として2度の合併を経たY社が、無事故手当及び運行手当の各半額を割増賃金の算定基礎に算入し、残り各半分は割増賃金として支払うという運用を引き続き行うこととした運用と規程との乖離について労働基準監督署から是正勧告を受け、一部分については全額を基礎額に算入する方法で割増賃金を支払ったにもかかわらず、その後も規程を維持し、これに基づく支給を続けたため、X1らが未払割増賃金及び同額の付加金の支払いを求めた事案の控訴審である。 第一審大阪地裁は、X1らの未払割増賃金支払請求を認め、付加金については棄却。Yが控訴、X1らも附帯控訴した。第二審大阪高裁は、給与規程変更2は、間接的ではあるが労働条件統一の必要性からなされたものといえなくもないとする一方で、無事故手当、運行手当は、通勤手当や住宅手当等とは異なり、労働の内容や量とは無関係な労働者の個人的事情により、支給の有無や額が決まるというものではなく、労働基準法37条5項、同法施行規則21条にいう除外賃金に該当しないことは明らかであり、給与規程1のうち無事故手当及び運行手当の全額を割増賃金の算定基礎としない定めは無効であり、また、給与規程変更2により労働者の受ける不利益は小さいとはいえないこと、元々合併前会社の従来運用については同社と労働組合との合意もなされていたことを考慮すると、給与規程変更2の内容の周知や説明を丁寧に行うべきところ、従来運用を絶対視し、給与規程1の是正を急ぐあまり、従業員や組合に対する対応を蔑ろにしたと評価されてもやむを得ないとして、拡張分を含め請求を認めた(付加金は認められず)。 |
参照法条 | : | 労働基準法37条 労働基準法92条1項 労働基準法施行規則21条 労働契約法8条 労働契約法9条 |
体系項目 | : | 賃金(民事)
/割増賃金
/割増賃金の算定基礎・各種手当 賃金(民事) /割増賃金 /算出方法の変更 雑則(民事) /付加金 /付加金 |
裁判年月日 | : | 2012年4月12日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成23(ネ)1713/平成23(ネ)1862 |
裁判結果 | : | 原判決変更(1862号)、控訴棄却(1713号) |
出典 | : | 労働判例1050号5頁/労働経済判例速報2145号17頁 |
審級関係 | : | 一審/大阪地堺支平成23.4.22/平成21年(ワ)第2783号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金(民事)‐割増賃金‐割増賃金の算定基礎・各種手当〕 〔賃金(民事)‐割増賃金‐算出方法の変更〕 3 本件給与規程1の割増賃金に関する定めの効力について 本件給与規程1では、無事故手当及び運行手当を割増賃金算定の基礎から除外している。 しかし、上記両手当は、通勤手当や住居手当等とは異なり、労働の内容や量とは無関係な労働者の個人的事情により、支給の有無や額が決まるというものではなく、労働基準法37条5項、同法施行規則21条にいう除外賃金に該当しないことは明らかである。したがって、上記割増賃金算定の基礎に係る規定は無効であり(労働基準法92条1項)、上記両手当も割増賃金の算定基礎とされるべきことになる。 4 本件給与規程変更2の不利益性について 控訴人は、本件各給与規程変更の一体性を前提として、本件給与規程2の内容と、大阪郵便の労働条件とを比較して、本件給与規程変更2の不利益性を判断すべきことを主張する。 しかし、上記一体性を認めることができないことは、上記2で判断したとおりである。したがって、本件給与規程変更2に係る不利益性については、本件給与規程1と同2の内容を比較すべきである。 本件給与規程1の割増賃金に係る規定は、2条で基準内給与に分類された基本給のみを割増賃金の算定基礎とし、無事故手当及び運行手当は基準外給与としていたのに対し、本件給与規程2は、67条で、上記両手当の半額を通常単価とし、残る半額は、通常単価半額分を割増賃金基礎額に算入することによって生ずる割増賃金に相当する分とすると規定した。この各規程を対比すると、本件給与規程変更2は、その全額が割増賃金の算定基礎とされていなかった上記両手当について、その半額を割増賃金の算定基礎とするものであり、文言上は労働者に有利な変更となっている。 