ID番号 | : | 08904 |
事件名 | : | 労働災害補償金不支給決定処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | |
争点 | : | 建築工事請負業事業主の現場下見中の事故死につき妻が遺族補償給付等不支給の取消しを求めた事案(妻敗訴) |
事案概要 | : | 建築工事請負会社代表取締役Aが、受注を希望していた工事の予定地の下見に赴く途中で事故により死亡したことに関し、その妻Xが「業務上死亡に当たる」として労災保険特別加入に基づく遺族補償及び葬祭料の支給を求めたところ不支給処分とされたため、これの取り消しを求めた事案の上告審である。 第一審広島地裁は、本件下見は、事業主が事業経営の主体として独立して行う経営の意思決定に関わるような業務ではなく、労働者が使用者の指揮監督の下で賃金の対価として行い得る労働者により代替できる業務であることからAの死亡は労働者の行う業務に準じた業務の遂行中に生じたもので、「業務上死亡に当たる」として本件処分を取り消した。これに対し第二審広島高裁は、本件下見は、従業員の業務とされておらず代表者の業務とされていることから、下見行為を労働者が行う業務に準じたものということはできず、Aの死亡は「業務上死亡に当たらない」として第一審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。Xが上告。最高裁第二小法廷は、中小事業主の特別加入の制度は、建設の事業を行う事業主については、個々の建設等の現場における建設工事等の業務活動と、事務所を拠点とする営業・経営管理その他の業務活動とがそれぞれ別個の事業であって、それぞれの業務の中に労働者を使用するものがあることを前提に、各別に保険関係が成立するものであり、事業主が使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ、本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは、当該営業等の事業に保険関係の成立する余地はないから特別加入の承認を受けることができず、当該業務に起因する事業主又は代表者の死亡等に関し、その遺族等が法に基づく保険給付を受けることはできないとして上告を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法3条 労働者災害補償保険法27条 労働者災害補償保険法28条 労働保険の保険料の徴収等に関する法律3条 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則6条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険
/補償内容・保険給付
/遺族補償(給付) 労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /葬祭料 労災補償・労災保険 /労災保険の適用 /使用者・事業主 |
裁判年月日 | : | 2012年2月24日 |
裁判所名 | : | 最高二小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成22(行ヒ)273 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 最高裁判所民事判例集66巻3号1185頁/裁判所時報1550号19頁/判例時報2158号140頁/判例タイムズ1376号130頁/裁判所ウェブサイト掲載判例 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 夏井高人・判例地方自治353号113~115頁2012年4月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐遺族補償(給付)〕 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐葬祭料〕 〔労災補償・労災保険‐労災保険の適用‐使用者・事業主〕 4(1) 法28条1項が定める中小事業主の特別加入の制度は、労働者に関し成立している労災保険の保険関係(以下「保険関係」という。)を前提として、当該保険関係上、中小事業主又はその代表者を労働者とみなすことにより、当該中小事業主又はその代表者に対する法の適用を可能とする制度である。そして、法3条1項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律3条によれば、保険関係は、労働者を使用する事業について成立するものであり、その成否は当該事業ごとに判断すべきものであるところ(最高裁平成7年(行ツ)第24号同9年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事181号25頁参照)、同法4条の2第1項において、保険関係が成立した事業の事業主による政府への届出事項の中に「事業の行われる場所」が含まれており、また、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則16条1項に基づき労災保険率の適用区分である同施行規則別表第1所定の事業の種類の細目を定める労災保険率適用事業細目表(昭和47年労働省告示第16号)において、同じ建設事業に附帯して行われる事業の中でも当該建設事業の現場内において行われる事業とそうでない事業とで適用される労災保険率の区別がされているものがあることなどに鑑みると、保険関係の成立する事業は、主として場所的な独立性を基準とし、当該一定の場所において一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体を単位として区分されるものと解される。そうすると、土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業(同施行規則6条2項1号。以下「建設の事業」という。)を行う事業主については、個々の建設等の現場における建築工事等の業務活動と本店等の事務所を拠点とする営業、経営管理その他の業務活動とがそれぞれ別個の事業であって、それぞれその業務の中に労働者を使用するものがあることを前提に、各別に保険関係が成立するものと解される。 したがって、建設の事業を行う事業主が、その使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ、本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは、上記営業等の事業につき保険関係の成立する余地はないから、上記営業等の事業について、当該事業主が法28条1項に基づく特別加入の承認を受けることはできず、上記営業等の事業に係る業務に起因する事業主又はその代表者の死亡等に関し、その遺族等が法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきである。 (2) 前記事実関係等によれば、A社は、建設の事業である建築工事の請負業を行っていた事業主であるが、その使用する労働者を、個々の建築の現場における事業にのみ従事させ、本店を拠点とする営業等の事業には全く従事させていなかったものといえる。そうすると、A社については、その請負に係る建築工事が関係する個々の建築の現場における事業につき保険関係が成立していたにとどまり、上記営業等の事業については保険関係が成立していなかったものといわざるを得ない。そのため、労災保険の特別加入の申請においても、A社は、個々の建築の現場における事業についてのみ保険関係が成立することを前提として、Bが行う業務の内容を当該事業に係る「建築工事施工(8:00~17:00)」とした上で特別加入の承認を受けたものとみるほかはない。 したがって、Bの遺族である上告人は、上記営業等の事業に係る業務に起因するBの死亡に関し、法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきところ、前記事実関係等によれば、本件下見行為は上記営業等の事業に係る業務として行われたものといわざるを得ず、本件下見行為中に発生した本件事故によるBの死亡は上記営業等の事業に係る業務に起因するものというべきであるから、上告人に遺族補償給付等を支給しない旨の本件各処分を適法とした原審 |