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ID番号 : 08887
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 日本航空運航乗務員解雇事件
争点 : 旅客航空会社の運行乗務員らが整理解雇を無効と主張して地位確認及び賃金等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 会社更生手続開始申立、吸収合併、更正手続終結等を経て、商号変更した航空運送事業等グループ企業の中核会社Yと労働契約を結ぶ運行乗務員X1らが、整理解雇を無効と主張して地位確認及び賃金等の支払を求めた事案である。 東京地裁は、〔1〕Yにおいては、解雇を行った当時、全ての雇用が失われる破綻的清算を回避し、利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画の履行として、事業規模に応じた人員規模とするため人員を削減する必要があったこと、〔2〕Yは、2度の特別早期退職及び4度の希望退職の募集等を行うなど、本件整理解雇に先立って一定の解雇回避努力を行ったこと、〔3〕解雇対象者の選定は、明示の人選基準をあらかじめ運行乗務員が所属する各労組に示した上でこれを適用して行ったもので、その内容も解雇対象者の選定基準としての合理性を有するものであることが認められ、他方、〔4〕本件解雇を行うに当たり、解雇対象者の理解を得るように努めていて、整理解雇が信義則上許されないと評価するだけの事情は認められず、また、管財人が権限を濫用したものとも認められないとして、X1、X2に対する平成22年12月分の基準外賃金支払請求のみ認め、それ以外の請求を全て棄却した。
参照法条 : 労働契約法16条
会社更生法209条1項
会社更生法167条1項5号
体系項目 : 解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の必要性
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) /整理解雇 /協議説得義務
裁判年月日 : 2012年3月29日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ワ)1428/平成23(ワ)14700
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1055号58頁/労働経済判例速報2144号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 宮里邦雄・労働法律旬報1766号6~8頁2012年4月25日 今津幸子、木下潮音、杉原知佳、川端小織・経営法曹研究会報71号1~81頁2012年7月 池田悠・論究ジュリスト2号242~249頁2012年8月 萬井隆令、醍醐聰、今野久子、宮里邦雄・労働法律旬報1774号32~47頁2012年8月25日 萬井隆令・労働法律旬報1774号19~31頁2012年8月25日 船尾徹・労働法律旬報1774号7~18頁2012年8月25日 戸谷義治・日本労働法学会誌120号230~240頁2012年10月
判決理由 : 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
〔解雇(民事)‐整理解雇‐協議説得義務〕
 (2) 人員削減の必要性〔中略〕
 以上によれば、被告では、巨額の債務超過による破綻的清算を回避し、更生手続により事業再生するための事業遂行の方策の一つとして、当初から事業規模を大幅に見直し、それに応じて人員・組織体制を効率化し、人員を削減することが掲げられ、可決・認可された更生計画でも、事業規模に応じた人員体制とすることが内容とされていたものと認められる。
 イ 被告は、上記更生計画の更生計画案の提出に先立ち、路線便数に関して、平成22年4月28日までに下期計画を、同年8月20日までにこれを一部変更した確定下期計画を策定した。その内容は、不採算路線を運休・撤退するとともに、ビジネス需要に対応した路便網を維持・拡充することにより収益性の高い路線構成への転換を企図するものであり、上記の更生計画案の考え方に沿うものであることはもちろん、経営判断としての合理性を欠くと評価する事情は存しないものである。確定下期計画によって、同年10月以降の被告が運航する路線便数は、国際線・国内線ともに大幅に減少するのであり、上記の内容の更生計画案は、確定下期計画による事業規模に応じた人員体制とすることをその内容としていたものというべきである。そうすると、被告が、確定下期計画実行前の同年9月の段階で、本件人選基準と基本的に同一の基準を示し、運航乗務員の削減目標人数を設定したことは、上記の更生計画案の内容に照らして、十分に合理性が認められることになる。