しかし、上記3で判断したとおり、本件給与規程1の割増賃金算定基礎に係る規定は無効であり、上記両手当の全額がその算定基礎とされるべきであるから、これと、日本郵便逓送の従来運用を明文化した本件給与規程2の内容を対比すれば、本件給与規程変更2が不利益変更にあたることは明らかである。〔中略〕 5 本件給与規程変更2の必要性及び合理性について (1) 労働契約の内容である労働条件を変更するには、労働者と使用者との合意によることが原則であり(労働契約法8条)、就業規則の変更によっても労働者に不利益に労働条件を変更することは、原則としてできない(同法9条)が、労働条件の統一的・画一的処理の必要性も考慮する必要があることから、同法10条は、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」と規定している。 (2) 本件給与規程変更2は、直接的には、本件給与規程1の割増賃金の算定基礎に関する定めに不備があり、これを是正して、日本郵便逓送の従来運用を盛り込むことを目的とするものであるが、合併する14社の従業員の労働条件を統一する目的でなされた本件給与規程変更1の事後的な是正であるといえる点において、間接的ではあるが、労働条件統一の必要性からなされたものといえなくもない。 しかし、前述のように、本件給与規程1の割増賃金の算定基礎に関する定めのうち、無事故手当及び運行手当の全額を割増賃金の算定基礎としない定めは無効であり、この無効な定めとは異なる日本郵便逓送の従来運用を控訴人においても採用していたとしても、労働基準法37条5項、同法施行規則21条によれば、正しくは上記両手当の全額を割増賃金の算定基礎とすべきものであったといえるから、同運用に合わせる形で労働条件を統一するについては、本件給与規程変更2により労働者の受ける不利益が小さいとはいえないこと及び元々日本郵便逓送の従来運用については、同社と日本郵政公社労働組合間の合意もなされていたことを考慮すると、変更後の本件給与規程2の内容の労働者への周知や本件組合への説明、協議をある程度時間をかけて丁寧に行う必要があったというべきである。 (3) ところが、日本郵便逓送及び控訴人は、平成21年1月以降、本件給与規程1の下において、日本郵便逓送の従来運用について本件組合やこれを知らない従業員に周知・説明しないまま同運用を開始し、同年4月1日実施の本件給与規程2の内容や日本郵便逓送の従来運用の従業員に対する周知及び本件組合に対する説明を、同月7日に至ってようやく実施したものであって、従業員や本件組合に対する周知・説明及び協議を、時間をかけて丁寧に行ったと評価することはできない。むしろ、日本郵便逓送の従来運用を絶対視し、本件給与規程1の是正を急ぐあまり、従業員や本件組合に対する対応を蔑ろにしたと評価されてもやむをえないものである。 (4) 控訴人は、本件給与規程変更2が無効とされた場合の控訴人の金銭的負担は被控訴人らのみに留まらず、その影響が大きいことを主張するが、本件給与変更2に至る経過やこれまで検討してきたところによれば、影響が大きいことから合理性を認めるべきであるといえないことは明らかである。 控訴人のその他の主張によっても、本件給与規程変更2の合理性を認めることはできない。 (5) 以上によれば、本件給与規程変更2は無効であると認められる。 6 被控訴人らについて、平成21年5月分から平成23年11月分までの未払割増賃金(無事故手当及び運行手当を全て割増賃金の算定の基礎としたものと、現実に支払われてきた割増賃金との差額)は、本判決添付の各「未払割増賃金計算表」(略)のとおりであるから(当事者間に争いがない)、控訴人は、被控訴人らに対し、同計算表(略)のとおりの未払割増賃金を支払うべきである。 〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕 7 付加金について 被控訴人らに対する未払割増賃金を支払わなかった点について、控訴人の違反の程度・態様(本件給与規程2の67条によれば、無事故手当と運行手当の各半額が割増賃金の算定基礎から除外されること及び各半額が割増賃金とみなされることが明確に記載されているから、同規程自体が労働基準法37条に違反するとはいえないと解する余地もあること等)、労働者の不利益の性質・内容等の事情を考慮すると、本件では、付加金を課さないのを相当とする。 |