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ID番号 : 08886
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 日本航空客室乗務員解雇事件
争点 : 航空運送事業会社の更生管財人に解雇予告を通知された客室乗務員らが地位確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 航空運送事業会社の会社更生手続中に更生管財人から解雇予告通知を受けた客室乗務員Xらが、更生管財人を被告として、解雇の無効を主張して、地位確認、賃金と遅延損害金の支払いを求めた事案である。 東京地裁は、〔1〕厳格な手続要件を備えた法的再建手続の下で事業再建を図るべく会社更生手続開始の申立てに至ったのはやむを得ないことであり、大幅な事業規模の縮小に伴う適正規模の人員体制への移行は必要不可欠であり、人員削減の実行は必要性が極めて高かったこと、〔2〕限られた期間内では希望退職の募集等の方法によっては必要稼働数を超える人員の削減を実現することができなかった中で、勤務実態に即した稼働ベースの考え方で算定した人員削減を整理解雇の方法によって実施することはやむを得ず、また人員削減数も必要性の程度との関係で均衡を保っていたこと、〔3〕解雇に当たって採られた人選基準は恣意の入る余地の少ない客観的、合理的なものであり、また若年層に厚い人員構成への転換も、将来の貢献度とともに、解雇対象者の被害度を客観的に考慮した結果であって、しかも提示された退職条件は、会社更生手続下にある同社としては割増退職金の支給を含む破格の内容であったと評価できること、及び〔4〕本件解雇に至るまでの組合との交渉も誠実で手続的相当性も備えているなど整理解雇として有効であるとして、Xらの請求をいずれも棄却した。
参照法条 : 労働契約法16条
労働基準法19条
労働基準法20条
会社更生法61条3項
会社更生法62条3項
体系項目 : 解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の必要性
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) /整理解雇 /協議説得義務
裁判年月日 : 2012年3月30日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ワ)1429
裁判結果 : 棄却
出典 : 労働経済判例速報2143号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 今津幸子、木下潮音、杉原知佳、川端小織・経営法曹研究会報71号1~81頁2012年7月 池田悠・論究ジュリスト2号242~249頁2012年8月 萬井隆令、醍醐聰、今野久子、宮里邦雄・労働法律旬報1774号32~47頁2012年8月25日 萬井隆令・労働法律旬報1774号19~31頁2012年8月25日 船尾徹・労働法律旬報1774号7~18頁2012年8月25日 幡野利通・労働法令通信2295号26~28頁2012年10月8日
判決理由 : 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐協議説得義務〕
 第1に、巨額の負債を抱え、これまで何度も策定された再建策が失敗に終わり、その後のタスクフォースの助言、指導及び機構の支援の下での再建も断念せざるを得なかった被告が、厳格な手続要件を備えた法的再建手続の下で事業再建を図るべく本件会社更生手続開始の申立てに至ったことについては、やむを得ない事情があったということができるし、そのような状況にあった被告は、いわば一旦沈んだ船であり、二度と沈まないように、大幅な事業規模の縮小に伴う適正規模の人員体制への移行を内容とする事業再生計画を策定することが必要不可欠であったということができる。また、被告が機構からの出資金を3年の法定期限内に返済するためには、主要行からリファイナンスを受けて、これを原資に本件更生計画における更生債権の弁済計画を前倒しして実行することにより、本件会社更生手続を遅くとも平成23年3月31日までに終結させた上、株式会社としての安定的な経営実績を一会計年度に亘って積み上げ、株式を再上場するという枠組みの中で資金調達を図ることが有効であるとの経営判断は、合理的なものあったということができる。そして、その際、大幅な更生債権の減額を余儀なくされる主要行にリファイナンスの実行を求めるためには、主要行等の債権者をはじめとする多くの利害関係人との間の利害調整の上で策定された本件更生計画及びその基礎となる本件新事業再生計画が滞ることなく完全に実行に移される必要があったことも認められる。そうすると、上記内容の盛り込まれた事業再生計画の下では、大幅に縮小される事業規模に応じた必要稼働数を超える人員が余剰となることは必至であり、これを解消するための人員削減は、限られた期間内に実施すべき上記枠組みの資金計画の中で、リファイナンスのための条件設定及び実施に至る期間も見込んだ結果として、平成22年12月31日までに実行する必要性が極めて高かったというべきである。
 第2に、被告は、必要稼働数を超える人員の削減を図ると同時に、将来の企業貢献度を考慮して人員構成の再構築を企図し、従業員の年齢構成を若年層を厚くする方向に転換すべく、まずは、再三に亘る希望退職措置の方法で任意の退職者を募集し、その対象を休職者、病欠者のほか、概ね中高年層に限定する内容の人選基準を設けたが、一連の希望退職措置においては、一旦倒産状態に陥った更生会社であるにもかかわらず、退職金の割増支給を含む非常に手厚い退職条件を提示した上、併せて、その当時、採用可能な各種の解雇回避措置を実施した。しかしながら、被告は、恒常的な営業利益の上昇を必ずしも期待することができず、リスク耐性も未だ盤石とはいい難い中、上記枠組みの資金計画に基づく債務の弁済計画の実現のための限られた期間内に、希望退職の募集等の方法によっては、必要稼働数を超える人員の削減を実現することができなかった。そのような中、原告ら客室乗務職の勤務実態に即した稼働ベースの考え方で算定した必要稼働数を超える人員の削減を整理解雇(本件解雇)の方法によって実施することは、やむを得なかったものと評価することができるし、本件解雇における人員削減数についても、その必要性の程度との関係で均衡を保ったものであったということができる。
 第3に、本件解雇に当たって採用された本件人選基準のうちの休職者基準、病欠日数・休職日数基準、年齢基準は、いずれも使用者である被告の恣意の入る余地の少ない客観的なものであったし、人事考課基準についてはそもそも該当者がなく、当該基準の当否を判断するまでもない。そして、休職者基準、病欠日数・休職日数基準については、過去の病欠歴を基に被告に対する将来の貢献度を推定する基準として合理的であるということができるし、年齢基準についても、若年層に厚い人員構成への転換を図るべく、被告に対する将来の貢献度とともに、解雇対象者の被害度を客観的に考慮した結果として設定されたものであって、合理性があるものと評価することができる。しかも、解雇対象者に提示された退職条件は、一旦倒産状態に陥って会社更生手続下にある企業の整理解雇であることに鑑みると、割増退職金の支給を含む破格の内容であったと評価することができる。
 第4に、被告は、本件解雇に至るまでの間、CCUとの間で、再三に亘って事務折衝及び団体交渉を重ね、その都度、関係資料を配付して人員削減の必要性等についての被告の立場を真摯に説明したり、予定された交渉時間を超過して協議に応じたりしており、手続的相当性も備えていたものということができる。
 以上の第1から第4までの判示を総合すると、本件解雇は、被告の就業規則52条1項4号の「企業整備等のため、やむを得ず人員を整理するとき」に該当し、整理解雇として、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認めることができるから、有効であるというべきである。