そして、確定下期計画による運航便数を前提として必要な運航乗務員を、どこまで削減することが可能であるかを検討した結果、同月末日の人員から稼働ベースで371名(第一次希望退職措置の応募者を含む。)を削減する必要があると判断したことは、上記の更生計画案を実現する上からは、必要な措置であるというべきであるし、この判断自体、合理性の認められるものであるということができる。そして、同年12月31日までの希望退職の応募者の累計は稼働ベースで291名となり、必要削減数に照らして、稼働ベースで80名足りなかったのであるから、同日付けの時点で、それだけの数の人員削減を実現することが、更生計画の内容として必要であったと認めることができる。〔中略〕
 エ 以上によれば、被告においては、本件解雇(平成22年12月31日)当時、全ての雇用が失われる破綻的清算を回避し、利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画の要請として、事業規模に応じた人員規模とするために、人員を削減する必要性があったと認めることができる。
 (3) 解雇回避努力
 ア 被告は、本件解雇に先立ち、平成20年10月に賃金の5%減額を行い、平成22年4月~同年12月の間に基準内賃金及び代表的な手当の各5%減額等を行ったこと、これにより、JALIの運航乗務員の平成22年度の賃金水準は平成17年度の約75%の水準にまで低下したこと、被告は、平成22年3月~同年8月の間、2度にわたり、所定退職金に加えて一時金を支払うという条件で特別早期退職を募集して約374名の運航乗務員が応募したこと、同年9月~同年12月9日の間に、4度にわたり、所定退職金に加えて一時金を支払うという条件で希望退職を募集して、稼働ベースで279名の運航乗務員が応募したこと、同月10日~同月27日の間に、希望退職を募集して、稼働ベースで12名の運航乗務員が募集したことが認められる。
 これによれば、被告は、本件解雇に先立ち、一定の解雇回避努力を行ったことが認められる。〔中略〕
 (4) 人選の合理性〔中略〕
 カ 以上によれば、本件解雇の対象者の選定は、明示の人選基準である本件人選基準を作成し、これをあらかじめ運航乗務員が属する各労働組合に示した上で、これを適用することによって行われたのであり、その内容も本件解雇の対象者の選定基準としての合理性を有するものであるから、本件解雇の対象者の選定は合理的に行われたものと認めることができる。
 原告らは、本件解雇は、日本航空機長組合や上部団体での役員・執行委員の経歴を有する者等、労働組合活動の中心を担ってきた者を排除して、その弱体化を図ったものであると主張するが、本件解雇の対象者の選定が管財人片山の恣意によらない基準によって行われたことは、繰り返し指摘したとおりであるから、原告らのこの点の主張は採用できない。
 (5) 解雇手続の相当性等の整理解雇が信義則上許されない事情〔中略〕
 以上のような本件解雇を行うにあたって被告が採った手続の過程から、特に整理解雇が信義則上許されないと評価するだけの事情は窺われないのであり、かえって、更生手続下で、本件解雇の対象者に対しても、所定退職金の他に、平均約350万円の特別退職金と所定解雇予告手当の趣旨も含む賃金5か月分の一時金を支給して、その不利益を緩和する措置を採ったことをも併せ考慮すると、本件解雇の過程において、整理解雇が信義則上許されないとする事情は認められないといわなければならない。
 被告が、人員削減目標数の確定に労働組合を関与させなかったこと、本件解雇と人件費との関係について具体的な数値で説明していないことは、原告ら指摘のとおりであるが、本件解雇が破綻的清算を回避し、利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画の履行として行われたものであることに照らすと、原告ら指摘の事実から、整理解雇である本件解雇が信義則上許されないと評価するだけの事情は認められないと解するのが相当である。
 (6) 判断
 以上によれば、被告は、本件解雇を行った平成22年12月当時、破綻的清算を回避し、利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画の履行として、事業規模に応じた人員規模にするために、人員を削減する必要があったこと、被告は、特別早期退職及び希望退職の募集等一定の解雇回避努力を行ったこと、解雇対象者の選定は明示の人選基準により合理的に行われたことが認められ、他方、被告は、本件解雇を行うにあたり、解雇対象者の理解を得るように努めていて、整理解雇が信義則上許されないと評価するだけの事情が認められないから、本件解雇は、管財人が有する権限を濫用したものとは認められないという結論になる。