ID番号 | : | 08906 |
事件名 | : | 休業補償給付不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 木更津労働基準監督署長事件 |
争点 | : | 製鉄所で石綿粉じんにばく露した労働者が休業補償給付の不支給処分の取消しを求めた事案(労動者勝訴) |
事案概要 | : | 製鉄所で石綿取扱業務に従事し、クリソタイルを中心とする石綿粉じんにばく露したXが、原発性肺がんに罹病したのは業務に起因するとして休業補償を求めたところ不支給とされたため、これの取消しを求めた事案である。 東京地裁は、石綿ばく露作業に従事した労働者が肺がんを発症した場合に、それを業務上の疾病と認めるか否かは、当該作業従事期間が「10年以上」で、肺組織内に職業上の石綿ばく露の可能性が高いとされる程度の石綿小体又は石綿繊維の存在が認められる医学的所見が得られれば、業務上の疾病として認めるのが相当であるとした。その上で、本件では、Xの石綿小体数は1000本を少し超える程度ではあるが、「一般人より明らかに高いレベル(職業ばく露の可能性が強く疑われる)」に位置づけられること、また、1000本以下であるからといって職業ばく露の可能性を直ちに否定できるとまではいい難いことなどからすれば、肺組織内に職業上石綿ばく露の可能性が高いとされる程度の石綿小体が残存していたと評価することが相当であり、一方、喫煙及び遺伝的要因など他に肺がん発症の原因となり得る要因を抱えているとも認められないから、Xは10年以上に及ぶ石綿ばく露作業に従事したことによって業務上石綿にばく露し、その結果肺内に吸入された石綿を原因として肺がんを発症させたもので、本件疾病は業務に起因するとして処分を取り消した。 |
参照法条 | : | 労働基準法75条2項 労基法施行規則35条 労基法施行規則別表第1の2第7号7 労災保険法7条1項1号 労災保険法12条の8第2項 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険
/業務上・外認定
/災害性の疾病 労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /休業補償(給付) |
裁判年月日 | : | 2012年2月23日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21(行ウ)337 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例1048号85頁/労働経済判例速報2139号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐災害性の疾病〕 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐休業補償(給付)〕 (4) まとめ 以上によれば、石綿ばく露作業に従事した労働者に肺がんが発生した場合、その肺がんについて業務上の疾病と認めるべきか否かについては、当該労働者による石綿ばく露作業従事期間が「10年以上」であれば、当該労働者の肺組織内に職業上の石綿ばく露の可能性が高いとされる程度の石綿小体又は石綿繊維の存在が認められる医学的所見が得られれば、肺がんが業務上の疾病として認めるのが相当というべきである(なお、石綿ばく露作業に従事したことによって一般通常人ではあり得ない量の石綿に業務によりばく露したため、肺がんが発症したことを裏付けるため、肺組織内の石綿小体又は石綿繊維の数量については、一般通常人のそれに比べて明らかに多いことが一つの目安となり得るだろう。ごく僅かな、一般通常人と同等の数量の石綿小体又は石綿繊維しか残存していなければ、肺がんの業務起因性について更なる検討が必要となる可能性がある。)。 2 本件疾病の業務起因性について〔中略〕 イ 上記アの事実によれば、上記(ウ)の基準(E証人執筆部分)においても、原告の石綿小体数は1000本を少し超える程度のものではあるが、クリソタイルによるばく露であると考えられるにもかかわらず「一般人より明らかに高いレベル(職業ばく露の可能性が強く疑われる)」に位置づけられること、また、1000本以下であるからといって、職業ばく露の可能性を直ちに否定できるとまではいい難いことなどからすれば、原告の肺組織内に職業上石綿ばく露の可能性が高いとされる程度の石綿小体が残存していたと評価することが相当である。 (3) 原告の喫煙歴、遺伝的要因の有無等〔中略〕 ウ 原告が、上記の喫煙及び遺伝的要因のほかに、肺がん発症の原因となり得る要因を抱えていることを認めるに足りる証拠はない。 (4) まとめ 以上によれば、原告は10年以上に及ぶ石綿ばく露作業に従事したことによって業務上石綿にばく露し、その結果、原告の肺内に吸入された石綿を原因として本件疾病を発症させたものであり、本件疾病の発症は業務に起因するものと認めるのが相当である。 |