全 情 報

ID番号 : 08908
事件名 : 賃金等請求事件(160号)、損害賠償等請求事件(1号)
いわゆる事件名 : 東栄衣料破産管財人ほか事件
争点 : 破産した会社のベトナム人研修生(技能実習生)らが未払賃金支払、損害賠償等を求めた事案(研修生一部勝訴)
事案概要 : 破産した衣料縫製会社のベトナム人研修生(その後技能実習生)Xらが、〔1〕破産管財人Y1に対し研修期間、技能実習期間中の未払賃金の支払い及び会社が劣悪、苛酷な環境で酷使したとの不法行為に基づく損害賠償請求権を破産債権として有することの確定、及び〔2〕第一次受入れ機関であるY2組合及び組合役員らに対して不法行為による損害賠償等を求めた事案である。 福島地裁白河支部は、まずY1に対して、本件会社はベトナム人研修生及び技能実習生が日本人の常勤職員に比べて安価に使用することができることから、日本人の常勤職員の代替として使用する意図をもって縫製作業に従事させていたと認定した。その上で、研修時間の内外を問わず、本件会社の指揮監督の下に業務に従事していたと評価することができ、これら研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であると認められることから、時間外だけでなく研修時間内の従事時間についても賃金が支払われるべきで、当該行為自体が不法行為に当たると認定し、またY2の対応についても、会社の不正行為を隠蔽し又は加担するものであったというほかなく、不法行為法上違法というべきであるとした。一方、組合役員らについては、防犯に関する講習や日本語研修等は一定程度行っていたこと等からして、不法行為法上違法とまでは認められないとして斥けた。
参照法条 : 労働基準法9条
賃金の支払の確保等に関する法律6条
民法709条
民法719条1項
中小企業等共同組合法38条の3第1項
体系項目 : 労基法の基本原則(民事) /労働者 /外国人研修生
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
労働契約(民事) /成立 /成立
裁判年月日 : 2012年2月14日
裁判所名 : 福島地白河支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(ワ)160/平成22(ワ)1
裁判結果 : 各一部認容、一部棄却
出典 : 労働判例1049号37頁
審級関係 :
評釈論文 : 倉持惠・労働法律旬報1775号32~33頁2012年9月10日
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)‐労働者‐外国人研修生〕
〔労働契約(民事)‐成立‐成立〕
(2) そこで、原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であるか検討するに、前記(1)の各認定事実のとおり、本件契約によれば、研修生となる者は日本で修得しようとする技術に係る業務に一定程度従事した経験があることが予定されており、実際にも原告らはいずれもベトナムにおいて縫製の経験を有していた者であったこと、原告らが研修期間中に従事した縫製作業はそうした経験から修得していた技術でおおむね対応し得るものであり、そうした技術を有していた原告らが研修時間外に長時間の縫製作業に従事していたこと、本件会社は研修期間中の時間外に作業を行わせて報酬を支給することが禁止されていることを知悉しながら、原告らが来日する前に、来日後には研修時間外の作業を行わせる意図をもって、その報酬である「ざんぎょう」代金が1時間あたり300円であると説明し、実際にもその旨の支払をしていたこと、原告らに対する非実務研修は全く行われていなかったものではないが、基準省令や本件指針に定められた時間行われていたとは認められないこと、原告らの研修期間であった平成18年12月には、本件会社(浅川工場を含む)におけるベトナム人研修生及び技能実習生の比率は2割弱にも達しており、時間外作業を命じる場合には、最低賃金額を下回る手当しか支給しないベトナム人研修生及び技能実習生を優先させていたことからして、本件会社では、ベトナム人研修生及び技能実習生は、人件費上重要な位置付けにあったことなどのことが認められるところである。以上の事実を総合すると、本件会社は、ベトナム人研修生及び技能実習生が日本人の常勤職員に比べて安価に使用することができることから、日本人の常勤職員の代替として使用する意図をもって、縫製作業に従事させていたものと認めざるを得ない。そして、上記事実関係の下では、原告らに対する非実務研修が全く行われていなかったわけではないことをもって、研修時間中は研修生としての実態を有していたとはいえず、原告らは、研修時間の内外を問わず、本件会社の指揮監督の下に本件会社の業務に従事していたと評価することができる。
 そうすると、原告らの研修期間の実態は労働基準法9条等所定の労働者であると認められ、原告らに対して、研修時間外の従事時間に対してのみならず、研修時間内の従事時間(各人別表の「争いのない従事時間(時間)」の「平日」欄の時間)に対しても、労働基準法等に基づく賃金が支払われるべきである。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
二 争点2(被告らの不法行為(共同不法行為)の成否)について
1 本件会社の不法行為の成否(争点2の1)〔中略〕
 この点、本件会社が原告らを安価な労働力として利用する意図を有していたこと、原告らを長時間労働させ、労働基準法等所定の賃金を支払わなかったことが認められることは前記アのとおりであり、その意味では原告らの労働環境は悪いものであったと認めることはできるものの、本件会社が強制的に労働させたとまでは認められないことは前記アで認定判断したとおりである。また、原告らを欺いて来日させたという点、逃亡したり逃走したりできない環境を作り上げたとする点は、これを認めるに足りる証拠はない。
 ウ そして、前記アで認定した本件会社の行為は、個別に見れば不適切、不相当であることが明らかであり、労働基準法等に違反する行為が含まれ、賃金請求権が発生するものであるが、全体として見れば、上記にとどまるものではなく、原告らが本件制度の予定していた研修及び技能実習の適切な運用を受け、支払われるべき金員の処遇等に関して労働基準法等の遵守を受けることなく、原告らが恒常的に長時間、労働基準法等に違反する低賃金での労働を余儀なくされたという意味において、原告らの人格権を侵害し、不法行為法上違法というべきである。そして、争いのない事実等と争点2の1における認定事実とを総合すると、本件会社に故意又は過失があることは明らかであるから、本件会社には、全体として原告らに対する不法行為が成立する。
2 争点2の2(被告組合の不法行為の成否)について〔中略〕
 以上に認められる本件事実関係の下では、被告組合には前記特別の事情があると認められる。
 ウ そうすると、本件組合には、本件事実関係の下では、研修期間及び技能実習期間を通じて、本件会社の不正行為を調査し、抑止するとともに、不正行為を地方入国管理局長に報告するべき義務があり、これを怠った場合には、研修生及び技能実習生の人格権を侵害するものとして不法行為法上違法と評価すべきところ、本件認定事実を総合すると、被告組合は、本件会社が原告らの研修期間の実態、長時間の時間外労働、休日労働、手当又は賃金からの天引き、旅券の預かり等について看過できない重大な不正行為があることを認識し、客観的に当該不正行為を抑止し、解消することができる立場にあったにもかかわらず、適正な監査を実施しなかったばかりか、上記に関する事項について実態とは異なる監査結果を記載し、特段の問題が認められなかった旨の監査結果報告書を仙台入国管理局長に提出し、技能実習期間に関する報告書を作成したものと認められる。上記作為及び不作為は、本件会社の不正行為を隠蔽し又は加担するものであったというほかなく、上記被告組合の作為及び不作為は、原告らの人格権を侵害するものとして不法行為法上違法というべきである。そして、以上の事実によれば、被告組合に故意又は過失があることは明らかである。
 エ なお、被告組合は、自身が行うべき非実務研修(集合研修)を、本件指針のとおりには行っておらず、研修が行われなかった分は原告らが本件会社での作業に従事することとなったが、防犯に関する講習や日本語研修等は一定程度行っていたことや、原告らが本件会社で従事することとなった期間は長いものではなく、その従事分に対しては労働者としての賃金請求権が認められること(争点1の認定判断)からして、上記のことが不法行為法上違法とまでは認められないというべきである。