全 情 報

ID番号 : 08889
事件名 : 未払一時金請求事件
いわゆる事件名 : 立命館(未払一時金)事件
争点 : 学校法人教職員らが一時金(賞与)減額支給を不利益変更により無効として差額支給を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 私立大学等を運営する学校法人Yの教職員Xらが、一時金(賞与)を減額して支給されたことにつき、従前の一時金を基準額とすることが具体的請求権として労働契約の内容となっており、不利益変更は無効でありまた誠実交渉義務違反に当たるとして、差額と遅延損害金の支払を求めた事案である。 京都地裁は、Yは、14年間もの間、組合との間で一時金を基準額とする労働協約を締結し、Xら教職員に対して同額を支給し、回答書や協議内容においても6カ月を下回る一時金の支給を考えていたとさえうかがわれないのであるから、6カ月以上の一時金を支払うとの規範意識があったこと、Yは平成15年度において、6カ月でさえ現在の社会的状況から大きく上回っている水準である旨の考えを表明しているが、回答書において6カ月を目指すとの方針を堅持するとしていること、Yと同規模の他の私立大学(9私大)と比較するとYの教職員の年収が低い水準にある状況からして、企業経営上、一時金水準を切り下げる差し迫った事情があったとはいえず、労使慣行を変更する高度の必要性があったとは認められないこと、Yは組合に対して何度も説明したといえるものの、より丁寧な説明が求められる点もあり、結果として合意に達していないと認定し、本件減額変更は、Xら教職員に対し法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできないとして差額の支払いを命じた。
参照法条 : 労働組合法14条
労働組合法16条
労働基準法92条1項
体系項目 : 賃金(民事) /賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 /賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
就業規則(民事) /就業規則の一方的不利益変更 /賃金・賞与
裁判年月日 : 2012年3月29日
裁判所名 : 京都地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)3702/平成19(ワ)3780/平成20(ワ)3899/平成21(ワ)4887
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1053号38頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)‐賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額‐賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔就業規則(民事)‐就業規則の一方的不利益変更‐賃金・賞与〕
 3 一時金を本件基準額とすることが労働契約の内容となっていたか(争点(2))〔中略〕
 よって、被告が、14年間もの間、本件組合との間で一時金を本件基準額とする労働協約を締結し、原告ら教職員に対して同額を支給し、回答書や協議内容等においても6か月を下回る一時金の支給を考えていたことさえうかがわれないのであるから、経営状態が悪化したりするなど人件費抑制の必要性が高くなった場合、本給のベースアップをするなどして賃金体系を見直したために一時金の額を引き下げる必要がある場合などの特段の事情がない限り、6か月以上の一時金を支払うとの規範意識があったといえる。そして、本件全証拠によっても、平成17年度ないし平成19年度に、上記特段の事情があったとは認められない。
 なお、被告は、平成15年度において、6か月でさえ現在の社会的状況から大きく上回っている水準である旨の考えを表明しているが、同回答書においても6か月を目指すとの方針を堅持するとしており、被告が、6か月を下回る額の一時金を支払うとの意識を有していなかったことは明らかである。また、(人証略)は、平成14年度に、6か月を目指すと回答したことについて、評価報奨制度の導入のためであり、その前提を欠くと6か月を目指さないかのような供述をするが、評価報奨制度が議論になる前から6か月を目指すと被告は回答しているのであり、同人の供述は採用できない。
 他方、原告らにおいても、一時金として6か月以上が支給されるとの規範意識があったことは、前記認定事実から認めることができる。
 よって、原告らと被告との間で、少なくとも年6か月の一時金を支給することが労働契約の内容となっていたものと認めるのが相当である。
 4 一時金を年6か月とすることが労働契約の内容となっていた場合、それを変更することに合理性はあるか(争点(3))〔中略〕
 本件一時金額とした当時、被告の財政状態が良好であったことは前記認定事実から明らかであり(被告もこの点は争っていない。)、被告と同規模の他の私立大学(9私大)と比較すると被告の教職員の年収が低い水準にある状況からして(〈証拠略〉)、企業経営上、一時金水準を切り下げる差し迫った事情があったとはいえず、当該労使慣行を変更する高度の必要性があったとは認められない。また、被告は、学生生徒等の父母の年収や学費の負担が重いことを理由として挙げているが、学生生徒等の納付金を減額するなど父母の負担軽減の措置をとるために被告の教職員の一時金を減額するのであれば格別、前記のとおり安定した収入があるのをそのままにして、明確な使途があるわけでもないのに、国家公務員や民間企業等と比較して一時金の水準が高いことのみから教職員の一時金を減額する合理性を認めることはできない。さらに、被告は、一時金減額の救済ないし激変緩和措置としての経過措置をとっておらず、何らの代償措置も行っていない。被告は、平成17年度の回答において、3、4年を目途に手当額等機敏な対応措置をとるとし、平成20年度に、被告の教職員について全体平均で6.3%もの大幅な基本賃金のベースアップをしたことは前記のとおりであるが、本件一時金額としたことと当該措置とは関係性を有せず、平成17年度ないし平成19年度の本件一時金額に当たって考慮することはできない(なお、平成20年度以降の一時金の額を検討するに当たっては、このベースアップを十分に考慮すべきである。)。
 そして、本件組合との交渉経過は前記1(2)ネ及び2のとおりであって、被告は、本件組合に対して何度も説明したといえるものの、より丁寧な説明が求められる点もあり、結果として合意には達していない。
 以上を総合的に考慮すると、当該労使慣行(年6か月分の一時金を支給すること)を本件一時金額とする旨の変更は、原告ら被告の教職員に対し、これを法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない。