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ID番号 : 08897
事件名 : 賃金等請求事件
いわゆる事件名 : 日本機電事件
争点 : 建築現場仮設資材関連会社の元従業員が、廃止された退職慰労金等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 建築現場仮設資材の製造、販売、リースを主たる業務とする株式会社Yの営業担当の従業員であったXが、退職慰労金並びに退職までの間の時間外割増賃金及び付加金の各支払い(各遅延損害金を含む。)を求めた事案である。 大阪地裁は、Yが行った退職慰労金規定の廃止には合理的な理由がなく、また同廃止の手続(従業員代表の意見聴取手続)にも不備があることに加えて、Yにおいて退職年金制度の廃止はともかく、本件退職慰労金規定まで廃止する必要性があったことを認めるに足りる的確な証拠は見出しにくいことをも併せかんがみると、同規定の廃止(就業規則の不利益変更)は無効であるとした。その上で、YのXに対する退職慰労金の不支給理由があるとはいえず、また、XのYに対する退職慰労金請求が信義則に反し、権利の濫用に該当するとも解されないとして、62万円の支払いを命じた。また、時間外割増賃金についても認定できる限りで支払いを命じ、Y主張の管理監督者性を斥けた(ただし、付加金については否認)。
参照法条 : 労働契約法11条
労働契約法12条
労働基準法41条2号
労働基準法37条4項
労働基準法114条
体系項目 : 就業規則(民事) /就業規則の一方的不利益変更 /退職金
賃金(民事) /退職金 /退職慰労金
労働時間(民事) /労働時間・休憩・休日の適用除外 /管理監督者
雑則(民事) /付加金 /付加金
裁判年月日 : 2012年3月9日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)17700
裁判結果 : 一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1052号70頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔就業規則(民事)‐就業規則の一方的不利益変更‐退職金〕
〔賃金(民事)‐退職金‐退職慰労金〕
 1 争点1(本件退職慰労金規定廃止の有無等)について〔中略〕
 (2) 本件退職慰労金規定の廃止の有無ないしその適否〔中略〕
 イ 以上のとおり、本件退職慰労金規定廃止の合理性に関する被告の主張に理由がなく、上記認定説示したとおり、同廃止の手続(従業員代表の意見聴取手続)にも不備があると認められることに加えて、被告において、平成17年1月当時、退職年金制度の廃止はともかく、本件退職慰労金規定まで廃止する必要性があったことを認めるに足りる的確な証拠は見出し難いこと(なお、被告は、業績の悪化により、将来的に本件退職慰労金規定を維持、存続していくことが困難となったと主張するが、同主張を裏付けるに足りる的確な証拠は認められない。)をも併せかんがみると、本件退職慰労金規定の廃止(就業規則の不利益変更)は無効といわざるを得ない。〔中略〕
 4 本件退職慰労金請求に関するまとめ
 以上のとおりであって、原告は、本件退職慰労金規定に基づいて、被告に対し、退職慰労金として62万円の支払請求権を有していると認めるのが相当である。
〔労働時間(民事)‐労働時間・休憩・休日の適用除外‐管理監督者〕
 5 争点4(時間外割増賃金請求権の有無及びその額)について〔中略〕
 (5) 管理監督者性の点について
 被告は、上記4(被告)(3)記載の各点を挙げて、原告が、労基法上の管理監督者に該当すると主張する。
 ア ところで、労基法41条2号に規定する「管理監督者」とは、企業経営上の必要から、経営者と一体的な立場において、同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、賃金等の待遇やその他勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置がとられているので、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、当該労働者の保護にかけるところがないという趣旨によるものであると解するのが相当である。〔中略〕
 被告は、原告が部下のJに対して営業のやり方を指示、指導していた旨主張し、同主張に関連する証拠[〈証拠略〉]を提出するが、原告のJに対する指導内容は、一般的なものであって、上司部下の関係以上に、管理監督者性を根拠付けるものであるとまで評価することはできない。)、以上の点からすると、被告は、C会長の下、代表取締役等の役員が会社運営に関して判断及び決定していたところ(ただし、この点は、取締役会設置会社においては当然のことではある。)、被告が、幹部社員であると称していた原告を含む従業員については、特段同判断決定過程に参画し、同過程で意見を述べ、それらが会社運営に反映されるというようなことがあったとまで認めることはできない。そうすると、原告は被告の取締役ではなく、直接経営判断に関与することはなかったとしても、上記認定した事実を総合的に勘案すると、原告が経営者と一体的な立場に立って業務に従事していたとまで評価することはできない。
 ウ また、証拠(〈証拠略〉、原告、被告代表者)及び弁論の全趣旨によると、〈1〉原告は、病気によって欠勤した場合は、事後的に欠勤の申請をし、承認を受けることが必要とされていたこと(被告代表者)、〈2〉原告が、営業の現場に直行直帰する場合には、上司であるB取締役に事前に連絡をし、その了解を得ていたこと、〈3〉原告が現場に直行して朝礼に出席できない場合には、事前のその旨報告する必要があり、同欠席の点は、C会長に報告されていたこと(〈証拠略〉)、以上の点が認められ、これらの点からすると、原告については、出退社等に関する裁量が認められていたとまでは認められない。
〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕
 5 争点5(付加金請求の成否及びその額)について
 (1) 証拠(〈証拠略〉、原告、被告代表者)及び弁論の全趣旨からすると、被告は、これまで原告に対して時間外割増賃金を支払ったことはなかったと認められること、上記4(5)で認定説示したとおり、原告は、管理監督者に該当しないことからすると、被告は、労基法に違反して、原告に対する時間外割増賃金を支払っていなかったと解さざるを得ない。
 (2) もっとも、上記第4の4(被告)(3)記載の被告主張及び上記4(5)で認定説示したとおり、被告は、原告を労基法上の管理監督者に該当するとして、他の従業員に比して高額な賃金(役職手当20万円を含む60万円)を支給していたこと、被告は、原告に対し、幹部会議への出席などを要請し、原告は、同会議に出席するなど、形式的には幹部社員として待遇されていたこと、労基法上の管理監督者に該当するか否かは種々の事情を考慮した法的判断を要求されるものであること等諸般の事情を総合的に勘案すると、本件に関しては、被告が原告に対して時間外割増賃金を支払わなかったことをもって、付加金の支払義務を負わせることは相当とはいえない。したがって、この点に関する原告の付加金請求については採用しないこととする。